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2人のバトルがとてもかっこよかったです…! 虚木さん、Twitterでタップ数を気にしてましたけど、リズムが良くて全く気になりませんでした…すごい バトルの描写が、文字なのにちゃんと情景を想像出来て、表現力すごいなって思いました(語彙力) あと家族揃って向こうにいけてよかった…素敵です
妖(あやかし)とは、
人を襲い、
人を喰らうモノ。
その生態は明らかになっておらず、
実に謎の多い存在となっている。
妖を倒せるのは
特別な訓練を受けた討伐隊と
そこに入る資格があるにも関わらず、
人と群れるのを苦手とするため
隊員にならなかった
用心棒だけだと言われている。
妖は特別な刀と
気術(きじゅつ)でしか
倒すことが出来ず、
それらを扱えないごく普通の人々は
妖に見つかれば食われるしかない
と言われてきた。
しかし、近年では
神の力宿る護符(ごふ)が
身分の低い人たちでも
容易く手に入るようになったため、
妖による被害は減少傾向にある。
・
・
ベニ
ベニ
ベニ
夜。
暗い森の中を歩く二人の影。
一人は短髪の男で、
腰に二本の刀をさしている。
コウ
もう一人は長髪の男で、
腰に短刀を一本さしている。
ベニ
コウ
ベニ
グチグチ言いながら歩く二人の顔は瓜二つで、
この国では珍しい双子だった。
旅人風の軽い装いから、
用心棒のように見えた。
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
不意に立ち止まるベニ。
コウ
コウ
コウも立ち止まり、
先に目をやる。
暗い森の中、
ぼんやりと青白く発光するモノがあった。
それはふわふわと
左へ右へと揺れている。
ベニ
コウ
ベニ
そう言って二人が歩き出すと、
青白く光るモノが近づいてきて
二人の前で止まった。
それは、
女の幽霊だった。
幽霊
幽霊
消え入りそうな声で尋ねてきた。
ベニが再び足を止めたので、
自然とコウも足を止める。
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
それもそうだ。
夜は妖が蔓延る時間帯。
抗う術を持たない者が
出歩くような時間ではない。
もし、討伐隊でも
用心棒でもないというのなら
自殺志願者ぐらいだ。
ベニ
幽霊
幽霊はベニの刀を指差す。
幽霊
幽霊
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
そう言って幽霊はその場に正座をし、
頭を深々と下げた。
コウ
ベニ
コウ
コウ
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
ベニはニヤリと笑みを浮かべ、
コウは重いため息をこぼした。
幽霊
幽霊
ベニ
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊はゆっくりと顔を上げる。
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
そして、再び頭を下げた。
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊は顔を上げる。
ベニ
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊はふわりと浮き上がった。
・
コウ
幽霊
ベニ
幽霊
幽霊
コウ
幽霊
幽霊
ベニ
コウ
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
コウ
コウ
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
コウ
コウ
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
ベニ
幽霊
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
ベニ
コウ
コウ
コウ
コウ
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
ベニ
ベニ
珍しくベニが眉間に皺を寄せる。
幽霊に案内された場所にあったのは、
小さな平屋だった。
しかし、
その壁や戸には
無数の札が貼ってあった。
ベニ
ベニ
聞かれたコウは目を細めて
平屋を見つめる。
コウ
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
コウ
ベニ
ベニ
戸に手をかけたが
うんともすんとも言わない様子だった。
ベニ
ベニは背を向けたまま声をかける。
コウ
ベニ
コウ
コウが短く返すと、
バキッ!
