事件が収束してから数日_
校内の空気はゆっくりと元に戻り、
夜空はようやく
"普通の高校生活"
を取り戻しつつあった。
だが、その"普通"が、
どれほどかけがえのないものか、
彼女は痛いほど知っていた。
及川 徹
落ち着いてきたね。
放課後、体育館の隅で
ボールを回す及川がふと言う。
天音 夜空
うん。まだ周りの視線は怖いけど…
天音 夜空
もう逃げないって決めたから。
夜空はボールを受け取りながら笑った。
その笑顔はぎこちなくても_
たしかに作り物ではなかった。
及川 徹
そうだね。天音ちゃんはもう仮面を外したんだから。
その言葉に夜空の心がふっと軽くなる。
天音 夜空
でも…及川くんには本当に感謝してる。
天音 夜空
全部が怖くて、自分のことさえ信じられなかったのに、あなたは何度も私を抱きとめてくれた。
及川は少しだけ照れくさそうに笑った。
及川 徹
なーに言ってんの。天音ちゃんが俺の支えでもあるんだよ。
及川 徹
試合前、天音ちゃんの言葉で救われたこと何度もあったしさ。
天音 夜空
え!?私そんな大したこと言ったかな…?
及川 徹
言葉じゃないよ。存在。
及川 徹
君がいることが、俺にとって一番大きかったんだ。
夜空の瞳が潤む。
そんな風に誰かから必要とされることが、
こんなにも心を暖かくするなんて_
天音 夜空
及川くん。
その声に答えるように及川が彼女の手を握った。
及川 徹
好きだよ。天音ちゃん。
天音 夜空
私も。あなたが好きです。
2人の距離がまた少し縮まった。
だが、その静けさの中にも、
次の戦いは近づいていた。
インターハイ予選。
及川はキャプテンとして、
そして1人のプレイヤーとして、
もう一度決意を新たにする。
夜空はその背中を真っ直ぐに見つめながら誓った。
(今度は私があなたを支える番_)







