ぬっし〜
ぬっし〜
ぬっし〜
ぬっし〜
ぬっし〜
佐渡
佐渡
放課後スマホをいじりながら机の上に座って待っていると、佐渡ちゃんの声が教室に響いた
ホームルームは1時間以上前に終わっていて、俺一人しかいない教室では、佐渡ちゃんの声はよく聞こえる
5時半も回ったし、もうそろそろ来る頃だと思っていた
だからその声に、特に驚くことなく顔をあげる
そして、教室のドアにもたれかかって俺を待ってる佐渡ちゃんの姿を見て、腰を上げた
「遅くなってごめん」の一言くらいあってもいいのに、と思いながらも、いつものことかと諦めて、無言で彼の方へと向かう
佐渡ちゃんが俺を迎えにくるのは、いつもホームルームが終わって1時間以上経ってから
なぜなら、教室に残って友達と話してるからだ
梨衣
悪びれる様子のない彼に近づいて、余計なことは言わず訪ねた
佐渡
梨衣
それ以上何も言わず歩き始めた佐渡ちゃんの後ろをついて歩く
…いつからかな? 手を繋がなくなったのは
思い出せないところを見ると繋がなくなったのはずいぶん前だろう
自分の手を見つめてぎゅっと拳を掴んでから俺もポケットの中に手を入れる
佐渡
梨衣
俺達は端から見れば普通の恋人同士に見えるだろう
……もしかしたら、友達に見えてるかも
並んでる二人の間に距離があるのは傘を差してるからだけじゃない
そして離れてるのはきっと、見た目だけじゃない
それなりに笑いながら話してるのに今日かわした会話を明日思い出せと言われたら、たぶん、俺にはできない
現に、前に話したことを俺は覚えてない
そもそも、前に出かけたのがいつだったのかも思い出せない
それくらい、俺達の毎日は同じリズムで変化もなく繰り返しながら過ぎていってる
佐渡
佐渡
梨衣
別に、いつもと同じ
ちょっと朝が気に入らなかったとか
ちょっとテストの出来が悪かったり
そんな気分に追い打ちをかけるように雨が降ってるとか
ただそれだけ
佐渡
佐渡
意味がわからないというような顔して俺を茶化すように笑った佐渡ちゃんにほんの少しムッとした
人の気も知らないで……
というか、この沈んだ気持ちの原因には、少なからず佐渡くんも含まれてるっていうのに!
佐渡ちゃんは楽しそうに 「そんな顔してんなよw」 と笑った
……佐渡くんはいつも楽しそうに笑う
大きく口を開いて目を細めて毎日楽しそうに笑ってる
俺といるときも友達といるときも
彼の明るい笑顔が俺の胸をチクチクさせる
佐渡
映画館近くのファーストフード店に入ってすぐ、佐渡くんは俺に傘を預けて、店の奥に向かった
店の奥にある物といえば、トイレだ
小走りで行く姿を見ると今まで我慢していたのだろう
傘の水を軽く払って中にはいると、年内は、俺達と同じ学生で埋め尽くされていた
6時前だし、混むよね
どこを見ても人ばかり
席なんか空いてないんじゃないかな
そう思って、いったん注文しようと並んでいた列から出て、先に席を確保するために店内をぐるりと回った
やっぱりどこも開いてそうにない
佐渡ちゃんが戻ってきたら他の店に行こうかと思ったとき、すぐさまそばのテーブル席の女の子達が立つのが見えて、駆け出そうとした
優しい男の子
踵を返してすぐ、どんっ、という衝撃と同時に、背後から男の声が聞こえる
………え?
声のした方に目を向けると、一人の男の子の制服がびしょ濡れになっていた
これはどう見ても、俺の傘が当たったから、だよね?
梨衣
傘が彼にぶつかって、制服を濡らしてしまったんだろう
慌てる俺と、「いいです、いいです」と笑顔で水を払う彼
けれど、雨水が染み込んで紺色の制服が黒色に変わってしまってる
梨衣
ポケットのハンカチを出し、しゃがんで服を叩いた
すると、男の子も俺と同じようにしゃがんで、
優しい男の子
優しい男の子
と言って逆に申し訳なさそうに笑ってくれた
この落ち着いた雰囲気を見ると年上かな?
優しい人でよかった
そう思うけど、優しいからこそ謝るのと服をハンカチで叩く事しかできないことに、申し訳ない気持ちで一杯になる
佐渡
その時、不機嫌そうな声が頭上から聞こえてきて、顔を上げた
後ろにはトイレから戻ってきた佐渡ちゃんが俺を見下ろしてる
眉間にシワを寄せた顔は声と同じように不機嫌だった
……なんでそんな顔してるんだろう?
