ユエ
かしこまりました。

ユエ
次の質問が終わったら、キジマ様の血液をイワノ様に輸血するということで。

ユエ
ホンドウが頷いているのを見るに、技術的にも問題はないのでしょう。

イワノ
先輩……ありがとうございます。

イワノ
(体がきついのは間違いないけど、ここでキジマの馬鹿の気が変わったらまずいからな)

イワノ
(必要以上に弱っているように見せる)

ユエ
ではキジマさん、最後の質問を。

キジマ
じゃあ、イワノ。

キジマ
最後の質問だ。

イワノ
(どんな質問をするのか分からないけど、ここは本当のことを答えるしかない)

キジマ
内心では……まだ僕のことを見下している。

イワノ
……は?

イワノ
あ、あの――ちょっと待ってください。

イワノ
これって、俺の気持ちの問題ですよね?

イワノ
そのファイルに答えが書いてあるわけではないだろうし、俺が嘘をついたかどうかなんて分かるわけがない。

ユエ
確かに、そうでございますね。

ユエ
まず、私が判断を下すことは難しいでしょう。

イワノ
こ、こう言う時はどうするんだよ?

ユエ
――キジマさんに決めてもらうしかないのでは?

イワノ
(キジマに決めさせる?)

イワノ
(そんなことをしたら、絶対に俺が不利になる答えを出さないか?)

イワノ
(ここで【イエス】と答えると、嘘はついていないけどキジマの心象が悪くなる)

イワノ
(でも【ノー】と答えれば、キジマの心象は悪くならなくても、嘘をつくことになる)

イワノ
(どっちを答えてもリスクが生じる。まさか、この状況を作り出すために、わざと――)

キジマ
イワノ、深く考える必要はない。

キジマ
お前が今思っていることを答えればいい。

キジマ
それが答えだからさ。

イワノ
あの、輸血は絶対にしていただけるんですよね?

ユエ
はい、そちらはキジマさんの提案ですから、当番組としては必ずや行使しなければならないと思っております。

イワノ
(どっちを答えてもリスクがある。それならば――)

イワノ
(キジマ、俺は知ってる……)

イワノ
(お前は馬鹿みたいにお人好しなやつだってな)

イワノ
【ノー】です。俺が間違ってました。

イワノ
だって、こんな俺を助けてくれるんですよ。

イワノ
見下してるわけ、ないじゃないですか――。

キジマ
そうか。

キジマ
イワノの口から、その言葉が聞きたかったんだ。

キジマ
イワノがそう思っているのなら、それが正解なんだろうね。

キジマ
おかげで決心がついたよ。

キジマ
ユエさん、今さらですけど和解します。

キジマ
ルール上、和解ってことになるんだろうけど、これだけは自分の口で言いたくて。

イワノ
(やった……。やった、やった、やった、やった!)

イワノ
(馬鹿め!)

イワノ
(お前は俺より格下なんだよ!)

ユエ
はい、これにて和解成立でございます。

ユエ
それでは、キジマさんからイワノさんへの輸血を行います。

ユエ
準備をさせていただくので、少々お待ちを。

イワノ
(結局、抜かれた血液は500ミリリットルだから、死にはしないだろうけど、お人好しのキジマの提案だからなぁ)

イワノ
(まぁ、こんな妙な番組に出て、血を抜かれたなんて話になるのも恥ずかしいし、ここは甘んじた輸血してもらいましょうか)

ホンドウ
はい、それじゃあ失礼しますよ。

イワノ
(それにしても、突発的な提案だったろうに、よく輸血できる環境があったな)

準備をするホンドウを尻目に、イワノは小さく溜め息を漏らす。
ホンドウ
それじゃあ、キジマさんはこっちの椅子に。

イワノは血を抜くため、元から椅子に座っていたのだが、その隣に同じような椅子が準備され、そこにキジマが座る。
ホンドウ
それじゃ、始めます。

ホンドウ
かなり原始的なやり方なんで、かなり時間がかかるとは思いますけどね。

ユエ
それでは、今回は見事に和解成立ということで、お2人の微笑ましいお姿にて、お別れとなります。

イワノ
(微笑ましい?)

イワノ
(そんなわけないじゃん!)

