扇風機が音を鳴らし続けながら、回る部屋で彼の手をそっと触った。
生が感じられないような冷たさと俺の中で濁る泡が混合したような感覚になる。
熱いな ──。
身体にひやりと纏わりつく熱風、 指先まで流れる赤黒い液体。
久 弥
藍は息苦しい日々を息苦しいまま、生き続ける典型的な人だった。
どこまでも伸びて、どこまでも己を愛してくれる。
親から冷遇される俺を優遇してくれる。
生きるべき人だ。
それなのに誰かの手によって巧妙な手口で殺害されてしまった。
偶像化されたものを反影させても道理を果たせなかったのが理由だとその人は言う。
俺からしてみればそれは身勝手な理由だったと思った。
人間ではないその人を冷遇してしまいたい。
でもそれが叶わないのが運命というやつで。
小雨のような涙を流しながら携帯を手に取る。
怒りなのか、恐れなのか、得体の知れない感情で通話ボタンを押す。
幸いにもその相手はすぐ出た。
多忙な時間帯なのか、中から人やら物やらの声が聞こえる。
久 弥
久 弥
久 弥
冗談じゃない。
そう言いかけたものが喉につっかえた。
久 弥
意外にも相手の反応は怒りが湧き上がるほどに小さく、ぶつかりようのある所へ飛び出してしまいたかった。
久 弥
思えば、彼は俺のストーカーだった。
そこから親しくなり、常軌を逸している行いをするようになり始めた。
彼のために万引きをしたり、人を挑発するような態度をとったり。
世間からすればそれは普通よりも少し上、もしくはそこまで気にしない程度の度合いかもしれない。
でも俺にとってみればそれは常軌を逸していることだ。
久 弥
久 弥
鬱憤が少しずつ溜まる。
でも、冷静に考えたら分かることだ。
相手の意見が正しい。
久 弥
久 弥
久 弥
久 弥
久 弥
久 弥
身震いがした。
冷や汗と一緒に生ぬるい汗が額のてっぺんから流れ出る。
久 弥
警察に突き出したところで犯人が分かるわけがない。
通話ボタンを切り、携帯をどこか分からない場所へ放り投げる。
警察がこのアパートに来るまでは最後のひと時を過ごしていたい。
その間に犯人を殺してしまおうか。
そう考えている時だった。
インターホンが鳴り、肩がピクッと反応する。
こんな時に誰だよ。
うるせえな。
声は出せなかった。
声を出せる気力が出るほど、余裕が無かったのだ。
目眩や肩凝り、事後の乱れた服があまりにも酷い。
僅かに残る力で手を伸ばし、犯人が残している置き手紙を見た。
先程綴ったような文が犯行の理由だと記されている。
苦しい ──。
読むだけで視界が右往左往に回り続けて止まることを知らない。
何分か経った後、階段を降りる音が聞こえた。
安心だ。
怒りをぶつけるように紙を丸め、近くのごみ箱に捨てる。
彼の頬を撫でた。
殺されたと思えないほどにいつもと変わりない触り心地だった。
久 弥
久 弥
現実を受け入れられない。
当たり前が崩れ去った時の絶望と憔悴が身体を襲うから。
最期を迎えた彼の唇に最後のキスをする。
やっぱりすきだ。
久 弥
久 弥
久 弥
遺骨を持ち帰り、皆が携帯を常に持つように俺もそれを待って。
彼が死んでも、生きてても常にいるのは変わらないと証明する。
久 弥
死んでくれてよかった。
これでよかった。
美しくい続けてくれ。
そうじゃないと俺は藍を愛しきれない。
藍は愛らしく、いてくれれば俺は何だってするのだ。
例えそれが殺人だとしても。
コメント
14件
誰かの手によってって書かれてたからそれを信じて最後まで読んだら意味不明になってしまった。 だけど、最後の文で気付いたよ、主人公が犯人じゃん!!! 死んでる藍に愛があるんだね。 だから、死んでくれて良かったの意味に死んでくれたから愛し続けられるっていう意味も含まれていると予想
結局主人公の愛するあいは、死んだ姿のあいだったんだね🙂醜い奴はいらない、死んだ姿こそが美しい的な異常な性癖の持ち主だということがわかりました。
殺人者は主人公だったってこと?!!全然わからなかった...作者様表現がよすぎです!!