TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

SoRAne

一覧ページ

「SoRAne」のメインビジュアル

SoRAne

1 - 1.”占い師”

♥

32

2023年12月19日

シェアするシェアする
報告する

下層居住区にある酒場 【獅子月(ししつき)】

看板をあえて出していない店なので

店内の客はいつも少なく

客同士も声を潜めて会話をしているので

密会などにはもってこいの場所である。

その男は少し前に一人で店にやってきて、

隅の方で安い酒を飲んでいた。

若い男

やぁ

若い男

前の席いいかな?

声をかけられ顔を上げると、

そこには下層にいるには少々場違いな

高級なスーツを着た若い男が立っていた。

ん?

……ああ、ダメだ

連れが来るんだよ

若い男

そう

若い男

じゃ、お連れさんが来るまで

あ、おいっ

若い男は小さなテーブルを挟んだ前の席に座り、

暇そうな店員を呼ぶ。

若い男

藍花酒(らんかしゅ)をロックで

若い男

君は?

は?

若い男

お酒、もう無いけど

若い男

何か飲むなら奢るよ

若い男はにこやかに言うと、

店員のポケットにお札を数枚捻じ込んだ。

……

じゃ、万香酒(ばんかしゅ)を

若い男

あははっ

若い男

一番高いお酒を頼むとはなかなか

何か問題でも?

若い男

いいや、ないよ

若い男

じゃ、お嬢さん

若い男

その二つを出来るだけ早く持って来てくれるかな?

店員は愛想よく返事をして

カウンターの奥に居るバーテンダーに注文を伝えた。

アンタ、下層の人間じゃないだろ

若い男

ふふっ、まぁね

とはいえ、上位貴族にも見えないが…

男は目の前に座っている若い男をじっと見つめる。

この辺りでは珍しい白髪(はくはつ)、

酒場にいる女たちが

そわそわとこちらを振り返るほど端正な顔立ちで、

彼女たちと目が合えば

キラキラの笑顔で手を振り返す。

……

(胡散くせぇ…)

人懐っこい、

”悪いことなんて考えていませんよ”

っというその笑顔がどうにも怪しかった。

そこで注文したお酒が運ばれて来た。

若い男

最近下層で不審火が発生しているらしいね

……。

若い男

今月に入って二回…

若い男

先月もあったそうだ

若い男

知ってるだろ?

…ん?まぁな

若い男

死者も出ていると聞くし

若い男

相変わらず下層は穏やかじゃないよねぇ

……。

若い男

警備隊は動いているのかい?

さぁね

…なんでいちいち聞いてくるんだよ

若い男

あははっ

若い男

そう言いながらもちゃんと答えてくれるから、かな?

……。

若い男

まぁ下層で起こっていることに警備隊が首を突っ込んでくることは滅多とないし

若い男

亡くなっているのも下層の人間だから取り合ってくれないし

……。

若い男

でも、それなのになんで

若い男

僕の友人はこの事件の調査を頼んできたんだろう…?

わざとらしく首を傾げて見せる。

は?

お前、何か調べてんのか?

若い男

そうなんだよ

若い男

友人にね、頼まれたんだ

若い男

友人の友人が亡くなったから犯人を見つけてほしいってね

……ふぅん

若い男

不審火があった場所は三ヶ所とも下層

若い男

それもバラバラで共通点が無い

若い男

…あ、いや

若い男

誰かが住んでいる場所、という共通点はあるかな

若い男

全てが焼失してしまっていたから真実はわからないけど

若い男

金品を盗んだうえで火を点けているようなんだよね

……。

なんでそんなことオレに話すんだよ

若い男

ん?

