TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

テラーノベル(Teller Novel)
シェアするシェアする
報告する

秋風が頬に触れて

麦の香りが鼻を掠める

ふわぁ……

きっと今日は小春日和

とても暖かくて

掃き出し窓の縁側で 思わずあくびをしてしまった

……ん?

あくび…?

あくび…アクビ…A KU BI…

……なんてことだ

この僕があくびだと?!

この暖かい気候に負けてあくび?!

何という失態…

僕に隙を作ってしまった…

これはまだ修行が必要……

……あ、そこの君

僕の貴重なあくびを 見れたんだぞっ!

喜べ☆

……と。

茶番は程々にして

リビングの方に行くと 同居人が絵を描いていた

彼は画家のようで とても美しい絵を描く

…ま、同居人の数少ない長所だ。

筆が滑る音だけが響くような

静寂が身を包んだ

また絵を描いているのかい

控えめに放ったはずの言葉は

簡単に彼の耳に届く

同居人

おや、今日の日向ぼっこは終わったのかい

白髪の目立つ皺だらけの顔が

クシャっと優しい笑みをこぼす

まったく。

僕に対して口の聞き方が 成ってないんじゃないか?

僕の家とご飯を用意してくれる だけ、良しとするか…

同居人

今、ご飯を用意するよ

あぁ、ありがとう。

いくら僕が上だからって

感謝を忘れてはいけない

キッチンに行った彼を 見送ってから

僕はイーゼルに乗った キャンパスを見た

やはり、彼の絵は 唸るほどに美しい

君はやっぱり才能があるねぇ

思わず呟くと

同居人

おや、気に入ってくれたかい

日だまりを込めたような声が キッチンから聞こえた

……まぁね

君にしては上出来なんじゃないかな

もっと素直な言葉で 言いたかったのに

思ったより素っ気なく なってしまった

同居人

そうかい、そうかい

同居人

それは良かった

ふと振り返ると

朗らかな笑みで彼が昼食を 持ってきてくれる所だった

空腹に耐えかねた僕は 朝食に食いつこうとした

──その時

同居人

同居人

待って。

彼の人差し指の先が 僕の鼻に触れた

同居人

その前に…

僕をキャンパスの前に手招くと

僕の手を朱色の絵の具に付けた

にゃっ、何するんだ…!

同居人

まぁ、落ち着いて。

キャンパスの右端に 僕の手が重なる

キャンパスには可愛らしい 猫の肉球が付いた

同居人

ほーら、これで完成。

今日一番に幸せそうな顔で笑う彼

すぐに僕を放して 昼食を食べさせてくれた

この手形は高いからなっ!

昼食に口を付けながらも

彼に念押しするように強く言った

あの作品が高く評価され

美術館に展示されることが 決まったそうだ

どれもこれも、僕のおかげだな

……なんて彼には言うが

彼の才能も誇るべきものだった

今日も絵を描いて

同居人は幸せそうに笑う

……別に、僕には関係ないけど

でも、彼が今日も笑うなら

僕は何度だってこの 「猫の手」を貸そうと思う

……別に

その笑顔で僕も嬉しくなる とかじゃないけど。

この作品はいかがでしたか?

5,122

コメント

78

ユーザー

いえいえ、大丈夫ですよ笑

ユーザー

こちらこそすみません!!人違いでした!

ユーザー

無いですね…なんかすみません

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store