真夜中の地下病棟 第一話
このお話は小説に沿って書きましたのでネタバレになります。 承知の上でお読みください。
1・山頂での出来事
雲ひとつない空を見上げながら、お父さんの真似をして深呼吸を繰り返す
山頂の空気は冷たく、鼻のあたりがひんやりとした。
たけるパパ
お父さんが笑っていう。
でも、僕にはその美味しさが全くわからない
ハンバーグの味がするっていうなら、金魚みたいにいつまでも口をパクパク動かし続けるんだけど。
たける
たける
たけし
まるで、こちらの心を読み取ったかのように、たけしくんは僕と同じ感想を口にする。
たけし
たけしくんは大声でそう叫んだが、誰も返事をしない
卓郎君は展望台に設置された双眼鏡を覗き込んだまま動かないし、
美香ちゃんはタンポポの綿毛みたいな形をした薄紫色の花を興味深そうに眺めている。
二人の間を慌ただしく駆け回っていたのはひろし君だ。
何をしているのかと思ったらどうやら赤とんぼを追いかけてるらしい。
いつもは誰よりも落ち着いているのに、いったんスイッチが入ると、周りのことなどおかまいなしで突拍子もない行動に出ることが多い。
多分赤とんぼに何かひかれるようなところがあったんだろう。
風向きがわずかにかわり、たくさんのテーブルやイスが並んだ広場の方から、食欲をそそる美味しそうな匂いがただよってきた。
花を動かし、匂いのもとを分析する。カボチャにトウモロコシ…ホタテ…ウインナー…そしてお肉!ソースがたっぷりかかった焼きそばの香りもした。
口からよだれがこぼれ落ちる。
お腹の虫がグウグウと騒ぎ始めた。
本当は一目散に駆け出して、食べ物に飛び付きたかったが、それがはしたない行為だということは百も承知だ。
僕は尻尾を振りながら、お父さんの顔を見上げた。
たける
そう目で訴えたけど、お父さんは相変わらず深呼吸を続けている。
僕は地面に寝そべり、「さあ、そろそろお昼にしようか」とお父さんが言い出すのを辛抱強く待った。
たけし君がもう少しこの場にとどまるか、それともバーベキュー広場に向かおうか迷っているらしく、お腹を押さえて「うう、うう」とうなりながら、 僕の周りを落ち着きなく歩き回る。
風が強く吹き、ひときわ美味しそうな匂いが僕の鼻先をなでた。
こんがり焼けた肉の香りに、いてもたってもいられなくなる。
たけし
たけしくんはそう叫ぶと、広場に向かってわきめもふらずに走り始めた。
okome
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