キジマから抜かれた血が、管を伝ってイワノの体に入ってくる。
イワノ
(とにかく、これで和解成立)

イワノ
(キジマぁ、そういう優しさってのは、自らの破滅を招くから、気をつけたほうがいいよ)

キジマ
なぁ、イワノ。

イワノ
……なんですか?

キジマ
さっきの質問の答え……本音か?

イワノ
当たり前じゃないですか。

イワノ
それにしても助かりましたよ。

イワノ
キジマ先輩、いやキジマが思っていた以上に馬鹿で!

イワノが本音を吐き出すと、キジマは寂しそうな表情を見せてうつむく。
イワノ
もう和解も成立してるから、この際はっきり言っておいてやるよ!

イワノ
お前は俺より格下だし、どれだけ努力しようとも、俺の足元にも及ばない!

イワノ
低学歴は低学歴らしく、俺の手足になって働けよ!

イワノ
まぁ、やっぱりさすがは高卒。

イワノ
まんまと俺の演技に騙されたねぇ。

もはや和解は成立しているのだから、何を言っても構わない。
そんな傲慢な態度のイワノに対し、キジマはうつむいたまま口を開いた。
キジマ
イワノ……まだカメラが回ってるって知ってた?

イワノ
は?

イワノ
(なるほど、こうして俺の本性を世の中に晒そうって魂胆か)

イワノ
残念でしたぁ!

イワノ
俺はこんなことで動揺しないの。

イワノ
ネットで何を言われようとも、見ず知らずのやつに何と思われても関係ない。

イワノ
俺は晒されてもダメージないんだよ!

ユエ
……イワノさん、カメラが回っている理由は、そんな小さなことではありません。

ユエ
キジマさん、そろそろ本当のことを教えて差し上げては?

キジマ
そうですね。

キジマ
僕の判断は間違っていないと思いますし、自業自得ですよね?

ユエ
はい……。

イワノ
(何だよ、急に空気が変わったみたいな……)

キジマ
イワノ、僕さ――会社にもずっと秘密にしていたことがあるんだ。

イワノ
ひ、秘密にしていたこと?

キジマ
俺……HIVに感染しているんだよ。

イワノ
え、HIV?

ユエ
もっと分かりやすく言えば、エイズ……でございます。

ユエ
日常的に感染する例としては、性行為がございます。

ユエ
それ以外だと、注射針の使い回しなどでも感染いたします。

ユエ
血液感染ですからね……。

ユエ
すなわち、HIV感染者の血液を輸血するなど、もってのほかです。

イワノ
はぁ?

イワノ
おい、これ!

イワノ
抜いて、抜いてくれよ!

無理矢理針を抜こうとするが、しかし上手く抜けない。
ホンドウ
もう手遅れですよ。今さら針を抜いたところで。

キジマ
イワノ、今回の一件、心から本当に悪いと思っていたのなら、変な見栄なんて張らないはずなんだ。

キジマ
たかだか3問。

キジマ
しかも、観ている人間も限定的な放送であるにも関わらず、イワノは自分の見栄を選んだ。

キジマ
お前はこれからも嘘に塗れて生きていく。

キジマ
これまで正直に生きてきた僕は、いずれ緩やかに死んでいくのに。

キジマ
だから……道連れだ。

ユエ
もし、イワノさんが3問の質問に素直に答えていたのなら。

ユエ
この時だけでもいいから、嘘をつかずにいられたのであれば。

ユエ
そもそも輸血は不要でした。

イワノ
キジマ、てめぇぇぇぇ!

キジマ
殴るなり好きにしなよ。

キジマ
何をしたって、もうお前の未来は変わらない。

キジマ
発病に怯えながら生きていくことになるんだ。

キジマ
どう?

キジマ
高卒に出し抜かれた気持ちは?

イワノ
く、くそ……。

イワノ
こんなこと、あってたまるかぁぁぁぁ!

ユエ
ふふふふっ……今回も良いものが見れました。

ユエ
それでは今回はここまで。

ユエ
【断罪の魔女】

ユエ
また、次回……お会いしましょう。

ユエが締めると、ゆっくりと会場のスポットライトが落ちていく。
そう、緩やかに、ゆっくりと死へとむかうかのごとく。