若い男

ああ、独り言だと思って聞き流してくれ

……。

若い男

一人ないし二人の不審者が現場で何度か目撃されてる

若い男

でも、火を点けるところを見たわけじゃなくて

若い男

彼らが立ち去ったあとに火の手が上がったそうだよ

若い男

助かったのは

若い男

目撃者が彼らのことを知っていたってとこかな

その言葉を聞いて男はビクリと反応する。

若い男

ああ、僕も思ったよ

若い男

怪しい人を見たならなんで通報しなかったのかってね

若い男

通報できなかったのには理由があったみたいで

若い男

目撃者はそのとき別の人物から暴行を受けていて

若い男

通報どころじゃなかったんだって

若い男

じゃあなんで通報せずに僕に教えてくれたかっていうと

若い男

僕が彼らを処分するっていうと快く協力してくれたよ

若い男

どうやら犯人はなかなかの嫌われ者らしい

にこやかに話す若い男。

対して目の前にいる男は、

血の気が引いたような顔をして

ポケットから旧式の通信端末を取り出す。

若い男

あ、そうそう

若い男

君が待ってる連れの人って……

そう言って若い男は

ポケットから最新の通信端末を取り出して

画面を見せてきた。

そこには、

血塗れでボロボロになった男が

柱のような物に縛り付けられていた。

若い男

彼でしょ?

な、なんで……

画面の中の男は、

カメラに向かって叫んでいるが

音声が消されているため

その声は届かない。

泣いているところを見ると、

命乞いでもしているのかもしれない。

ゆっくりとカメラは引いていき、

血塗れの男の背後から

真っ赤な火の手が上がった。

なっ!?

そして、

逃げる暇(いとま)も無く

男は真っ赤な炎に包まれてしまった。

あ、あ、あ……

若い男

こんな感じで僕が処分しちゃったから

若い男

彼は来ないよ

お、お前は…

い、一体……

若い男

ああ、名乗っていなかったね

若い男

いや、別に死んじゃう人にわざわざ名乗るほどでも無いと思ったんだけど…

若い男

…宙音(ソラネ)

宙音(ソラネ)

そう、名乗っているよ

ソラ…ネ…

聞き覚えがあった。

よく当たるという噂の”占い師”だ。

だが、神出鬼没で滅多とお目にかかることはできず、

単なる噂話だと聞き流していた。

(なんで)

(”占い師”が相棒を殺した?)

震える手でグラスを持ち、

中身を一気に飲み干した。

美味しいお酒のはずなのに、

不思議と何の味も感じられなかった。

(なんで)

(こいつは人を殺したのに)

(爽やかな笑顔を浮かべていられるんだ?)

疑問が浮かんでは消え、

そして、

(ああ……)

(そうか……)

(こいつは…)

一つの答えに辿り着く。

(善人の面をした)

(極悪人だ)

宙音(ソラネ)

おや?

宙音(ソラネ)

極悪人は酷いなぁ

なっ!?

お前!人の心がっ

宙音(ソラネ)

まぁ正義の味方って言うつもりもないけど

言いながら、

ジャケットの内ポケットから小瓶を取り出す。

血のように赤黒い液体が入っており、

それを男の前に置かれた空のグラスに注ぎ入れた。

宙音(ソラネ)

計画を立てたのは君の相棒だったね

宙音(ソラネ)

君はその相棒の指示に従ったまで

宙音(ソラネ)

だから

宙音(ソラネ)

あそこまで酷い殺し方はしないよ

宙音(ソラネ)

これは

指先でグラスを押して、

男にそっと近づけた。

宙音(ソラネ)

眠るように死ねる毒だ

……。

宙音(ソラネ)

ちなみに、

宙音(ソラネ)

僕の趣味でイチゴ味にしてある

宙音はパチリとウインクを飛ばしてきたが、

それにツッコミを入れる余裕などなかった。

グラスに視線を落とせば、

その赤黒い見た目からは想像できないほど

豊潤な苺の香りがする。

……

宙音(ソラネ)

逃げてもいいけど

宙音(ソラネ)

この事件を調べてくれって僕に頼んだのは

宙音(ソラネ)

上位貴族のさらに上

宙音(ソラネ)

星位御三家(せいいごさんけ)の一人

宙音(ソラネ)

ハリエル・ヴィオライト殿

!!!

宙音(ソラネ)

例え僕から逃げられても

宙音(ソラネ)

”断罪の剣”の異名を持つ彼女が

宙音(ソラネ)

君を見逃してくれるかどうか…

…ってことは

今、ここでお前を殺せば!

