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晋視点
(電気ついてる)
いつもよりも少し遅くまで作業をしていた夜だった。 書類確認を途中で止めて、理玖の帰りを待つことにした。
軽く目を閉じてリビングのソファにもたれていた、そのとき。
コンコンッ
玄関の扉を、控えめに叩く音がした。
晋
時計を見たら22時すぎ。 いつもなら帰る前に「これから帰る」って連絡があるはずなのに、今日はなかった。
それに 鍵は持ってるはずなのに。
嫌な予感が首筋を撫でた。 でも、ほんの一瞬。 画面の着信履歴に「不明」の通知が浮かんでいて、それが引っかかったままだった。
悪戯か何かだろう、
少し怖かった俺は そんな風に自分を納得させた。
もう一度、扉をノックする音。
怖さを打ち消すように、インターホン越しに声をかけた。
晋
返事はなかった。 けれど、インターホン越しの映像に一人の男の姿が映った。
マスクをしてフードを被った背の高い男。 見覚えはない。けれど、その場を離れる様子もなく、じっとこちらを見つめている。
心臓がひとつ、大きく跳ねた。
晋
言い終えたその瞬間、 男の表情が笑ったように見えた──気がした。 それから、玄関のドアノブが“ガチャッ”と揺れる。
── 鍵はかけた。大丈夫。ここは中だ。
そう思おうとした瞬間、ドアの鍵部分から“キィ……”と軋むような音。
晋
まるで合鍵でも持っていたかのように、ゆっくりと、静かにドアが開いた。
晋
思わず後ずさった。 携帯を手に取り、理玖に連絡をしようと思った時には 男がもう中にいた。
晋
叫び声を上げると同時に、背後から腕を掴まれた。
バチッッ
首の後ろに何かを当てられる。
晋
叫びきる前に、息が詰まる。 目の前が急に暗くなる。
全身の筋肉がこわばり、指すら動かせない。
家の中に仲間がいたのか。 理解した瞬間にはもう、意識が遠のいていた。
目が覚めた時、 そこは見知らぬ場所だった。
冷たいコンクリートの床。剥き出しの壁。 そして電球が、ゆらゆらと天井で揺れている。
腕は後ろで縛られ、足にも拘束具がついていた。 口は何かで塞がれていたけど、意識が戻ったと気づかれたのか、すぐに取り外された。
晋
咳き込む。 喉が痛い。 息がまともに吸えない。 全身が強張っていた。
暗闇の奥で、誰かの足音が響く。
一人、二人、いや──三人か。 一人は携帯を固定して録画を始めていた。
誘拐犯
低く抑えた声。 どこか笑っているようで、すべてを見下すような冷たさ。
次の瞬間、頬に衝撃。
“バチンッ”と鋭い音とともに、左の頬に痛みが走った。
痛い。 でも、それよりも怖かった。
理玖に、この顔を見せられたくない。
晋
顔を背ける。 でも、カメラは逃げられない。
誘拐犯
誘拐犯
誘拐犯はニヤニヤとしながら言う。
そして案の定殴られる。 何度も頬を打たれるたび、だんだんと涙が滲んでくる。
その映像は、すぐにどこかへ送信された。 きっと理玖の元へ。
誘拐犯
そう言い残して、男たちは部屋を出て行った。
残されたのは、冷たい空気と痛む体と、震える自分だけ。
目を閉じて、心の中で何度も呼ぶ。
──理玖。 ──ごめん。 ──早く…早く気づいて。
2025.08.05 公開
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