志歩の病室
志歩はまだ抗がん剤治療を続けていて髪の毛はほとんど抜けて落ちていき、なくなっていて、坊主になっていて、体重も減っていくのであった。
病室の鏡の前で、志歩はゆっくりと手を伸ばした。 もう一本も残っていない自分の頭を指先で確かめる。 冷たい感触が、現実をはっきりと伝えてくる。
日野森志歩
声に出すと、少し笑えてしまった。 それでも、胸の奥に広がる虚しさはどうにもならない。 志歩は枕元のスマートフォンを取り、穂波に短いメッセージを送った。 『帽子が欲しいんだけど、外に出る時、少しだけでも隠したくて』 送信ボタンを押した瞬間、涙が一粒落ちた。 すぐに「行くね」とだけ返ってきた短い返信に、志歩は安心して目を閉じる。 ――数時間後。 病室のドアが勢いよく開く音と共に、穂波が小さな紙袋を抱えて飛び込んできた。 息を切らしながらも、穂波は笑顔だった。
望月穂波
紙袋の中には、柔らかなニット帽。 淡い桜色が志歩の瞳に映える。 穂波がそっと手渡すと、 志歩は少し戸惑いながらも被ってみた。
日野森志歩
その一言に、穂波の目が潤む。
望月穂波
穂波の声は震えていたが、優しさに満ちていた。 病室の空気が、少しだけ春のようにやわらかくなる。
志歩が帽子を被ってから数日。 病室のドアが静かにノックされ、 顔をのぞかせたのは雫だった。 その後ろには母親の姿もある。 落ち着いた声で、母は小さく頭を下げた。
日野森雫
志歩は恥ずかしそうに笑い、 「ありがとうお姉ちゃん、母さん」と返した。 雫は花をテーブルに置き、 そっと志歩の手を包んだ。
日野森雫
その言葉に、志歩の胸の奥が少し温かくなった。 ⸻ しばらくして、病室の外が少し騒がしくなった。 花里みのりが勢いよくカーテンを開け、「おじゃましまーす!」と 元気な声を響かせる。 後ろには愛莉と遥の姿。 MORE MORE JUMP!の3人がそろっていた。
花里みのり
みのりが袋を掲げると、愛莉が慌てて
桃井愛莉
と突っ込む。 その光景に、志歩は久しぶりに笑った。
翌日、今度は病室のドアを軽くノックする声。 天馬司を先頭に、えむ、寧々、類の ワンダショの面々が現れた。 司が胸を張って言う。
天馬司
類が花束を差し出し、 えむは風船を持ってぴょんぴょん跳ねている。 寧々は呆れたようにため息をつきながらも、そっと志歩の手を握った。
草薙寧々
数日後には、奏たちニーゴの4人が現れた。 まふゆは静かにフルーツを置き、 絵名は「写真撮る?」とスマホを掲げる。 瑞希が志歩の帽子を見て、 「かわいいじゃん、それ」 と笑うと、 志歩も少し照れた顔で笑い返す。 奏は短く言った。
宵崎奏
最後に、ビビバスの4人が訪れた。 杏が軽く手を振り、 彰人は無言でジュースを差し出す。 冬弥は「無理しないでください」とだけ言って、 そっと志歩のベッドの脇に腰を下ろした。 こはねは優しく言う。
小豆沢こはね
その言葉に、志歩の胸の奥がじんわりと熱くなった。 涙がこぼれそうになるのを、 帽子のつばの影に隠した。 ⸻ 病室の中には、花と笑い声、 そして仲間たちの想いが溢れていた。 志歩はその光に包まれながら、 心の中で小さく呟く。
日野森志歩
志歩は抗がん剤治療を終えて、ステージにあるピアノの方へ向かい、椅子を座り、弾き歌うが....
