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前原浩
前原浩
前原浩
渋谷健二
渋谷健二
不満げにつぶやく健二の後頭部を隣にいた足立哲哉がはたいた。
足立哲哉
足立哲哉
前原浩
哲哉は得意げにフフンと鼻を鳴らした。
健二はなおも納得のいかなさそうな顔を浮かべたが、
二人の仲間入りをしてそれほど月が経っていない新米故に、潔く引き下がった。
そのとき、目の前の民家から慌ただしい音が聞こえ、
三人はそばの電信柱に身を潜めた。
玄関から一人の老人が飛び出してきた。
夫の方がじれったそうに後ろを向いて手招きしている。
少し間をおいて妻が現れ、玄関を施錠し、二人は急ぎ足で南へと走り去った。
静寂だけが漂う民家の前で、前原は腕時計を確認した。
前原浩
前原浩
前原浩
足立哲哉
渋谷健二
前原浩
前原浩
前原浩
前原が期待の眼差しを向け、健二の肩にポンっと手を乗せた。
緊張を解すように深呼吸を繰り返す健二を足立はからかい気味に見た。
三人は周囲に人がいないのを確認すると、忍び足で家の敷地に侵入した。
庭に入ったところで、前原たちはハッと息を呑んだ。
隣家の窓から明かりが漏れているのを確認したからだ。
隣家とを隔てる塀はあるが、1メートル弱しかなくそれほど高くはない。
相手が外の空気を吸おうと庭に出た場合、見付かるリスクは充分にあった。
が、それでも前原は慌てることなく、七つ道具が収められたバッグに手を入れた。
取り出したサークルカッターを使い、テラスに面した窓に円状の穴を開けた。
鍵を開け、三人は音を立てずゆっくりと家に足を踏み入れた。
足立が常備していた懐中電灯でリビングを照らす。
渋谷健二
健二が小声で前原の耳元に囁いた。
前原は声に出さず、隣部屋へ通じる襖を指差した。
襖を開けると、そこは部屋の隅に立派な仏壇を構える和室だった。
その仏壇の横で、四角い塊が不気味な存在感を漂わせていた。
哲哉が懐中電灯の光を当てると、黒光りする新品の金庫が浮かび上がった。
久々の仕事に腕が鳴るのか、健二が舌なめずりしながら金庫と向かい合った。
前原が背後でじっと腕前を見ている途中、哲哉がフラッと部屋から出て行った。
前原と哲哉は長い間、この道を一緒に歩んできた間柄であり、
両者には仕事上で危険な行為はしないだろうという絶対的な信頼関係があった。
それゆえ、前原は哲哉の自由行動を気に留めず、健二の作業だけに関心を示した。
やがて、カチッという音とともに、金庫が開かれた。
中には目当ての二千万もの札束と少しだが宝石類も収まっていた。
宝石に手を伸ばそうとする健二の手をはたき、札束を空のバッグに詰める。
宝石だけが残った金庫を閉め、和室を出たときだった。
リビングの隅で、哲哉がしゃがみこんでなにかを見下ろしているのが見えた。
前原浩
足立哲哉
顔を見合わせた二人が哲哉に近付き、その「まずいこと」の意味を理解した。
暗い室内に溶け込むかのような全身真っ黒の犬が、横向きに寝転がっていた。
が、どうやら眠っているわけではなさそうだ。
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
渋谷健二
渋谷健二
足立哲哉
前原浩
前原浩
と、三人が窓から出ようとしたときだった。
突然、死んだと思われた犬が耳をつんざくほどの声量で吠え始めた。
健二は青ざめた顔で両耳を塞ぎ、哲哉はただ困惑するしかなかった。
突然の緊急事態を治めたのはリーダーの前原だった。
前原は哲哉から懐中電灯を奪い取ると、狂ったように吠え続ける犬の頭に、
それを容赦なく叩き付けた。
それも一度だけでなく、二度、三度、四度と…。
黒い犬は奇妙な鳴き声を最後に、そのまま動かなくなった。
凍り付いた沈黙の中、前原の荒い息遣いだけが聞こえる。
