ある日の放課後
美化委員の活動日だった
嫌々引き受けた俺とは真逆に
快く笑顔で受け入れた彼
____有栖初兎
月に1度隣り合わせで仕事に励むけど
実際話したことは無い
だけど気になったものがあった
彼に首元には赤黒い痣があった
そんな彼はただじっと紙くずを握りしめている
視線に気付いたのか声を掛けてきた
有栖が渡してきたのは1枚のビラだった
「生活保護受給者の受給抑制」
「不正受給の通報推奨」
「町政を圧迫する寄生虫共」
これ以上は読むのを辞めた
いわゆる生活保護へのバッシングというものだ
その会話以降俺らはまたゴミ拾いに集中したが
彼は物憂げな表情で作業をしている
何だか、嫌な予感がした
屋上で稲荷を見た時と似た表情
彼の回答は早かった
俺らの間に沈黙が続いた
彼が俺の家に泊まった日
制作途中のゲームをさせてみた
そこはどうしようも無い、と言おうとすると
そこから1時間弱で簡単なBGMを作ってくれた
率直に言うと、凄かった
なんて思ったのも5日前
彼は「一晩泊めて」と言い
宿泊グッズを全て持ってきた
その次の日に言った言葉は
「変質者が家周辺にいるから匿って欲しい」
本当かは知らんけど聞きにくくてそのままだ
お風呂上がりの稲荷が冷蔵庫の中から牛乳を取っている
俺はそれをぼーって見ていた
俺って稲荷が抱える問題にどんくらい踏み込んでもええんやろか、
考えれば考えるほど分からなくなってきた
フリーズしていた俺に稲荷が話し掛ける
そう問うと稲荷は唇を結びコップを強く握る
今の俺には自然な判断だ
週明けの休み時間
有栖たった一人だけ体育館のゴミ捨て場に立っていた
彼は座ってゴミ袋を漁っている
彼の言葉を無視してその場にあったゴミ袋を開封した
有栖は几帳面にゴミを分別していた
ボロボロの財布、穴が空いた運動靴も違う袋に
途中出てきた椅子の破片も全てプラスチック袋に入れていた
ただ、気になることがあった
俺は有無言わさず分別された財布を奪った
中には金は入ってなくて
「有栖初兎」の学生証のみ
ふと、彼の首元の痣を思い出した
彼はバスケ部のエースに近い存在のはずだ
意外だった、バスケ部部員にやられるとは
でもそこには絶対的な部長がいるはずだ
彼が前に「消えたい」と言ったことを思い出した
困惑している有栖に手短に説明した
こっちの事情としては大丈夫だ
ただ「消えたい」と呟いた有栖が心配だった
翌日、有栖は同居人になることを決めた
これが有栖初兎との出会い
声を掛けておきたい人物はもう一人居た
連絡綱の電話番号から住所を割り出し家に向かった
幸い、向かう途中で自転車に乗っている彼を見つけた
そう提案すると、獅子尾の表情が曇った
不安そうに家の方面をちらっと見ていた
その動気で、彼が家庭に問題を抱えていることを察した
普段ずっとクラスで寝ている彼だが
進路指導室から出てきた時の顔が忘れられなかった
苦しそうに唇をかみ締め、落ち込んでいるように見えたから
穏やかな口調で続ける
教師に叱られる時
泣きそうに顔を歪ませる現場を隣の席で何度か目撃していた
俺はそんな獅子尾を放っておけなかった
彼は両手を握りしめて俯いている
そこから近くのベンチに座り、長い間彼は悩んでいた
多分1時間弱くらい
絞り出すような声で獅子尾は呟いた
これが獅子尾悠佑との出会い