日野森志歩
と思いながら自分自身の曲、「STAEGE OF SEKAI」を弾き語りする。
医師たちや患者さん達が見に行って、志歩は見てみると
ホールの奥に置かれたグランドピアノの前で、志歩は深く息を吸った。 抗がん剤治療を終えた身体はまだ少し重く、 けれど――指先はもう迷わなかった。
静かに鍵盤を押す。 最初の和音が響くと、会場に集まっていた医師たちや患者たちが息をひそめた。 志歩の声が、かすかに震えながらもまっすぐに伸びていく。 「聴いて下さい♪STAGE OF SEKAI――」 歌とピアノが一つになって、ホールいっぱいに広がる。 音の向こうに、あの帽子の男の子の笑顔が一瞬浮かんだ気がした。 けれど、どこを見ても彼の姿はない。 空席の中に、志歩の視線だけが彷徨う。 最後の音が響き、静寂が戻る。 拍手がゆっくりと広がり、誰もが微笑んでいた。 志歩は頭を下げながらも、胸の奥に小さなざわめきを残したままピアノから離れた。 ――演奏後。 廊下に出ると、小児科の看護師が花束を手に待っていた。 志歩は思い切って尋ねる。
日野森志歩
看護師は少し驚いたように目を瞬かせ、静かに首を横に振った。
小児科の看護師
日野森志歩
志歩の胸に、冷たい風が通り抜ける。 けれど不思議と、悲しみではなかった。 まるで誰かに「もう大丈夫」と言われたような、柔らかな安心があった。 志歩は微笑んで、そっと帽子のつばを整えた。
日野森志歩
廊下の窓から射す光が、帽子の影を長く伸ばす。 その先に、ほんの一瞬だけ―― あの男の子の笑顔が、光の中に見えた気がした。
春の風が、病院の玄関前をやさしく抜けていく。 志歩は車椅子に座り、 穂波と雫に押されながらゆっくりと外へ出た。 点滴も外れ、帽子の代わりに薄いスカーフを巻いている。
日野森志歩
ぽつりと漏らした声に、穂波が微笑む。
望月穂波
眩しい空の下、志歩はしばらく目を閉じた。 もう以前のように走り回ることはできないかもしれない。 でも、それでも音楽は、仲間は、 彼女のそばにある。
数日後。 Leo/needの練習スタジオ。 一歌、咲希、穂波が楽器を調整する中、志歩が車椅子で入ってきた。 スタジオの空気が一瞬止まる。 次の瞬間、一歌が笑顔で手を振った。
星乃一歌
日野森志歩
志歩の返事は少し照れくさそうだった。 咲希がベースを差し出しながら言う。
天馬咲希
志歩は手を伸ばし、弦を軽く弾いた。 小さな音が鳴る――それは確かに“再スタート”の音だった。
学校生活も、少しずつ動き出す。 神山高校ではワンダショの司や寧々、 ビビバスの杏や彰人たちが声をかけてくれる。 宮益坂女子では、咲希やまふゆが 「また文化祭で歌おう」と誘ってくる。 通信高校の奏は、短く「無理はしないでくださいね」とだけメッセージを送った。 志歩は思う。 ――車椅子になっても、自分は“まだここにいる”。 その想いが胸に灯をともす。 ⸻ 病院を見上げた最後の朝、 志歩は小さくつぶやいた。
日野森志歩
その言葉に、穂波は静かに頷き、雫は目を細めた。 風がスカーフを揺らし、 どこか遠くでピアノの音が聴こえた気がした。
神山高校 校門前
数週間後、春の陽気が街を包む頃。 志歩は神山高校の正門前で車椅子 のブレーキを外し、ゆっくりと進み出した。 坂の上に見える校舎。 以前は駆け足で通った道も、今は 一歩ずつ――でも確かに前に進んでいる。
杏寧々「日野森さん!!!」 校門の向こうから、寧々と杏が駆け寄ってくる。 杏が笑顔で手を振り、寧々は少し照れたようにバッグを抱え直す。
白石杏
志歩は微笑んでうなずいた。
日野森志歩
昼休み
昼休み。 屋上では、咲希と穂波が手作りのお弁当を広げて待っていた。 咲希が嬉しそうに声をかける。
天馬咲希
日野森志歩
穂波が笑いながらフォローを入れる。
望月穂波
そのやり取りに、志歩の口元がふっと緩む。 自分の居場所が、ちゃんとここにある――そう感じた。
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