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広すぎるような玄関に上がり、待機していたのか女中に一条家の主人__一条葉蔵のいる部屋に通された。

一条 葉蔵

……ふむ

一条 葉蔵

黒井がどうかしたのかね

拘束された黒井を見ても尚、自分は無関係だと言わんばかりの言い草でこちらに問いかける。

その声は低く、どこか苛立ちを含んでいた。

朝霧 司

いえ、この映像について詳しくお話を聞かせて頂こうと思いまして

そう言って朝霧司刑事は葉蔵の前にスマホの画面を突き出す。

映っているのはどこか暗い場所に拘束された一条彩葉の姿だけ。

しかし自分の娘が今危ない状況であるにも関わらず、葉蔵は顔色一つ変えないどころか、苛立っている。

一条 葉蔵

__これがなんだと言うのかね

ぴしゃりとその場の空気が凍りついた。

月見 晴翔

ほう、あんた本気か

一条 葉蔵

誰だね君は

驚いた声を上げる月見に、葉蔵は問いかけた。

月見 晴翔

いやこれは失礼、探偵ですよ

月見 晴翔

依頼で来たのだけど、なかなか酷い態度ですね

月見 晴翔

僕にも、貴方の娘さんにも

煽るように月見は淡々と述べる。

遂に苛立ちを隠せなかったか、葉蔵は一度強く机を叩きつけた

一条 葉蔵

あいつは問題ない、そこの女中が焦って警察に通報しただけだ

一条 葉蔵

全くもって問題は無いのだよ

椅子から立ち上がり、月見や朝霧に怒鳴りつける。

そんな葉蔵の姿に月見は、可笑しくなったのかくすくすと笑った。

一条 葉蔵

な、何を笑っている

一条 葉蔵

兎にも角にも帰りたまえ、警察も不要だ!

月見 晴翔

いや、それは無理な話だね

月見 晴翔

それにしてもそうか、ははっ

出雲 治

晴翔さん、あんまり煽っちゃダメですよぅ…

月見 晴翔

いいや心配ない、それが目的なんだ

ぼそぼそと出雲と月見が話している。

話し終わったかと思うと、出雲はまたもや部屋を出ていってしまった。

しかし、そんな出雲の行動に他三人が気付く筈もなく、相も変わらず空気はピリついている。

部屋の中で、楽しそうな月見の姿に朝霧や黒井が困惑の色を広げる。

朝霧 司

おいおい探偵さんよ

朝霧 司

こっちも何が何だか分かってねぇんだ、説明を頼むぜ

一条 葉蔵

説明も何もあるか、帰れと言っているだろう!

朝霧 司

いや、こちらもこれが仕事でしてね

朝霧 司

事件のニオいがするもんだから、一条葉蔵、とにかく調べさせてもらおうか

一条 葉蔵

な、なっ…!

一条 葉蔵

黒井、お前も何とか言え!

一条 葉蔵

だいたい、お前が困っているからと__!

黒井 千歳

ご主人様!

「お前が困っているから」という言葉にギョッとしたのか、黒井は目を見開く。

そんなやり取りをする二人を横目に、月見は口を歪め、声を殺すように笑っていた。

月見 晴翔

あー、面白いね君たちってば

月見 晴翔

取り敢えずいいかなあ、喋っても

一条 葉蔵

言葉を慎め、ここが誰の屋敷だと…!

月見 晴翔

娘を金としか見てない主人の屋敷だろう?

月見 晴翔

それくらいは分かってるさ

黒井 千歳

ご主人様はそんな事ありません!

一条 葉蔵

そ、そうだぞ、第一私は娘を大事に思っていてだな_

出雲 治

何処がそう言えるんだい?

先程まで部屋を出ていた出雲が、手に小さなノートと手帳を持って部屋に入ってきた。

待ってましたと言わんばかりに、月見が一歩下がった。

出雲 治

この手記は今、彩葉さんの部屋から拝借してきたものだ

出雲 治

そしてさらに、そこらを歩いている女中に話も聞いてきた

出雲 治

もちろん、通報してくれたそこの女中にも、だ

朝霧 司

おお、いつの間に…なかなかやるじゃあないか

一条 葉蔵

なんて勝手な事を…たとえ警察だとしても許せん!

一条 葉蔵

もう出て行ってくれ!そしてこの事をこれ以上詮索するな!

再び怒鳴りつけ、更には手まで上げようとしたため、危険を察知したか待機していた他の警官が一条葉蔵を拘束した。

一条 葉蔵

離せ!