男は銃を取り出し、

その銃口を宙音に向けた。

しかし、彼は驚く素振りも

慌てる素振りも見せず

のんびりと酒を口に運ぶ。

お、おい!

死にたいのか!?

宙音(ソラネ)

殺せるものならやってご覧よ

宙音(ソラネ)

当たれば…

宙音(ソラネ)

の話だけど

そう言ってにっこりと微笑んだ。

舐めやがっ

ごふっ

…へ?

男は自ら吐いた血を見て

キョトンとする。

宙音(ソラネ)

あ、言って無かったね

宙音(ソラネ)

それ

宙音(ソラネ)

気化するんだ

宙音はグラスを指差す。

…キカ?

銃を持つ手が震える。

宙音(ソラネ)

そう、常温で蒸発して気体になる

宙音(ソラネ)

それを吸うと肺から毒に侵されるんだ

ゴホッゴホッ!!

宙音(ソラネ)

苺の良い香りがしたでしょ?

く、くそっ…ゴホッ!

銃が手から滑り落ち、

鼻から血が滴り落ちる。

宙音(ソラネ)

飲むより苦しそうだね

宙音(ソラネ)

可哀想に…

わざとらしく言い、

酒を再び口に運ぶ。

ゴフッ!ゴホッ!!

たす……助け…ゴホッ!

男は血を吐きながら、

床に膝をつき、

宙音に向かって手を伸ばす。

宙音(ソラネ)

……

彼は血塗れの手を見つめ、

宙音(ソラネ)

うーん……

と小さく唸って見せた。

宙音(ソラネ)

君を生かして

宙音(ソラネ)

僕に何の得があるのかな?

…へ?

宙音(ソラネ)

君たちのことを調べたらさ

宙音(ソラネ)

強盗

宙音(ソラネ)

暴行

宙音(ソラネ)

放火

宙音(ソラネ)

果てには殺しもやってる

宙音(ソラネ)

そんな君を生かして

宙音(ソラネ)

どんな意味があるっていうんだい?

そう言う宙音の瞳は、

どこまで冷ややかで

残酷な光りを帯びていた。

そん…な…

ゴホッ…

男は体勢を崩し、

ゆっくりと床に倒れた。

(苦しい…)

(息が……)

この世界にいる者は皆、

魔力を持って生まれてくる。

しかし、

ごく稀に魔力を持たない者が生まれることがあり、

彼らは

人権を奪われ、

魔法道具以下の扱いを受ける。

掃き溜めのような下層で生きていくためには、

盗みも暴力も、

殺しだって必要なことだった。

生きるために

必死でやってきたのに。

(……くそ…)

それなのに、

上のヤツらは、

あっさり自分から全てを奪っていく。

(…どこで…)

(どこで…)

(間違えた……)

目の焦点が合わなくなる。

宙音(ソラネ)

最初からだよ

全てを見透かしたように宙音は言い放つ。

宙音(ソラネ)

両親に殺されると勘違いして

宙音(ソラネ)

二人を殺してしまったところから

宙音(ソラネ)

君は道を間違えてしまったんだ

(ああ…)

(こいつは……)

(本当に全部……)

あ、うぐっ……

眠る…ように

死ぬ…毒じゃあ……

息が上手く出来ない。

手足が痺れる、

肺が喉が焼けるように痛かった。

宙音(ソラネ)

あははっ

宙音(ソラネ)

君って随分と素直な人間なんだね

宙音(ソラネ)

僕みたいな奴の言うこと真に受けるなんてさ

なん……

宙音(ソラネ)

この毒は

宙音(ソラネ)

死ぬほど苦しいけど

宙音(ソラネ)

けして、死なない毒なんだ

宙音(ソラネ)

ホントはね

ゔ

あ゙あ゙あ゙…

呻き、苦しさからか喉元を掻きむしる。

口の端から赤い泡を吐き、

小さな震えが大きな痙攣へと変わる。

宙音(ソラネ)

ちなみに

宙音(ソラネ)

君の相棒も重度の火傷を負ったけど

宙音(ソラネ)

生きてはいるよ

宙音(ソラネ)

罪の無い人々を殺めた君たちには

宙音(ソラネ)

ぴったりの罰でしょう?