渋谷健二
沈黙を破ったのは健二の震えた声だった。
前原はフーッと息を吐いてから何事もなかったかのように
血でぐっしょり濡れた懐中電灯哲哉に投げ渡した。
受け取った哲哉は、今しがた目の当たりにした光景にまだ呆然としていた。
渋谷健二
渋谷健二
前原浩
そのとき、庭の方から男の声が聞こえた。
隣人
前原は健二をひと睨みしてから、玄関へと走って行った。
体を震わせたままの健二を押して、哲哉がその後に続いた。
その手も健二同様、震えていた。
「昨夜零時半頃、R市の杉山さん夫婦が住む自宅に何者かが侵入、
犯人は残酷にも杉山さん夫婦が知人から預かっていた犬を殺害し、
金庫に入っていた二千万円を盗んだと見られています。
無防備かつ高齢の飼い犬への容赦ない暴行に世間では激しい憤りと、
一刻も早い犯人逮捕を願う声が数多く寄せられています」
キャスターが訥々と別のニュースを伝え始めたところで、哲哉はテレビを切った。
翌日の午後、三人は隠れ家で盗んだ二千万の札束を前に座っていた。
健二は昨夜の出来事が未だにショックなのか、
先程から頭を抱えながら貧乏ゆすりを繰り返している。
哲哉はただ、タバコを吹かしては意味なく髪を搔いていた。
犬を惨殺した張本人、前原はというとソファに凭れながら目の前の大きな収穫を、
ただ無表情に見詰めているだけだった。
次第に貧乏ゆすりの音が激しくなった健二が、勢いよく立ち上がった。
渋谷健二
渋谷健二
足立哲哉
からかうように口を挟む哲哉を、健二はキッと睨んだ。
前原浩
前原浩
冷静な手つきでタバコに火を点けた前原に、健二は引きつった笑みを向けた。
渋谷健二
渋谷健二
足立哲哉
渋谷健二
渋谷健二
健二は精一杯の非難を込めた目を前原に向けて言い放ったが、
当の前原は全く意に介さなかった。
哲哉が「退職金だ」と冗談半分で昨夜の分け前を渡そうとしたが、
健二は嫌悪感に満ちた顔でその手を払いのけ、その場を去った。
前原が生きた健二を見たのは、それが最後だった。
前原が哲哉に健二尾行を命じて二日が経ったときだった。
血相を変えた哲哉が慌ただしく隠れ家に帰って来た。
前原浩
足立哲哉
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
前原は最初こそ眉をひそめたが、すぐにニヤッと不敵を笑みを浮かべた。
前原浩
前原浩
前原浩
足立哲哉
前原浩
足立哲哉
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
足立哲哉
足立哲哉
足立哲哉
そこまで聞けば前原にも大体の想像は付いた。
前原浩
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
足立哲哉
哲哉が自分をまともに見ずにもごもごいうのも理解できる。
衝動的とはいえ、二人の前で自分は無防備な犬をなぶり殺しにしたのだから。
前原浩
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
前原浩
足立哲哉
足立哲哉
前原浩
足立哲哉
前原浩
前原浩
前原浩
と言われ、哲哉は口元を引き締めたまま黙り込んでしまった。
前原はすぐに強張った表情を崩し、笑いかけた。
前原浩
前原浩
前原浩
あくまで楽観的な前原とは逆に、哲哉は最後まで不安げな面持ちを浮かべていた。
コメンテーター
コメンテーター
ゲストA(専門家)
ゲストA(専門家)
ゲストA(専門家)
ゲストA(専門家)
ゲストB
ゲストB
ゲストB
ゲストC
ゲストC
ゲストB
ゲストC
ゲストCが一人バカ笑いしたところで、前原は忌々しげにテレビを切った。
今、テレビで話題になっていたのは、健二に次いで犬が大いに関与している、
足立哲哉の不幸な死亡事故についてだった。
