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みゆ
『いつか、あなたのことを必要だって言ってくれる人がかならずあらわれる。そのとき、今がんばっている勉強がきっと役に立つはずよ』
1 もう勉強なんてしない
ただでさえ気が重い、九月のとある土曜日。
花丸円
ずざーっ
下校中にぼんやり歩いていたら、思いっきりコケた。
ロックをかけてなかったランドセルから教科書がとびでて、そこら中にちらばる。
花丸円
だれかに見られたかな、と思ったけど、さいわい、校門の周りには誰もいない。
放課後の校庭から、サッカー部が練習する声が聞こえるだけだ
花丸円
ひざをさすりながら、ため息
しかたなく、一冊ずつ教科書をひろいあつめる
国語、理科、社会。
そして算数…。
ぎゅっと指に力がはいる。
毎日繰り返しめくったせいで、どれもページがボロボロになっているけど……。
一本当は、勉強なんてすきじゃないんだ。
よくわからないし、面白くないし。成績もずっとペケ
今日返ってきたテストだって、全部サイアクで。
なかでも算数なんか、まさかの
7点………。
正直、超へこむけど。
それでも、私が今まで頑張ってきたのは―、
いつも頑張って偉いね〜!
どきっとして顔を上げる。
校門近くの道路を、5歳くらいの女の子とお母さんが手を繋いで通り過ぎていった
お母さんが小さな女の子を見つめる、優しい瞳。
花丸円
無意識に、ギリッと、唇を噛み締めた。
――いつも勉強頑張って偉いね!
頭の中に響く、ママの声
……私が勉強を頑張れたのは、ママが褒めてくれるのが嬉しかったから。
喜ぶママの顔を想像すれば、どんなに苦手な勉強でも、がんばれた…
だけど、もう―いないんだ
ママは一か月前、、突然、天国へいってしまったから。
花丸円
首をブンブン横にふる
勉強したって、意味ないもん。
褒めてくれる人が、喜んでくれる人がいないなら
……もう、勉強なんてしない!
4冊の教科書をかかえて、来た道をずんずんひきかえす
昇降口の前で右に曲がり、校舎の裏手へ。
日当たりの悪い裏庭
学校中のゴミを集めるゴミ捨て場の前で、足を止める。
花丸円
積み上がったゴミ袋に向かって、教科書を力いっぱい投げつけた
ドカッ
むぎゃっ
えっ。
なに?今、ゴミの中から悲鳴みたいなものが聞こえたような………?
花丸円
ハラハラと足元をみつめるけど、それらしきカゲはみえない。
花丸円
ハァと息をつき、ゴミ捨て場に散らばった4冊の教科書に、そっと目を通す
花丸 円
裏表紙に大きく書かれた、自分の名前。
四月―5年生になりたてのころ。
まあたらしいピカピカの教科書を持ち帰って、ママと一緒に書いた名前…。
『円ってね、まんまるで、欠けたところがないって意味なのよ。花丸円。100点満点のいい名前でしょ?』
『でも、わたし100点とったことないよ。テストはペケだらけだし……………』
『あら。ママにとって、円はいるだけで満点だからいいのよ。勉強はこれから頑張ろう!そうだ、苦手な科目も好きになれるように、教科書におまじない書いといてあげるね――』
ずきんっ
胸に走った痛みをふりはらうように、頭を強く横にふる。
花丸円
絶対にするもんか!
ぐっと拳をかためて、駆け出した
――背中で、からっぽのランドセルが、カタカタと鳴った。