コメント
1件
赤side
ほとけ
ないこ
初兎
高校と中学の分かれ道らしい場所で、ないくんといふくんに手を振りながら二人が笑顔でそう言う。
俺はほとけっちに腕を引っ張られ、初兎ちゃんには背中を押さながら。ないくんはいふくんの隣を歩きながら。それぞれ別の道へと歩いていく。
ほとけ
初兎
二人の優しい歌声を感じながら、見慣れない道を両手を繋がれたままの状態で歩き続ける。
時々リュックサックに付けられたキーホルダーがチリンと音を立て、俺たちの髪の毛を真夏とは思えない柔らかい風がそっと揺らした。
どこまでも続く住宅街。
ふわふわの毛並みをそよがせて散歩する犬と、その飼い主さん。
全部が全部、前の家の近くと殆ど変わらない景色のはずなのに、なぜか暖かくて明るく、輝いて見える。
まるで今まで絵の具で塗られず真っ白だったキャンバスが、一筆でほんの一瞬で色づいていくような感じ。
__なんだか不思議な感覚だった。
ほとけ
りうら
すると突如、ほとけっちが一つの方向を指差して、興奮したようにそちらへと走っていってしまう。
俺は離された右手と、中学への道とは関係の無さそうな暗い道へ駆けて行ったほとけっちを何回も見比べた。
今すぐにでも追いかけて止めるべきか、そう脳内で考えていたら、気付けば初兎ちゃんもほとけっちを追いかけて道へと入っていた。
りうら
初兎
初兎
りうら
慌てて俺も 初兎ちゃんについて行った。
住宅の塀に囲まれて狭い道に入ると両手を前に出し走りながら、何かを捕まえようとしているほとけっちの背中が見えた。
ほとけ
初兎
りうら
躊躇いもなくどんどん先に進んでいく二人を追いかけて行くと、今まで暗くてぼんやりとしか見えなかった道に一つの光が見えた。
もしかしてあそこに行けば、開けた場所に出るのだろうか。
この二人に着いて行って良かったのか、と多少不安のあった俺は、とりあえず明るいところへ出られるのかと安堵して短く息を吐く。
ほとけっちと初兎ちゃんがその光へ飛び込んでいったのを見て、俺も思わず走るスピードを速めて明るい場所へ足を踏み入れた。
そこには先程までの住宅街とは全く違った景色が__あるわけでもなく、雰囲気的には変わらない住宅が並んでいた。
それはそうだ、だって感覚からするとここから見える家は全部さっきの家と同じだから。 違いは家の裏側だったか表側だっただけ。
りうら
気づけば見失っていた二人をキョロキョロと見回して探していると、空き地の奥にある建物との区画を区切るフェンス前にあった、大きな木を見上げている二人がいた。
俺はとりあえず二人の方に駆け寄る。
りうら
初兎
こちらを振り返った初兎ちゃんが申し訳なさそうに眉を下げる。
りうら
りうら
ほとけ
俺の言葉を遮って、ぼーっと遥か上の木を見上げながらほとけっちがそう言った。
初兎
りうら
「僕もそう言っとるんやけどね」と初兎ちゃんは、ほとけっちを横目で見ながら苦笑する。
初兎
りうら
少なくとも俺たちが登れる高さの木ではないし、そもそも猫の位置が木を覆う葉っぱでよく見えない。
そんな状態でどうにかしたいだなんて、俺たちに出来ることは何一つないだろうし。
りうら
ほとけ
初兎
初兎
りうら
初兎ちゃんが話している途中にも関わらず、ほとけっちは少し考えた仕草をした後フェンスの方へと走って行く。
そしてフェンスの網目に手をかけた後__さらに足をかけて少しずつフェンスを登り始めた。
りうら
初兎
ほとけ
俺たちの止める声にも耳を傾けず、ほとけっちはどんどんフェンスを登って行く。
だいぶ上まで来ると、木の方向に手を伸ばしてなんとか枝を掴もうとしていた。
もう既に止められないことを悟った俺たちは、 顔を見合わせ頷くとほとけっちが落ちてきても下敷きになれるようにヒヤヒヤしながらも彼の下へと行く。
初兎
ほとけ
ほとけっちの伸ばした手が、丈夫で太い木の枝を掴む。
それと同時に彼はフェンスを蹴り、その枝の上へと飛び乗って静かに待つ小猫を優しく抱き寄せた。
その瞬間、突如強い風が吹いて__ほとけっちがバランスを崩す。
初兎
ほとけ
真っ逆さまに落ちて行くほとけっちを見て思わず目をギュッと瞑ってしまった俺は、特に大きな音がすることが無いことを不思議に感じて恐る恐る目を開ける。
するとそこには、ほとけっちをギリギリでキャッチしたのか下に座り込む初兎ちゃんと、彼の膝の上で猫を抱きながら乗っかるほとけっちがいた。
りうら
ほとけ
初兎
そう言いながら膝を軽く初兎ちゃんの顔には、少しだけあざができている。
そしてほとけっちにも、葉っぱに擦れて出来たのか頬の部分が少しだけ血が出ていた。
ほとけ
ほとけ
何事もなかったかのように猫を逃すほとけっちと、地面に座り込んだまま動かない初兎ちゃんに急いで駆け寄った俺は焦りながら二人に尋ねる。
りうら
初兎
ほとけ
りうら
首を傾げた俺に二人は苦笑しつつ、フェンスの奥にある建物を指差した。
初兎
りうら
ほとけ
ほとけ
さも当たり前のように初兎ちゃんに手を差し伸べたほとけっちたちに困惑しながらも、俺はフラフラと歩く二人を心配しつつ着いていく。
初兎
ほとけ
初兎
ほとけ
りうら
結局、始業式が始まっているのに保健室に行った俺たちは、『始業式にボロボロで学校に来た三人組』として学校中に名が知れ渡ったのだった。
__てか転入日がこれって、本当に今後の学校生活大丈夫なの?!