散々喚き暴れるも、訓練を受けた警官には力では勝てない。

それを悟ったか、数分もすれば葉蔵はぱたりと大人しくなった。

部屋には拘束された一条葉蔵と黒井千歳。

そして、それを見下しくつくつと喉を鳴らして笑う二人の探偵と、困惑の色を広げる朝霧司刑事、その他警官。

異様な光景に、外に出ていた女中も集まってきたようで、一条葉蔵の思いとは裏腹に、事は更に大きくなっていた。

月見 晴翔

いやはやなんだか事が大きくなってしまったようだね

出雲 治

本当ですねえ、まさかここまで大きくなるとは…

わざとらしく、更に人を集めるように声を大にして言った。

廊下の方からもざわめきが聞こえてくる。

朝霧 司

あーそうだなあ、そろそろ真相を教えてくれやしないか

月見 晴翔

それもそうだね

月見 晴翔

じゃあ頼んだよ、出雲

出雲 治

はあい、了解しました

出雲 治

それじゃあ、まずはこの手記を見てもらおうか

朝霧 司

あ、ああ……?

古びた手記を取り出し、ぱらぱらと捲る。

長く使っていたのか、もう殆どのページが何かしら書かれていた。

出雲 治

この手記は被害者である一条彩葉が書いた手記だ

出雲 治

1番直近で書かれたものは1週間前の日付になっている

朝霧 司

…それがどうしたんだ?

出雲 治

いや?別に何もないよ

出雲 治

この手記にはね

月見 晴翔

正確にはこの手記の中に挟まれた写真だ

出雲 治

あっ、私の台詞…

出雲 治

と、兎に角ね、この写真に写っているのは彩葉さんと黒井千歳、そして通報者である女中だ

台詞を取られたことに困惑するが、ここで話しを止めるわけにもいかないのでできるだけ冷静に話を続ける。

朝霧 司

じゃあ、この女中も一条彩葉の付き人ってことかい

月見 晴翔

そういうことだね

月見 晴翔

しかも随分最近入ってきた人じゃあないのかい

月見 晴翔

写真が新しいからね、大体半年前かな

出雲 治

晴翔さん、私が今から言うこと全部取るのやめません?

月見 晴翔

ふふ、ごめんごめん

謝る気のない謝罪に溜息をつくが、晴翔さんなので許すしかない。

許してしまうのは、自分でも心底彼に惚れているからだと思う。

まあ、それが恋愛的になのかは置いておくべきことだが。

出雲 治

…ええと、何の話だっけ

朝霧 司

お前がそれを言うのか?!

出雲 治

あはは、ごめんよぅ

出雲 治

えーっと、嗚呼…女中のことか

出雲 治

日記の内容や女中が通報者であることから安易に推測すれば、一条彩葉はその女中に懐いていたと考えられるはずだ

日記の内容とは、狭い世界でしか生きていない少女がその日その日の楽しかったことや思い出話を淡々と綴ったものだった。

その日記に最も多く書かれている名前が女中の名前であった。

日記を真面目に一から読んで見ると分かるのだが、女中が来た日に写真を撮りたいと言ったのは他でもなく一条彩葉だということが分かる。

この人なら自分を救ってくれそうだと、そう思っての行動だったのか、単純に自分に構ってくれる人間が珍しかったのか。

月見 晴翔

でもまあ、一条彩葉も賢いね

月見 晴翔

自分の命を救ってくれる人が本能的に分かるのだから

出雲 治

ええ、本当に

朝霧 司

あーっとだな、そろそろ事件の真相について教えて欲しいんだが

出雲 治

まあ端的に言いますと、犯人は一条葉蔵と黒井千歳の二人ですね

月見 晴翔

へえ、根拠は?

分かっているくせに聞くのは、時間稼ぎのためなのだろう。

まあ全ては計画通りに進んでいるのだから、問題は無い。

出雲 治

まず一つ、黒井の証言は嘘だ

黒井 千歳

な……っ、何を根拠に!

黒井が懸命に抵抗して声を荒らげる。

そんな様子に溜息をつくが、子犬が吠えていると思えば可愛いものだ。

出雲 治

大体ね、君のスマホの中身が証拠でしかないのだよ

朝霧 司

確かにそうだな

朝霧 司

あの一条彩葉の映像は嘘でもなさそうだ

出雲 治

更に通報時の黒井の音声は酷かったそうだな?

朝霧 司

あ、ああ…ありゃ電波が悪いのかと思ってるが

朝霧 司

こんな山奥だ、しかもきっと通報は黒電話だろうし

出雲 治

確かにそう思えるだろうけど、その時間、黒井はコンビニ店員として働いていたはずだ

出雲 治

これはコンビニ側に確認をとってあるし、監視カメラでも分かることだ

出雲 治

更に黒井にはスマホがある

出雲 治

電話の時に聞こえた黒井のノイズがかった声は、スマホからの声だ

朝霧 司

ふうむ……なるほど、それはスマホの履歴で分かることだな

朝霧 司

確認は__

月見 晴翔

もちろん確認済みだ、ねぇ出雲?

出雲 治

え、えぇ

出雲 治

通話相手は一条葉蔵ですが、その辺は女中に確認を取りました

朝霧 司

ということは、女中は一条葉蔵に電話を取られたと

出雲 治

ああそうだ

朝霧 司

……ん?何故女中は一条彩葉の誘拐に気が付いた?

