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甲尾莱亜(こうび らいあ)
言って、甲尾はボールをこちらに寄越した。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
ボールをキャッチし、甲尾に投げ返す。
甲尾のオフェンスで再開だ。
甲尾莱亜(こうび らいあ)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
いちいち確認するな。
ここで甲尾が問いたいのは、距離を詰めて来ないのか、ということだろう。
そう、先刻甲尾自身がそうしたように。
確かに効果的だ。本気で勝ちを狙うのなら、そうするのもいいだろう。
だが、わたしはそうはしなかった。
一定の距離を取って、甲尾の出方を待つ。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
重い溜息一つ。
先程の1プレーが、胸中に重い雲を作り出していた。
九手いくる
隣で、変人がまったく笑わずにそう言った。
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
俺は自然と、九手の言葉を繰り返していた。
さっき解説をしてくれたので、今回もそうしてくれるんじゃないかと、何となく思ったからだ。
そしてそれは当たっていた。
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
そして3Pくらい知ってるっつーの。
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
突然。
何の脈絡もなく、九手は話を戻してきた。しかもこれ以上なく簡潔に。
要するに木崎は、遠くから精度の低いシュートを打たせて、自滅を誘ってるっつーことか?
相羽吾蓮(あいば あれん)
何となく、本当に何となくだけど俺は、九手の言っていることは、何か違うような気がしていた。
まだ数日の付き合いだけど、木崎は素人との勝負に拘るようなやつには見えなかった。
それに、あいつの顔――
勝負に集中してる人間の顔じゃ、ねーぞ?
頭に浮かんだ疑問が、妙に確信めいて俺の胸に居座りだした。
相羽吾蓮(あいば あれん)
九手いくる
相羽吾蓮(あいば あれん)
意識を九手に戻した瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
九手の顔に、同じ人間とは思えない程の表情が貼り付いていたからだ。
見るだけで凍えるような、そして触ればすぐにでも壊れそうな、
薄氷の仮面。
わかってる。
わかってるんだこいつは。
今木崎が、本当は何を考えてるのか。
そしてその上で、こんな表情を作ってる。
何なんだ、こいつ――。
得体の知れない恐怖に、背筋に一筋、汗が流れた。
その時だった。
ワッ――!
一際デカい歓声が、俺の体を叩いた。