秋風が頬に触れて
麦の香りが鼻を掠める
僕
きっと今日は小春日和
とても暖かくて
掃き出し窓の縁側で 思わずあくびをしてしまった
……ん?
あくび…?
あくび…アクビ…A KU BI…
……なんてことだ
この僕があくびだと?!
この暖かい気候に負けてあくび?!
何という失態…
僕に隙を作ってしまった…
これはまだ修行が必要……
……あ、そこの君
僕の貴重なあくびを 見れたんだぞっ!
喜べ☆
……と。
茶番は程々にして
リビングの方に行くと 同居人が絵を描いていた
彼は画家のようで とても美しい絵を描く
…ま、同居人の数少ない長所だ。
筆が滑る音だけが響くような
静寂が身を包んだ
僕
僕
控えめに放ったはずの言葉は
簡単に彼の耳に届く
同居人
白髪の目立つ皺だらけの顔が
クシャっと優しい笑みをこぼす
まったく。
僕に対して口の聞き方が 成ってないんじゃないか?
僕の家とご飯を用意してくれる だけ、良しとするか…
同居人
僕
いくら僕が上だからって
感謝を忘れてはいけない
キッチンに行った彼を 見送ってから
僕はイーゼルに乗った キャンパスを見た
やはり、彼の絵は 唸るほどに美しい
僕
思わず呟くと
同居人
日だまりを込めたような声が キッチンから聞こえた
僕
僕
もっと素直な言葉で 言いたかったのに
思ったより素っ気なく なってしまった
同居人
同居人
ふと振り返ると
朗らかな笑みで彼が昼食を 持ってきてくれる所だった
空腹に耐えかねた僕は 朝食に食いつこうとした
──その時
同居人
同居人
彼の人差し指の先が 僕の鼻に触れた
同居人
僕をキャンパスの前に手招くと
僕の手を朱色の絵の具に付けた
僕
同居人
キャンパスの右端に 僕の手が重なる
キャンパスには可愛らしい 猫の肉球が付いた
同居人
今日一番に幸せそうな顔で笑う彼
すぐに僕を放して 昼食を食べさせてくれた
僕
昼食に口を付けながらも
彼に念押しするように強く言った
あの作品が高く評価され
美術館に展示されることが 決まったそうだ
僕
……なんて彼には言うが
彼の才能も誇るべきものだった
今日も絵を描いて
同居人は幸せそうに笑う
……別に、僕には関係ないけど
でも、彼が今日も笑うなら
僕は何度だってこの 「猫の手」を貸そうと思う
……別に
その笑顔で僕も嬉しくなる とかじゃないけど。
コメント
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いえいえ、大丈夫ですよ笑
こちらこそすみません!!人違いでした!
無いですね…なんかすみません