梨衣
佐渡
いや、だから傘ぶつけたんだよっ!
そう言ってるじゃん
梨衣
優しい男の子
男の子は腰を上げて佐渡ちゃんにペコリと頭を下げた
俺達の雰囲気を感じ取って気を使ったのかもしれない
傘はぶつけるわ、気を使わせるわ、本当に申し訳ない
梨衣
そのまま立ち去るわけにも行かなくて持っていたハンカチを彼に渡すと、彼は「ありがとう」とハンカチを受け取って友達のところに歩いてった
本当に……何やってるんだろう
優しかった彼の背中を見て、自分の注意力のなさに落ち込んでしまう
佐渡
梨衣
佐渡ちゃんはそう言ってスタスタ出口へ歩き始めた
………勝手だなぁ
さっきの人とは大違いだ
そう思いつつも、店内にはもう空いてる席はないし、ここにいても仕方ないと、佐渡くんを、追いかけた
佐渡
先を歩いていた佐渡くんに追いついた途端、前を向いたままの佐渡くんがぶっきらぼうに言った
さっきの俺のことだろう
梨衣
佐渡
バカだと言われても仕方ないくらい俺が悪いけど……、
そんな言い方しなくても良くない?
佐渡ちゃんにぶつけたわけじゃないしさぁ
佐渡ちゃんの言葉にムッとして、思わず
梨衣
ボソっとイヤミをつぶやいた
佐渡くんはチラッと俺を見て「知るか」と返すと、そのまま先を歩いていく
俺に大丈夫か聞いてくれてもいいのに
まぁ、期待はしてなかったけど
でも、もう少し言い方あるよね?
バカは余計です〜!!
梨衣
ため息をつき歩く速度を落とす
佐渡ちゃんはまだイライラしているのか早足だ
とろとろ歩く俺と彼の距離はどんどん開いてく
しばらくすると佐渡くんは足を止め振り返った
佐渡
……なんで、そんなに、偉そうなの?
ムカつくのでそのままの速度で歩く
俺のことを待ってる彼の姿をなるべく見ないように視線を落とした
そんな俺に対してだろう
隣に並ぶと、今度は佐渡くんのため息が聞こえてきた
佐渡
俺に何かを言いかけたとき
ーーープルルル
と、スマホの着信音が彼のポケットから響く
佐渡くんは言いかけた言葉を飲み込み、渋い顔でスマホを耳に当てる
佐渡
立ち止まり話し始める佐渡くんのそばで、道行く人の姿を眺めた
歩く人の中には笑顔の人もいるのになんで俺は笑えないのかな
まぁ、笑わないといけない理由なんてないけど
毎日、全然、面白くも楽しくもない
愛想笑いもどんどん下手になっている
佐渡
横から少し焦ったような困ったような声が聞こえて、声の方に視線を向ける
佐渡くんは声と同じように困った顔をしていた
佐渡
今から?どこに?一緒に映画に行くんじゃないの?
………イヤな、予感がする
佐渡
佐渡
佐渡
さっきまで怒ってたくせに
都合が悪くなると申し訳なさそうな顔をするなんて、ずるい!
梨衣
佐渡
何それ?
なんの用事かくらい言ってもいいんじゃない?
さっきの電話で何かあったでしょ?
今日誘ってきたのはそっちなのに
理由も言わず、今日は無理、なんて
勝手に、今更違う用事行くの?
梨衣
佐渡
嘘つき。悪いなんて思ってないくせに
だいたい来週って何?明日じゃだめなの?
なんで、最近そんなに忙しいの?
ーー『男の子と一緒に歩いてた』
ふと噂を思い出し唇をきつく噛んだ
その男の子と会うの?
電話はその子からだったの?
今日は俺と約束してたのに、その子の方をとるんだ
最近忙しいのはそのことあってるからなの?
聞きたいことが次から次へと出てくる
でも、言いたくはないきっと喧嘩になる
佐渡
バカ佐渡!
何もわかってない。何も感じてない
なんで俺がこんな気持ちにならなきゃいけないの?
梨衣
梨衣
佐渡
そうさせてるのは佐渡ちゃんでしょ?
なんで俺が悪いみたいに言われなきゃいけないの?