ベニは思い切り戸を蹴破った。
幽霊
辺りに木片と札が飛び散る。
幽霊
幽霊
驚く幽霊を尻目に、
双子は土足で平屋に入って行く。
中には上半身の無い遺体が一つ、
部屋の真ん中で
正座をしていた。
その足元に、
漆を塗った箱があった。
幽霊
幽霊が近づいて箱を指差し、
幽霊
そう言って部屋の隅を指差した。
ベニは箱に近づき、
そっと蓋を開ける。
中にはわずかな紙幣と
硬貨が入っていた。
ベニ
顔を上げて
部屋の隅へと移動したコウに尋ねる。
コウ
そう言って見せたのは
埃を被った一升瓶。
コウ
コウ
ベニ
ベニ
言いながら紙幣と硬貨を
雑に掴んで懐にねじ込んだ。
ベニ
ベニ
そして、
視線を閉じられた雨戸へと移す。
ベニ
ベニ
幽霊
バキッ!
こちらもまた容赦なくベニは蹴破った。
その先にあったのは、
広い庭だった。
庭の奥には立派な木があり、
その根本には干乾びた死体が一つ。
高僧のような服を纏い、
その胸には錫杖(しゃくじょう)が突き刺さっていた。
木は枯れていたが、
細い枝には色褪せた朱色の紐が張り巡らされ
ところどころに札が貼りつけられていた。
その朱色の紐は
周囲の木々の枝にも括り付けられ、
平屋を囲っているようだった。
コウ
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
幽霊
幽霊
幽霊
ベニ
ベニは心底興味のない返事をする。
しかし、
よく見れば死体はそれだけではなかった。
用心棒らしき死体が
庭には点々と転がっており、
そのほとんどがハラワタを食われていた。
ベニ
ベニ
幽霊
岩陰からゆったりとした動きで現れたのは
真っ黒な妖。
頭は烏のようで、
胴体は人、
腕は熊、
脚は狼のようだった。
ベニ
言いながらベニは楽しそうだった。
大きな瞳が三人を見つけると、
妖(あやかし)
妖は大きなクチバシを開けて吼え、
器用に二本の脚で駆けてきた。
コウ
ベニ
応戦するように、
ベニはその頭に回転蹴りを食らわせる。
吹き飛んだ妖は
朱色の紐に触れるギリギリのところで踏み止まり、
ギョロリと真っ青な瞳を前に向ける。
妖(あやかし)
眼前には
刀が迫っていた。
咄嗟に手を出し、
その刀身を掴んだ。
が、
その瞬間、
腹を思い切り蹴られた。
妖(あやかし)
体勢が崩れ、
脚が朱色の紐に触れと
バチバチッ
という音と共に白い稲光が。
ベニ
ベニ
ベニは数歩下がる。
コウ
ベニ
ベニ
そういうベニの視界の端で、
紐に貼り付けられた札が
一枚
剥がれて落ちた。
幽霊
幽霊
妖が地面を蹴って飛び掛かってくる。
姿勢低く構え、
ベニが刀を横に滑らせたが、
それを妖は飛んで避ける。
宙で一回転し、
ベニの背後に着地すると
その鋭い爪を振り下ろした。
ベニは身を捩ってそれを避けると、
刀を逆手に持ち、
太もも目がけて突き出す。
妖は器用に脚を引いて避けると、
刀身を踏みつけた。
ガクンッ
とベニが体勢を崩した隙を見て、
妖が彼の横っ面を蹴り飛ばした。
ベニ
ベニは空中で体勢を整え、
足から着地すると
妖の追撃を刀で防ぐ。
札が一枚、
また一枚と
剥がれ落ちていく。
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊は悲しげな表情を浮かべる。
コウ
コウはきっぱりと言い放つ。
コウ
コウ
幽霊
コウ
コウ
幽霊
コウ
ベニ
妖を押し退け、
距離を取る。
コウ
コウ
その言葉を聞いて
ニヤリと笑みを浮かべ、
刀を鞘に収める。
一瞬、
妖は躊躇したが
襲い掛かって来た。
ベニの刀は掴める、
あれでは妖は切れない
と思ったがゆえだろう。
しかし、
その一撃は違った。
ベニが渾身の力を込めて振るった居合い抜きは、
それを掴んで防ごうとした手ごと
