人生は、一瞬の火花のように輝き、消えていく
客
今日はずいぶん冷えるね
店主
そうですね
客
こんな日は、熱燗をもらうか
店主
おや
店主
お酒ですか? 珍しいですね
店主
てっきり、飲まれない方かと
客
ああ、実は下戸なんだ
店主
えっ
客
ただ、飲みたくなる日もあるんだ
しばらく後――
客
あれは、こんな寒い日だった
店主
?
客
雪が積もってね
客
その日、娘は受験だった
店主
おや、娘さんがいらしたんですね
客
ああ。その日、交通機関が麻痺して、娘はとても困っていた
客
乗るはずだったバスがこなくてね
店主
それはお困りだったでしょうね
客
ところが、いっしょにバスを待っていた女の人が、
客
自分はタクシーを呼ぶ、よければ一緒に乗らないか、と言ってくれたんだ
店主
ほう
客
娘は、最初遠慮したが、なにせ困っていたからね
客
乗せてもらうことにしたんだ
店主
それで、受験には間に合ったのですか?
客
…………
客
娘の乗ったタクシーは、途中事故にあってね
店主
えっ
客
乗っていた人は、全員即死だった
店主
…………
客
娘を誘ってくれた人は、病院に行く途中だったそうだ
客
子どもが出来たらしくて
客
それが、女の子だったそうだ
客
だから、雪で困っているうちの娘をほっておけなかったんだろうね
客
みんな親切で、誰も悪くない
客
ただ
客
こんな日は、無性に飲めもしない酒が飲みたくなるんだ
店主
…………
店主
私も、一杯付きあいましょう