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移動型遊園地のメインアトラクション
何とも愉快なサーカスショー!
アナタはご覧になりました?
え!ご覧になっていない?
それはそれは、勿体ない
ならば是非ともお立ち寄りを
必ずアナタを笑わせてみせましょう
さぁ、ショーの始まりです!
ーチャチャラララチャラララー
愉快な音楽に鳴り止まない拍手
僕を待つ大勢のお客さん
さぁ、幕は上がった
今日も笑顔を届ける為に
ピエロ
特殊な靴でピョンピョンと跳ねながら、僕は舞台の真ん中へ
さぁ1つ目の笑顔を見せておくれ
ピエロ
ービタンッー
僕は躓き顔面から転ぶ
どっと沸き上がる会場
鼻を擦りながら起き上がり、お客さんの様子を伺う
あぁ、良かった
皆ちゃんと笑ってる
僕は両手を広げてお客さんに挨拶をする
すると上から柔らかく小さなボールがいくつか僕目がけて落ちてくる
僕は避けようとするけれど、そのほとんどに当たってしまう
2つ目の笑顔を貰い、僕は急いでボールを拾い集める
ピエロ
1つのボールを高く上げ、すぐさま2つ目を放り投げる
ピエロ
ジャグリングを披露すると、お客さんは拍手をくれる
なんて心地良い音だろう
拍手と笑顔を貰えるだけで、僕は何でも出来る気がする
進行役が声を張る
ーダッダダンダダダダダンー
太鼓の音が鳴り響く
僕はジャグリングを続けたまま、キョロキョロと周りを見渡した
僕が舞台の真ん中、前の方へ立った時、後ろからカチリと音がした
客席の一部から後ろ!後ろ!と声がする
僕はわざと聞こえないフリをして、お客さんの不安を煽る
大丈夫、大丈夫だから安心して
ータンッタンッタンッー
ボールの跳ねる音がする
だけど僕は避けたりしない
3つ目の笑顔はどうだろう?
ードシンッー
ピエロ
背中にボールがぶつかった
僕の体は前に飛ばされ、勢い良く舞台の下へと転げ落ちる
大した高さも無い
僕は立ち上がり、また周りをキョロキョロと見渡す
3つ目の笑顔も上々だ
ピエロ
僕は客席を歩き回り、散らばった小さいボールを拾い集める
あれ、1つ足りないや
ピエロ
額に手を当て、大きな動作でボールを探す
すると小さな女の子が僕の前に現れた
女の子
女の子
ピエロ
ピエロ
女の子の小さな手には、僕の小さなボールがあった
僕はしゃがんで目線を合わせ、首を傾げてお礼を言う
お客さんからは温かい拍手が贈られる
ボールを受け取った僕は、再び舞台へと上がった
僕を吹き飛ばす程の大きなボール
僕は躊躇うことなく、そのボールの上に乗ってみせる
ピエロ
さて、お次は玉乗りとジャグリングの合わせ技
成功するか皆ドキドキしているかな?
大丈夫
失敗したって、皆を笑顔にしてみせる
ーダララララララララー
ドラムロールが鳴り出す
僕はタイミングを合わせ、1つ目のボールを上に放る
ピエロ
会場がまた盛り上がる
芸は見事に大成功
足をトコトコと動かして、ボールを動かし移動する
落ちないように、でも大胆に
ここで4つ目の笑顔だよ
ボールから降りる時、僕は後ろに尻もちをつく
そうしてショーは続いていき、僕は今日も沢山の笑顔を貰った
舞台が終われば、僕の役目もお終い
仮面を取って反省会
ピエロ
そうだなぁ
でもお客さんは皆笑っていたね
ピエロ
ピエロ
どうかしたのかい?
ピエロ
ピエロ
僕の大道芸で笑わなかったのかい?
