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桃side
カーテンから差し込む太陽の光が当たって、俺は必然的にゆっくりと目を開ける。
ぼんやりとした頭をなんとか起こして、隣にまろがいないことを確認してから床へと足を下ろす。
まろの部屋の端にある勉強用の横長机に置かれた、目覚まし時計が指す時刻は6:38。
この家に暮らし始めた時は、今までの疲労も溜まっていて起きるのが少々遅めになっていたが、今日は特別。
__早く起きなければいけない理由があるのだ。
ないこ
階段を急いで駆け降りて、リビングに通じる扉のノブを勢いよく回し開けると、中の様子も確認せずに興奮したような口調で俺は言った。
ほとけ
初兎
朝から元気なほとけっちと、まだ少し眠いのか目元を擦ってあくびをした初兎ちゃんが、こちらに向かって手を振りながら言った。
りうら
ぴょっこりと俺の前に現れたりうらが、そう言いながら俺にギュッと抱きつく。
その温もりと暖かさに負けて、俺も彼をギュッと抱きしめた。
少しその状態を続けていると満足したのか、りうらは俺から静かに離れ、高めのテンションで俺の目の前に立つ。
そしてクルリと その場で回ってみせた。
りうら
りうら
ないこ
ないこ
「そうだよ!」とニッコリ笑ったりうらの格好は、とても彼に合っているものだった。
白い半袖シャツに腰巻きのパーカー、赤いネクタイを付けていて、前髪は俺がこの前プレゼントしたヒヨコの飾り付きのゴムで結ばれている。
「よく似合ってる」と親指を上に立てれば、りうらは太陽のような笑顔を見せて「嬉しい」とピョンピョン飛び跳ねる。
りうら
ないこ
洋服に対するセンスは、俺なんかに聞くよりももっと適した人がいるはずだろう。
俺がそう言えば、りうらは「俺をよく知ってるないくんじゃないといけないの!」と頬を膨らませた。
「そうかなぁ?」と苦笑しながら、りうらの丸くなった頬をツンツンとつつくと、彼は息苦しくなったのか「ぽへ」と変な声を出して息を吐いた。
りうら
りうら
ないこ
ないこ
「まろって料理出来たんだ・・・・・・」と新しい情報を手に入れたところで、俺は二階に上がりまろの部屋に入る。
まろの部屋とは言っても、部屋数が足りないらしく、ずっと俺も使わせてもらっているから実質俺とまろの部屋ではないか。
いや、それはさすがに調子に乗りすぎだよね。ごめんなさい。
そんな独り言を心の中で呟きながら、部屋の中に置いてある自分の全体像が見えるぐらいの鏡の前に立つ。
その鏡の横の棚に置かれた、新品の通学バックと少し使い古された通学バック。
どちらも同じ高校のもので、それぞれ俺のとまろの。
もう既に気づいている人も多いと思うが・・・・・・今日は俺とりうらの新しい学校への転入の日なのだ。
元々中学、高校共に今日が夏休みからの始業式の日で、俺たちは始業式と同時に転入することになった。
ないこ
夏休み期間で用意した中身が入っているかどうか、ガサゴソとバックを漁り確認する。
「よし、全部あるね」と一通り確認が済んだところで、俺の視線にふと一着の服が目に入った。
ハンガーにかけられている、薄めのブラウンを纏ったブレザー。 赤いネクタイ。 ブレザーと同じ色のズボン。 それからピンクのカーディガン。
__全て俺の新しい高校での制服だ。
夏休み中、 しっかり申請も済ませ俺たちは正真正銘の黒木家の一員となった。
黒木家のお母さんとはあの買い物後の夏休み終盤、お母さんが海外から日本へ帰ってきた時に実際に紹介してもらっていた。
その際に俺たちがこの家で暮らすための全ての申請を、役所にて済ませることができたのだ。
つまり、今日から俺は『桃崎ないこ』改め『黒木ないこ』なのである。
ないこ
あんまり早く着替えてしまうと、万が一ご飯がこぼれた時に新しい制服が当日、すぐにクリーニング行きになってしまう。
だが人の本能なのか、新しいものを見ると『早く身につけたい』という欲望が自分の身体を取り巻く。
ないこ(悪魔)
ないこ(天使)
まるで誕生日前に欲しいプレゼントを買って貰ったが、当日まで開けちゃだめ、と親に止められている子供のような気分で制服と睨めっこしながら、自分の中の天使と悪魔を戦わせる。
が、そのすぐ後、部屋の扉がコンコンとノックされた。
扉の外からは『ないこ、いるか?』と朝から変わらず元気な、アニキの声が少し篭って聞こえてくる。
ないこ
俺がそう返事をすると、アニキはガチャっとドアノブを捻って扉を開け、『朝飯できたから降りてこいよ』と一言俺に声をかけた。
『はーい』と軽く返事をして、俺は制服はお預け、とバッグのチャックを閉め、まろの部屋からリビングへと向かう。
いふ
ないこ
朝ご飯の器を運びながら挨拶をしたまろに挨拶を返しつつ、大きく一つ置いてあるリビングの机を囲む年下組の隣に腰を下ろす。
全ての食器を運びきったまろとアニキも俺たちと同じように、テーブルの周りを囲うようにして座った。
ほとけ
りうら
悠佑
アニキの言葉の後、みんなで手を合わせて「いただきます」と言ってから、茶碗を手に取り箸を握る。
いつも通り(主にほとけっちが)騒ぎつつ全員が朝ご飯を食べ終えると、既に時刻は7:16。
まろたちから事前に聞いていた家を出る時間は7:30、時々電車の遅延なども起きるらしいからなるべく早く出るのが正解だろう。
ないこ
新しい制服を身に纏い、俺は鏡の前でドレスを着たお姫様のようにクルリと一回転してみせた。
慣れていない服は着るとテンションは上がるが、自分に似合っているのかわからず少しむず痒い。
いふ
ないこ
音もなく入ってきたまろに驚いて肩を震わせつつ、先程用意したバッグを手に取り肩にかけて部屋を出る。
階段を降りる途中、少し心配に感じた俺がまろに「制服変じゃない?」と聞いたら、彼は「似合ってるよ」と優しく微笑んだ。
その言葉に安堵しながら玄関の方へ身体を向けると、俺らと同時に家を出発する予定だったのか、靴を履いている年下組とアニキがいた。
初兎
ほとけ
「ほら、急いで靴履いて!」と俺たちを急かすほとけっちに流されながら、初兎ちゃんが玄関の扉を開ける。
悠佑
大学生のアニキは今日大学の講義はないらしく、俺たちを玄関から見送ってくれた。
みんな
__雲一つない快晴の青空に、五人の手を振る影が浮かび上がった。