まるで俺が駄々こねてるみたいじゃん
梨衣
梨衣
梨衣
思わず出た言葉に慌てて口を閉じ、佐渡くんから目をそらした
雨の音が聞こえる
雨の音がうるさい
佐渡
俺の発言に対して、佐渡くんが眉を釣り上げた
もう、何も言いたくない。怒った顔も見たくない
佐渡
何も言わずにうつむいてる俺に、佐渡くんは大きなため息をついた
そして、バシャッと言う足音ともに歩き始める
その後ろ姿を今見てしまうと、涙が溢れてしまうだろう
勝手すぎる佐渡くんに、悔しさと惨めさを感じて、泣いてしまう
こんなくだらないことで泣くもんか!
そう思って離れてく彼の方を見ずに勢い良く背を向けた
もう知らない。
もう関係ない
どうでもいいんだ……!
唇から血が出そうになるほど噛んだその瞬間
キィィ……! ドン!
今まで聞いたことない音が、雨の中に響きわたった
ブレーキの音
何かにぶつかる音
……そして、人々の叫び声
それは、私の背中から
佐渡くんが歩いていった方から聞こえて………
モブ男
モブ女
誰かが、叫ぶ
……な、にが……?
どうした、の?
人々が、音の響いた方に走っていくのが視界に入って、俺もゆっくりと、振り返った
まるで、スローモーションのようにゆっくりと
俺一人だけ、世界において行かれたみたいに、周りの人たちがすごいスピードで動いて見える
俺の横を、何人もの人が通り過ぎる
叫びながら走る人、友達と向かう人、興味本意でスマホ片手に近づく人
みんな向かう場所は同じだ
歩道を乗り上げて止まったままの大きなトラック
その周りに人々の塊ができる
俺一人が時間において行かれたように立ち尽くしている
考えることはできるけど現実味が無い
まさか……?
いや、そんなことない
まばたきすらも忘れてその姿を探した
佐渡くんを
俺の彼氏の姿を…
どのくらいの時間、俺は立ち止まっていたんだろう
1秒かもしれないし、1時間かもしれない
感覚があやふやすぎて、何もわからない
ただ、ふと、動かないと、という思考にとらわれた
梨衣
小さくその名を呼んで、無理やり足を動かす
こんなに体って重かっただろうか?
傘さえも重く感じて築いたら地面に落としてた
ほんの数十メートル先の人だかりにいつまでもたどり着かない
佐渡くんの姿がまだ見つからない
……どこに行ったの?
あの人だかりの中?
梨衣
やっと近づいた群衆の中に入りとても小さな声でつぶやいた
雨だとか濡れるとか汚れるとか、そんなのはどうでもいい
なんでもいいから早く、俺を中に入れて
どいて、通れないから、どいて
なんの音も聞こえない
頭の中にノイズがかかったように頭の中に何も入ってこない
佐渡くんを探すたびに近づく人だかりの中心
足を前に出すたびに、心臓が激しく暴れる
梨衣
人をかき分けて無理やり入ったその中心には、赤く染まった人が、地面に横たわっていた
梨衣
俺が見間違えるわけがない
佐渡くん、佐渡ちゃんの、姿
佐渡ちゃんを中心にして、地面が赤く染まっていく
じわじわと雨を含んだ赤いソレは、俺の足元まで伸びてきた
周りの人が話しかけてきたけど、うまく聞き取れない
目の前の佐渡ちゃん
真っ赤になった佐渡ちゃん
俺が来たことに気づかないで、目を閉じてる佐渡ちゃんはまるで、眠ってるみたいに見えた
一体何があったのか
どうして、こうなってるのか
梨衣
ふらふらと彼に近づいて、すぐ横にぺたりと座り込んだ
そして、彼の体を揺さぶる
けれど、彼はピクリとも動かない
梨衣
それでも、何度も呼びかけ手を握りしめた
久々に触れる佐渡ちゃんの手は鉛のように重たく冷たい
佐渡ちゃんの手ってこんな感じだっけ?
開かれない瞼 動くことの無い手
ただひたすら流れ、広がっていく血と雨
雨が、俺を刺す
それは、強く
強く
そして、痛く
ああ、ほら。今日はやっぱりーーー
ぬっし〜
ぬっし〜
ぬっし〜
♡ 1000
ぬっし〜
コメント
20件
ブクマ失礼します!
オッワタオワタオワッタッタッタージンセイツミマシタッタッター((((((真面目にストーリーが難しすぎて馬鹿な俺にはわからん( ᵒ̴̶̷̥́ ^ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )
やっぱゆんちゃちゃさんの作品好きですぅ~~!泣くよ?