ピエロ
それはとても困ったなぁ
僕にはこれしか笑わせてあげる方法が無いのに
ピエロ
ピエロ
もっと派手に失敗した方が良かったのかもしれない
ピエロ
よし
じゃあ今度あの子が来たら絶対に笑わせてあげよう
ピエロ
ピエロ
ピエロ
ピエロ
ピエロ
僕は笑顔に、笑顔の仮面を取り付けた
ピエロ
ピエロ
ピエロ
ピエロは笑って、笑わすのが仕事だ
だから僕はいつだって笑顔
笑顔でいられない僕には存在する価値すらも無いのだから
ーカサッカサッカサッー
朝の誰もいない公園
ここは静かでとても落ち着く
公園のベンチに腰掛けて、落ちる葉っぱをぼんやり眺める
女の子
ピエロ
ピエロ
そこには昨日の女の子が立っていた
僕は今仮面を付けていないのに、何故かピエロと呼ばれた
女の子
女の子
ピエロ
そうか、僕は仮面を付けていなくてもピエロだった
女の子はちょこんと僕の隣に座った
女の子
ピエロ
女の子
ピエロ
女の子は不思議そうに僕の顔を覗き込む
この子には、僕が悲しそうに見えるのだろうか?
僕はいつでも笑顔だとゆうのに
ピエロ
女の子
女の子
女の子は僕の手を取ってギュッと握ってくれた
その手はやはり小さい
小さいのに、とても温かかった
女の子
女の子
ピエロ
女の子
女の子
そう言って、女の子は僕の手を引っ張る
女の子
ピエロ
それから僕と女の子はどれくらいの時間遊んだだろうか
人気の無かった公園には、チラホラと人影が見えていた
僕と女の子は、始め座っていたベンチに戻った
女の子
女の子
ピエロ
女の子
女の子
ピエロ
ピエロ
僕は嘘を付いていないはずなのに、女の子の言葉が妙に突き刺さった
ドキリと聞きたくない音で心臓が鳴る
女の子
女の子
ピエロ
ピエロ
ピエロ
女の子
女の子
ピエロ
女の子
ピエロ
女の子は少し怒った顔をしている
笑顔にする人の中に、僕も入っている?
女の子の言葉がストンと心に落ちた
女の子
女の子
女の子
女の子
ピエロ
女の子
ピエロ
僕はニッコリと笑顔を見せる
なのに女の子は笑わない
女の子
女の子
ピエロ
ピエロ
女の子
女の子
女の子
ピエロ
女の子
女の子
女の子
ピエロ
女の子は頷き、膝を抱えて俯く
あぁ、こんな時こそ僕の出番なのに
何故、僕はこの子を笑顔にする自信が無いのだろう?
女の子
ピエロ
女の子
女の子
女の子
女の子
女の子は顔を上げ、強い眼差しで僕を見詰める
僕はいたたまれなくなって、女の子から目を逸らした
女の子
ピエロ
女の子
女の子
女の子
女の子
ピエロ
女の子
女の子
僕を優しく抱き締める女の子の目から、大きな涙の粒が1つ、また1つと零れ落ちていた
僕の心臓はギュッと掴まれた様に痛み出す
ピエロ
ピエロ
女の子
ピエロ
女の子
女の子
女の子
女の子
ピエロ
ピエロ
女の子
ピエロ
声を上げ、わんわんと泣く女の子
その小さな体を僕は抱き締め返した
僕の為に泣いてくれる人など、今まで1人として居なかった
僕に泣いて良いと言う人も、1人として居なかった
僕の頬に、光が一筋の道を作った
その道が乾いてしまう前に、何度も光は流れ落ちる
1度零したら止められないと、僕は知っていたのに
だからいつも
我慢をしていたのに...
ピエロ
ピエロ
女の子
女の子
女の子
僕は泣いた
みっともなく声を上げ
全身の水が無くなる程に
また、女の子も泣いていた
僕と同じように
いや、僕が同じように泣いていたんだ
ーチャッチャラララチャチャラララー
軽快な音楽が今日も僕を呼んでいる
僕は笑ってステージへと飛び出していく
まずは1つ目の笑顔を貰うよ!
ピエロ
ピエロ
ピエロ
ピエロ
両手を広げて挨拶をする
会場は大きな拍手と、期待の眼差しと
小さな女の子の笑顔がありました
〜fin〜