あれから、自室でカミサマ?と向き合いながらこの世界に関する情報を耳にしていく。
ここはそもそも私の前世と異なる異世界…
時代換算で言うところ、16世紀頃の文化形態を有する世界との事だ。
世に出回る技術なども多くは前世と同じだが…
大きな違いに、魔力やマナと呼ばれる目に見えない力が世界各地で生じるらしい…
マナも魔力も根本は同じで、生物は魔力を体内で作ることができるとも聞く。
人間の場合、魔力は血液同様骨髄から生成し体内を循環、脳が心臓の代わりとして全身へ魔力を送り出す臓物として機能するそうだ。
それを、詠唱や呪文を唱える等特定の所作を行う事で思い浮かべた属性と呼ばれる形に代わり体外に排出される。
これが魔法と言うものの原理だそうだ。
カミサマモドキ野郎
と言ったところが基本だが、魔法は奥が深くてね…
使う人間によってもその表れ方は千差万別の形になるのが通例だ。
保安官…
ちょっと待って…?
原理としては分かりましたけど使う人間によって変わってくる…
つまり魔法の表れ方に個人差があるという事ですけどその違いとは何ですか?
カミサマモドキ野郎
国家や文化による違いだ。
この世界も貴殿の前世同様いくつもの国があってね。
それぞれの国によって魔法の詠唱や発動させるための所作というものが細かく違っている。
保安官…
何故そこまで細かく違うのです?
カミサマモドキ野郎
例え話だが…
「I eat apple」
という文章あるだろ?
保安官…
いきなり「私はリンゴ食う」とか宣言されても…
カミサマモドキ野郎
例え話だからそこはいいのだよ💢
だが、これが別の国…
例において極東の「日本」
という国の文法にそのまま当てはめると
「私食べますリンゴ」
という文章になる
保安官…
ほぉ…
カミサマモドキ野郎
と、国の言語に例えたが…
この世界の魔法に関する考え方もそういった各国の文法の違いみたいな物がある。
という点を抑えてくれると助かる。
保安官…
国によって「言葉」の文法という違いがあるように、国の文化の違いによって魔法の現れ方も若干異なる…ということですね?
カミサマモドキ野郎
そういう事。
魔法はそのほとんどが人の手によって紡がれた歴史の上に成り立ってきた。だからこそ細かい違いという差異が生じる。
だが、探究すればするほどより強力により精密になっていく代物でもある。
だから同じ魔力を使うものだからと侮ってかかると痛い目見るから用心だ。
またその他に…
魔法とは異なる祈祷と言う技も存在する。
保安官…
祈祷?
カミサマモドキ野郎
ネイティブ・アメリカンの呪文みたいなものだ。
保安官…
あの怪しい薬とか化粧施すヤツですか…
カミサマモドキ野郎
そういう偏見、相手によっては大ひんしゅくだから改めるべきだよ…
祈祷というのは要するに、体内の魔力を糧に、祈りや特定の掲句を唱える事で神の奇跡を発現するというものになる。
保安官…
どちらも魔力を使って行うモノなのに…それらの違いとは?
カミサマモドキ野郎
祈祷には信仰という考え方が必要だ。
というのも、この世界にも神々の教えというものが存在してね。
そういった存在がかつて奮ったとされる奇跡を信仰という考えを元に再現する…それが祈祷という別物の力だ。
保安官…
…祈祷が、神から紡がれた祈りを捧げて神の奇跡を再現するのに対し…
…魔術は、人から紡がれた詠唱を通して人の叡智を行使する…ということでいいでしょうか?
カミサマモドキ野郎
その認識でいい。
まぁ、魔法にしろ祈祷にしろ敵が使ってきたら厄介なものには間違いない。
そこは用心したまえよ?
保安官…
…肝に銘じておきます
その次に、この世界に存在する人間の敵についての話を聞くことになった…
カミサマモドキ野郎
魔獣……モンスターやクリーチャーなんて呼ばれ方のする生き物がこの世界にはいる。
保安官…
ルイス・キャロルの鏡の国のアリスに登場するジャバウォックみたいな化け物ですか?