哲哉は一般道路をバイクで走行中、突然ルートを外れてガードパイプに衝突。
投げ出された体を塀にしたたかにぶつけ、息を引き取ったのだ。
一見、これは運転手のハンドル操作ミスによる不幸な事故と捉えられるが、
事故直前、走行するバイクに犬が急接近するところを見たという目撃者が現れ、
以前の渋谷健二死亡事故との類似性を指摘する人が続出。
犬たちの間で人間滅亡計画が密かに練られているという、
大胆な陰謀説を憶測にも関わらず面白おかしく流す人間もいた。
結果、テレビで大きく取り上げられることとなったのだ。
前原浩
そういう前原自身、得体の知れない恐怖で小刻みに震えていた。
哲哉が事故死した日の夜、一瞬とはいえ前原は撲殺した犬の幽霊が、
当事者である自分たちに一人ずつ罰を下しているのではないかと、
非現実的な考えにも関わらず信じかけて震えたのだ。
収穫物の二千万円など眼中にないまま、前原は正体不明の恐怖と闘っていた。
哲哉が死んだことで、住み慣れた隠れ家を離れることに決めた前原は、
盗んだ二千万円を手に、バイクで山の中腹に構える空き別荘へ向かった。
おんぼろな外観から誰にも注目されない点が適当だと踏み、
大金の新たな隠し場所兼隠れ家として決定したのだ。
住み慣れた都会からかなり離れた場所に移ることになるが、
おぞましい記憶を忘れる意味も含めると全く苦ではなかった。
午後八時過ぎ、食料の調達をしに前原が山道をバイクで下っているときだった。
前原は、背後から誰かに追われているような錯覚を覚えた。
本当に誰かが追っているのか、ストレスによる勘違いなのかより、
真っ先に脳裏をよぎったのが哲哉の事故だった。
突如、現れた犬を避けようとバイク事故を起こし死亡した相棒。
前原浩
前原浩
哲哉を死にいたらしめた犬が、今度はオレに牙を剝き始めた。
今まで必死に押し止めていた感情が、ハッキリとした恐怖心として形を成した。
緩いカーブが続く山道を、前原は徐々にスピードを上げて下った。
哲哉の二の舞になるのだけは御免だ。
いつしか、汗が額から頬、首へとつたった。
ヘルメットを被っているので拭うこともできず、前原は首を振った。
俄然、目の前が急に明るくなった。
山の木々を震わせるほどの大きなクラクションが鳴り響いた直後、
ルートを外れた前原は操縦していたバイクともども急斜面を転げ落ちた。
前原は朦朧とする意識の中、足元に何者かの気配を感じた。
鈍い動作でヘルメットを外すと、一頭の犬が仰向けに倒れている前原の足元を、
匂いを嗅ぎながら興味津々な様子でうろうろしていた。
ぎょっとした前原は即座に態勢を整え、近くにあった木の枝を掴んだ。
むやみやたらに振り回し、精一杯の抵抗を犬に示した。
犬は後退し、離れた場所から前原を少し見守ったかと思うと、そのまま姿を消した。
枝を放り投げ、前原は安堵の息を吐き、次にフフッと小さく笑った。
前原浩
立ち上がろうとしたが、足の痛みが酷く思い通りに動けない。
仕方なく一服しようとタバコを取り出し、火を点けようとした。
…ズズッ
前原浩
…ズズッ、…ズズズッ
前原は振り向いた。
…ズズズッ、…ドン、ガラガラガラッ
前原浩
コメンテーター
ゲストB
コメンテーター
コメンテーター
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ゲストB
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ゲストB
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ゲストA(専門家)
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2021.10.16 作