下層居住区にある酒場 【獅子月(ししつき)】
看板をあえて出していない店なので
店内の客はいつも少なく
客同士も声を潜めて会話をしているので
密会などにはもってこいの場所である。
その男は少し前に一人で店にやってきて、
隅の方で安い酒を飲んでいた。
若い男
若い男
声をかけられ顔を上げると、
そこには下層にいるには少々場違いな
高級なスーツを着た若い男が立っていた。
男
男
男
若い男
若い男
男
若い男は小さなテーブルを挟んだ前の席に座り、
暇そうな店員を呼ぶ。
若い男
若い男
男
若い男
若い男
若い男はにこやかに言うと、
店員のポケットにお札を数枚捻じ込んだ。
男
男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
若い男
店員は愛想よく返事をして
カウンターの奥に居るバーテンダーに注文を伝えた。
男
若い男
男
男は目の前に座っている若い男をじっと見つめる。
この辺りでは珍しい白髪(はくはつ)、
酒場にいる女たちが
そわそわとこちらを振り返るほど端正な顔立ちで、
彼女たちと目が合えば
キラキラの笑顔で手を振り返す。
男
男
人懐っこい、
”悪いことなんて考えていませんよ”
っというその笑顔がどうにも怪しかった。
そこで注文したお酒が運ばれて来た。
若い男
男
若い男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
男
若い男
男
男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
わざとらしく首を傾げて見せる。
男
男
若い男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
男
男
若い男
若い男
男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
その言葉を聞いて男はビクリと反応する。
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
若い男
にこやかに話す若い男。
対して目の前にいる男は、
血の気が引いたような顔をして
ポケットから旧式の通信端末を取り出す。
若い男
若い男
そう言って若い男は
ポケットから最新の通信端末を取り出して
画面を見せてきた。
そこには、
血塗れでボロボロになった男が
柱のような物に縛り付けられていた。
若い男
男
画面の中の男は、
カメラに向かって叫んでいるが
音声が消されているため
その声は届かない。
泣いているところを見ると、
命乞いでもしているのかもしれない。
ゆっくりとカメラは引いていき、
・
・
血塗れの男の背後から
真っ赤な火の手が上がった。
男
そして、
逃げる暇(いとま)も無く
男は真っ赤な炎に包まれてしまった。
・
・
男
若い男
若い男
男
男
若い男
若い男
若い男
宙音(ソラネ)
男
聞き覚えがあった。
よく当たるという噂の”占い師”だ。
だが、神出鬼没で滅多とお目にかかることはできず、
単なる噂話だと聞き流していた。
男
男
震える手でグラスを持ち、
中身を一気に飲み干した。
美味しいお酒のはずなのに、
不思議と何の味も感じられなかった。
男
男
男
疑問が浮かんでは消え、
そして、
男
男
男
一つの答えに辿り着く。
男
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
男
宙音(ソラネ)
言いながら、
ジャケットの内ポケットから小瓶を取り出す。
血のように赤黒い液体が入っており、
それを男の前に置かれた空のグラスに注ぎ入れた。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
指先でグラスを押して、
男にそっと近づけた。
宙音(ソラネ)
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音はパチリとウインクを飛ばしてきたが、
それにツッコミを入れる余裕などなかった。
グラスに視線を落とせば、
その赤黒い見た目からは想像できないほど
豊潤な苺の香りがする。
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
男
男は銃を取り出し、
その銃口を宙音に向けた。
しかし、彼は驚く素振りも
慌てる素振りも見せず
のんびりと酒を口に運ぶ。
男
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
そう言ってにっこりと微笑んだ。
男
男
男
男は自ら吐いた血を見て
キョトンとする。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音はグラスを指差す。
男
銃を持つ手が震える。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
宙音(ソラネ)
男
銃が手から滑り落ち、
鼻から血が滴り落ちる。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
わざとらしく言い、
酒を再び口に運ぶ。
男
男
男は血を吐きながら、
床に膝をつき、
宙音に向かって手を伸ばす。
宙音(ソラネ)
彼は血塗れの手を見つめ、
宙音(ソラネ)
と小さく唸って見せた。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
そう言う宙音の瞳は、
どこまで冷ややかで
残酷な光りを帯びていた。
男
男
男は体勢を崩し、
ゆっくりと床に倒れた。
男
男
この世界にいる者は皆、
魔力を持って生まれてくる。
しかし、
ごく稀に魔力を持たない者が生まれることがあり、
彼らは
人権を奪われ、
魔法道具以下の扱いを受ける。
掃き溜めのような下層で生きていくためには、
盗みも暴力も、
殺しだって必要なことだった。
生きるために
必死でやってきたのに。
男
それなのに、
上のヤツらは、
あっさり自分から全てを奪っていく。
男
男
男
目の焦点が合わなくなる。
宙音(ソラネ)
全てを見透かしたように宙音は言い放つ。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
男
男
男
男
男
息が上手く出来ない。
手足が痺れる、
肺が喉が焼けるように痛かった。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
男
男
呻き、苦しさからか喉元を掻きむしる。
口の端から赤い泡を吐き、
小さな震えが大きな痙攣へと変わる。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
そういう彼の表情は
とても楽しそうだった。
男の視界が
じわじわと赤く染まる。
男
宙音はグラスに残った最後の一口を飲み干す。
若い男
若い男
そう言うと、
ウエイターと
周りいる客と思われていた人々は
小さく頷いて見せた。
・
・
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライトは、
凛とした声で言った。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音は笑って出された紅茶に手を付ける。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
そう言ってハリエルは
宙音の前に腰を下ろした。
彼を見つめる黄金(こがね)色の瞳も
金糸のような細く煌めく金髪も
ヴィオライト家の証とも言える。
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
ハリエルは札束を一つ、
宙音の前に置いた。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音はポケットから十二面ダイスを二つ取り出した。
一つは動物が描かれたモノ、
もう一つは古代文字が書かれたモノ。
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
ハリエルは手渡された二つのダイスを同時に投げた。
───カランッ
と乾いた音を立ててダイスは止まる。
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
宙音(ソラネ)
ハリエル・ヴィオライト
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
宙音はダイスと札束をポケットに入れ、
立ち上がる。
ハリエル・ヴィオライト
宙音(ソラネ)
宙音はそう言って
恭しくお辞儀をして見せた。
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コメント
6件
とても面白かったです!!
↓裏話↓