カミサマモドキ野郎
おや、イギリス生まれの童話まで知ってるとは恐れ入るね
保安官…
妻のアメリアが文学物や暦書の類い好きだったのでその影響です
カミサマモドキ野郎
愛妻家だね保安官殿。
まあこの世界にはそういう魔物がゴロゴロいる。
龍も入れば他にも色んな形の魔獣がね
保安官…
何故そこまで物騒な…
カミサマモドキ野郎
この世界の生き物は人含め魔力を体内で生み出せると言ったが…
それは動物も同じだ。
ただ、野生環境の場合食物連鎖の関係で強い動物に捕食され…他の生き物を食い続けた動物は魔力も食らい、結果的に強力な魔獣へと変貌する。
まぁ元より龍を始めとした魔法生物という種類の生き物がこの世界には大昔からいた訳だがね…
保安官…
もはやおとぎ話ですね…
カミサマモドキ野郎
そうとも…ただ御伽噺みたいだからといって現実は甘くない。魔獣という存在は簡単に人の命を一捻りにできてしまう。
貴殿も警戒を怠らずだよ
保安官…
間違いありませんね…分かりました…
今日は本当に色々と斬新な話を聞く…
そろそろ頭が痛くなってきたが…
ここで聞き漏らす訳にも行かない…
最後まで食らいつく。
次にカミサマ?から私のいる国についての話を聞いた…
ハイネリウス王国…
西に強大な海洋から中央の大平原と東に山岳地帯
北は、かなりの強国と国境を巡る戦端が開かれ…南には平原と並行して東方向に大森林が拡がっているという。
人口はおよそ15万人、そこに準ずる形で2万5000人の王国軍が点在している。
ちなみに、この世界での一国の将兵の平均はおよそ2万人と言われており、その点においてハイネリウス王国は平均よりもやや多い部類に入るそうだ。
ちなみに、15万人というと私の知る合衆国のニューヨークで30万人、次に多いボルチモアやニューオリンズで10万と少し、中々の規模だ…
武装や軍事面においては、主要の武器は弓やクロスボウに加え、魔法といった飛び攻撃を始め、
剣や槍、斧といった武装が主流な上、騎兵同士の突撃勝負というものが日常茶飯事に繰り広げられているらしい…
…
……
保安官…
あ、あの…クロスボウや弓、魔法が飛び道具って事ですけど…
銃は!!!???
カミサマモドキ野郎
銃?
保安官…
いや!さっきこの世界の文化形態が16世紀頃って聞きましたけど!
その頃と言えばマッチロック式のライフルとか大砲出てる時代ですよね!
それらは!?
カミサマモドキ野郎
…
私にとって嫌な沈黙が流れた…
その後、カミサマ?が両手を組みその上に頭を乗せ、微笑みながら静かに口を開いた…
カミサマモドキ野郎
ありません!まだ未発達です!
保安官…
な……な……!
カミサマモドキ野郎
ナナ…ホシテントウ虫?
保安官…
ちがぁう!!!
なんでそう痒いところに手の届かない文明発達してるんですかホントにもぅ💢!
カミサマモドキ野郎
ぐがぁ!!?
ちょ、ちょっと!!
身を乗り出して!ワタヒの鼻に指指指指ぃぃぃ!!!!
保安官…
うるさぁぁぁい💢!
こちとら出先でもなんとかなると見積もってたんですぅ💢!
リボルバーは無理でもペッパーボックスとか!なんならフリントロック式とかでも手に入るなら御の字と思ってたのに!!!
どうしてくれるんですか!
私の期待を返せぇぇぇぇ💢!
カミサマモドキ野郎
かーかーか!
完全に八つ当たりじゃぁないかぁぁぁ!!
仕方ないだろぉ…!
貴殿の前世にあったような火薬兵器というもの発想する民が現れなかったんだからぁぁ!!
もっと言ってしまえば貴殿の世界にあった火薬という物の製法がまだ見つかってないぃ!
だーれも知らないもの材料にした武器なんて誰が考えつくかって話だろぉぉぉ!!!
保安官…
ま…まぁ、そこまで言われると確かに…
カミサマモドキ野郎
ふぅぅ…
ぁぁぁ…!
そのうち鼻の穴広がりそうだぁ…
保安官…
あの、そこから察するにですけど…もしかしてこの世界。
モンゴルや大清帝国の様な国存在しないですか?
火薬を生み出した国というと古くは古代中国が5、600年頃に黒色火薬を作ったと記憶してます。
それらを考える民が現れなかった…
つまり、そういう民族が生まれる国がないという事ではありませんか?
カミサマモドキ野郎
いや、あるにはある。実際に遙か東の大陸には別の名前の遊牧民族の国家や、極東と呼ばれる四方が島国に囲まれている国というのも存在してるよ。
ただ…そういう国があるにもかかわらずこの世界で火薬という代物が産まれなかった理由…
保安官…
……魔法と祈祷
カミサマモドキ野郎
その通り
火薬も元々は瞬発的に発火させられる魔法の様な薬を追い求め、当時の人々が心血を注いだ結果生まれた奇跡だ…
そこには何百年という人々の努力もあった…
しかし、この世界ではそれらの努力を魔法や祈祷という手段が見事に奪い去ってしまった。
唱える事で多くの問題が解決してしまう…
便利なものがあるなら誰も敢えて苦労なんかしないのさ…
…この話を聞いて、ふと前世を思い返した…
かつて、私が街の治安を守っていた時に使っていた銃、コルト・ドラグーン2nd…
こいつはリボルバーマガジンに、火薬と鉛の弾丸を前方から込め、後ろに発火剤の雷管を付けることで射撃する事ができた…
弾薬の装填に3つの行程が必要で、乱戦時には中々手を焼いたのが懐かしい…
その後、装填する為の行程がひとつに簡略化できるフルメタル・ジャケット、そしてシングルアクションアーミーが登場してからというもの、名うてのガンマンの多くが元の愛銃を旧世代と呼んで放り捨てた…
私もそのひとりだ…
人間とは時に利便性を追い求める、それは至極当たり前のことだ…
だが…このような形で自分に馴染みのあるものが無い世界というのは
言葉にできない寂しさを感じる…