胴体を横に両断した。
その斬撃は一陣の風になり、
朱色の紐を揺らし、
一気に札が剥がれ落ちた。
幽霊
だが、
その札と入れ替わるように
真新しい札が
紐に貼りついた。
幽霊
そして、
再び妖を囲う強固な結界となる。
コウ
幽霊
コウ
コウ
コウは真っ直ぐ前を見据えたまま説明した。
ベニ
ベニはうつ伏せで倒れている妖の頭を蹴る。
すると、
妖は両手で地面を叩いて
飛び掛かって来た。
待ってましたと
ベニが刀を斬り上げると、
妖は両手でその刀身を掴もうとして
肘下まで切り裂かれる。
が、
ベニの動きを止めるのは
それだけで十分だった。
妖の膝蹴りが
ベニの脇腹にもろに入った。
ベニ
下半身はすかさず
後ろ回し蹴りを入れようとしたが、
ベニは素早く左手でそれを防いだ。
コウ
コウが静かに言うと、
刀にぶら下がっていた上半身が爆発する。
幽霊
ベニは衝撃で体勢を大きく崩しながらも、
下半身の追撃を避ける。
ベニ
コウ
ベニ
ケタケタと笑いながら、
刀を両手で持つと
瞬き一つで
眼前まで迫ってきた妖の蹴りを避け、
着地した下半身に刀を振り下ろし
縦に両断、
さらに
横に滑らせて
膝から下も切り落とした。
背後から低く飛び掛かって来た上半身。
素早く振り返り、
大きく開かれたクチバシを切り裂こうとして
反対に
ガチンッ
とクチバシで刀身を捕らえられた。
ベニ
妖はベニの足首を掴み、
ギリギリと力を込める。
刀をクチバシから抜こうにも、
びくともしない。
妖の身体に
どこからともなく飛んで来た札が
貼りつく。
ベニ
しかし、
ベニが何か言う前に
妖の頭上から雷が降り注いだ。
ベニ
衝撃で妖から解放されるベニ。
コウ
コウは涼しい顔で言う。
ベニ
最後の悪足掻きのように
飛び掛かって来た妖の横っ面を、
ベニは右手の掌底でぶん殴った。
吹き飛んだ妖は
平屋の壁にぶち当たり、
縁側に倒れた。
起き上がろうにも
うまく腕に力が入らないようで、
動揺するその青い目に、
女の幽霊の姿が映る。
ベニ
ベニが妖の背中を踏み、
刀を振り上げると、
震えるクチバシから
妖(あやかし)
という幼い子供の声が出た。
幽霊
呼ばれ、
反射的に止めようとした幽霊の首を掴んだコウ。
刀を振り下ろし、
妖の首を切断したベニ。
二人の顔はあくまでも
冷静そのものだった。
幽霊
幽霊
幽霊が切り落とされた妖の頭に
手を伸ばそうとしたので、
コウは掴んでいた手を離す。
幽霊
幽霊
抱き寄せようとした頭は、
身体は、
グズグズと崩れていく。
幽霊
幽霊
ベニ
ベニが刀を鞘に収めて振り返ると、
大きな木の根元にある死体が
白く輝いていた。
ベニ
コウ
幽霊
何かに気が付いたように、
吸い寄せられるように
女性は白く光る死体に近づく。
その光はだんだんと大きくなり、
一人の男性となった。
幽霊
その側には、
申し訳なさそうな顔をした
子供の姿もあった。
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
幽霊
そう言って愛おしそうに子供の頭を撫で、
男性と抱き合う。
そして、
ベニとコウの方に振り返ると
三人は深々とお辞儀をして、
消えた。
ベニ
ベニが首を傾げる。
コウ
ベニ
コウ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
ベニは相変わらず興味のない顔をしていた。
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
コウ
ベニ
ベニ
コウ
ベニ
二人はウダウダと話しをしながら
その場を後にした。
・
・
・
・
その後、
符術士・伏原丈仁と
その家族の遺体は
討伐隊により発見され、
手厚く葬られたという。
・
・
了