そう言うと彼は、一瞬迷うような 表情を見せたが
ついにその言葉を口にした。
死ぬ間際に走馬灯が見えるというのは 本当だ、と思った。
私の脳裏では彼との思い出が 駆け巡っていた。
彼と初めて言葉を交わしたのは 去年の夏だった。
放課後の誰もいない教室で、 窓から飛び降りようとしていた私を 見つけたのは
忘れ物を取りに来た彼だった。
脱ぎ揃えてある上履きと、ベランダに 出ていた私を見て
彼は目をギョッとさせた。
私が学校中から疎遠されていたものだから、色々と察したのだろう。
慌ててこちらに駆け寄り、 死のうとする私を引き留めた。
普通、ここは自殺を止められたことに 腹を立てるものなのだろうが
その時私は全く逆の感情を 抱いていた。
何故だろう、彼が私を引き留めて くれたことが
それが、何よりも嬉しかったのだ
それが、何よりも幸せだと思ったのだ
その時、私は決意した。
彼に見捨てられるまで、生きようと。
それからというもの、私は事あるたびに自殺行為に走り
彼に幾度となく、自殺行為を自殺未遂に変えて貰っていた。
しかし、私が幸せを感じていくの とは反対に
彼が疲れ果てていくのは自分でも 分かっていた。
そして今日、ついに彼から終わりの 言葉が告げられた。
彼は精一杯皮肉と中傷を込めて 口にしたようだが
そこには迷いと動揺が入り混じって いた。
優しい彼だから、きっと本気で 死んでもいいだなんて 思っていないのだろう。
しかし、私はもう
彼を解放してあげようと思ったのだ。
最後くらいは、笑顔で
彼の目に、美しく刻まれるように。
私は彼に向かってにこりと微笑むと
まるで背中に翼でもついているか のように
悠々と、窓から空へと飛び出した。
でも、欲を言うなら
もう一度だけ止めて欲しかったな、 なんて。
コメント
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こんなにも容赦なく病んでいて こんなにも最後まで救いがなく あまりに薄暗さを覚える作品なのに なぜ作中から感じられるのが陽光なのか…… カサミネさんの作品は本当に、光と影が読み手に陰影を覚えさせてくれます…… 大好きです……!!
切なくて…深い話ですね… 素敵です😉
切なくて、素敵です...✨ なんかもう表現ひとつひとつがもう...(語彙力が...)