そういう彼の表情は

とても楽しそうだった。

男の視界が

じわじわと赤く染まる。

……ぁ゙ぁ゙…

宙音はグラスに残った最後の一口を飲み干す。

若い男

…ご馳走様

若い男

あと処理はお願いね

そう言うと、

ウエイターと

周りいる客と思われていた人々は

小さく頷いて見せた。

ハリエル・ヴィオライト

ご苦労

ハリエル・ヴィオライト

相変わらずの仕事の速さだな

ハリエル・ヴィオライトは、

凛とした声で言った。

宙音(ソラネ)

いえいえ

宙音(ソラネ)

今回はたまたま

宙音(ソラネ)

運が良かっただけですよ

宙音は笑って出された紅茶に手を付ける。

宙音(ソラネ)

しかし

宙音(ソラネ)

下層で起きた単なる放火殺人にしては

宙音(ソラネ)

少々入れ込んでいるように思いますが?

ハリエル・ヴィオライト

…あの事件で殺されたのは

ハリエル・ヴィオライト

私が下層に送り込んだ人物でね

ハリエル・ヴィオライト

ある物の調査をさせていたんだ

宙音(ソラネ)

そうでしたか

ハリエル・ヴィオライト

奴らを処分してしまうのは簡単だが

ハリエル・ヴィオライト

吐いて貰わねばならないことがある

そう言ってハリエルは

宙音の前に腰を下ろした。

彼を見つめる黄金(こがね)色の瞳も

金糸のような細く煌めく金髪も

ヴィオライト家の証とも言える。

宙音(ソラネ)

……調査資料、ですか

ハリエル・ヴィオライト

勘がいいな

ハリエル・ヴィオライト

それとも

ハリエル・ヴィオライト

”黒魔術”で調べたことか?

宙音(ソラネ)

”黒魔術”を使うまでもありません

宙音(ソラネ)

ハリエル様が奴らに求める物は

宙音(ソラネ)

それぐらいかと

ハリエル・ヴィオライト

…ま、そうだな

ハリエル・ヴィオライト

現場から無くなっているところを見ると

ハリエル・ヴィオライト

売りさばいたか

ハリエル・ヴィオライト

どこかに隠し持っているか…

宙音(ソラネ)

焼失した、ということは?

ハリエル・ヴィオライト

もちろんその可能性もある

ハリエル・ヴィオライト

そこで一つ

ハリエル・ヴィオライト

君に占って欲しい

ハリエルは札束を一つ、

宙音の前に置いた。

宙音(ソラネ)

ええ、喜んで

宙音(ソラネ)

それが本業ですので

宙音はポケットから十二面ダイスを二つ取り出した。

一つは動物が描かれたモノ、

もう一つは古代文字が書かれたモノ。

ハリエル・ヴィオライト

私が望む物が得られるかどうか、だ

宙音(ソラネ)

かしこまりました

宙音(ソラネ)

では、願いを込めてダイスを振って下さい

ハリエルは手渡された二つのダイスを同時に投げた。

───カランッ

と乾いた音を立ててダイスは止まる。

宙音(ソラネ)

踊る兎に

宙音(ソラネ)

花の古代文字

宙音(ソラネ)

兎は豊穣と飛躍を意味します

宙音(ソラネ)

花は栄華、繁栄を

宙音(ソラネ)

ご安心ください

宙音(ソラネ)

全てが順調に行くようです

ハリエル・ヴィオライト

そうか

ハリエル・ヴィオライト

お前がそう言うなら安心して出掛けられる

宙音(ソラネ)

では、私はこれで

宙音はダイスと札束をポケットに入れ、

立ち上がる。

ハリエル・ヴィオライト

また何かあれば頼む

宙音(ソラネ)

…かしこまりました

宙音はそう言って

恭しくお辞儀をして見せた。

この作品はいかがでしたか?

32

コメント

6

ユーザー

とても面白かったです!!

ユーザー
ユーザー

↓裏話↓

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