月見 晴翔

他の屋敷内の人達の噂で伝わったそうだ

月見 晴翔

ま、朝からお嬢様の姿が見えなきゃその噂話も信じるはずだよ

出雲 治

さて、以上を証拠に、犯人は一条葉蔵と黒井千歳の二人だと推理するよ

朝霧 司

何か言いたいことはないか

朝霧 司

まァここまで揃ってりゃあ聞き入れてやれねぇが

やれやれ、といった様子できつい拘束と手錠をかけられた二人を見ていた朝霧刑事。

しかし突然、部屋に笑い声が響き渡った。

一条 葉蔵

くっ、ははは!

一条 葉蔵

言いたいことだと?

一条 葉蔵

よくまあここまで時間を稼いでくれたものだ!

一条 葉蔵

黒井、ボタンだ、起爆しろ!

起爆、という言葉に晴翔さんが顔を青くした。

まるで想定外のことが起こったかのようだった。

そんな晴翔さんの表情を見た一条葉蔵は、心底嬉しそうに下品に顔を歪めた。

途端に外の物置のある方向から爆発音が聞こえてくる。

朝霧 司

__!お前たち、何をした!

黒井 千歳

起爆しただけですよ

黒井 千歳

貴方達が時間をかけて推理してくださったおかげで、踏ん切りもつきました

黒井 千歳

これできっと、お嬢様は……嗚呼、残念です

ゲラゲラと下品な笑いが廊下にまで響き渡る。

顔面蒼白だった晴翔さんの様子を見ると、肩を小刻みに震わせていた。

月見 晴翔

まぁ、本当に残念だな

朝霧 司

はァ?!お前、一条彩葉は__

死んだかもしれないんだぞ、そう言葉を続けようとした刑事は、不意に口を噤んだ。

部屋の扉の向こうに見える人物を見て、一瞬驚きを見せたが、その後すぐに安堵の表情に変わった。

一条 葉蔵

あ、な、嘘だ……

一条 葉蔵

何故お前が……!

月見 晴翔

どうやら、僕らの勝ちのようだ

警官

出雲探偵、無事救出できました

出雲 治

ああ、ああ、よくやったよ

そう言って出雲に報告に来た警官の腕の中には、一人の少女が抱えられていた。

月見 晴翔

まず僕らが長々と推理していたのには理由がある

月見 晴翔

まあ、もう分かってるだろうが…

朝霧 司

救出のためか…!

出雲 治

うん、あの映像からどの辺か推測くらいはできる

出雲 治

荷物も多かったし部屋は酷く暗かったし、この本邸に地下室があるとも思えない

月見 晴翔

離れにある倉庫が目に付いたってわけだ

月見 晴翔

なかなかいい推理をするよね、出雲も

出雲 治

まあ半分は勘でしたがね

出雲 治

私の勘が正しくて私も救われましたよ

月見 晴翔

さぁ、大人しく連行されたまえ

口を三日月に歪ませて笑う月見。

それに観念したのか、一条葉蔵と黒井千歳は顔を青くしながら大人しく連行されていった。

帰りも、月見が安全運転で山道を運転する。

出雲 治

それにしても、なかなか大変な事件でしたね

月見 晴翔

ああ…一条家がああも事件を起こしたら、この後も大変だろうな

出雲 治

げ、私マスコミの取材嫌いなんですよねえ

出雲 治

はあ…有名人とは辛いものですね

月見 晴翔

有名人か、確かにそうかもな

出雲 治

…あの

出雲 治

こんなことを聞くのもあれですが

月見 晴翔

出雲 治

…どうして私が犯人じゃないのを分かってたのに弁明してくれなかったんですか

気まずいのか、出雲は月見の顔を見やしない。

しかしその声色には怒りや失望はなく、ただ単に疑問があるといったところだ。

月見 晴翔

ああ……すまなかったね

出雲 治

いやっ、謝ってほしいとかそういうんではなくて!

出雲 治

ただ単に疑問なんです

あたふたと慌てる出雲の様子に、月見はくすりと笑った。

月見 晴翔

そっちのが都合が良かったんだよ

月見 晴翔

自分の証言は今のところ信じられている

月見 晴翔

そういう風に思わせたかったのさ

出雲 治

嗚呼、なるほど…

出雲 治

ふふ、やっぱり貴方は凄いですね

月見 晴翔

納得してくれたみたいで良かったよ

月見 晴翔

第一、僕はお前を疑わない

月見 晴翔

お前を信頼しているからね

出雲 治

そう言って貰えて嬉しい限りです

そう言うと、ふいと窓の方に顔を向けた出雲だったが、その耳は紅く染っている。

月見はそんな出雲に気付いていたが、見なかったことにしてあげよう__と思った。

__to be continued

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