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コメント
1件
やばい、ゾクゾクが止まらない…!認知症で露子を忘れた慎一の前に、あの日の姿のまま怪異として現れる第3話、最高でした😭 スマホを「面白い板」と言う無邪気さと、死人みたいに冷たい指先のギャップが怖いのに切ない…。「後ろの正面、だあれ?」からの世界が割れる音、鳥肌立ちました。最後に自ら光の場所を手放して露子の手を握り返す選択、歪んだ情愛なのにエモすぎて…続き待ってます✨
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不意に、部屋の自動ドアが、 静かに横へと滑った
足音は、しなかった
一ノ瀬露子
慎一がゆっくりと首を動かして入り口を見ると、 そこに、一人の少女が立っていた
都築慎一
慎一は、その少女を見て、 不思議に思った
少女は、今の時代には珍しい、 ひどく泥と煤に汚れた、古めかしいセーラー服を着ていた
おさげ頭の黒髪の隙間から、 双眸が覗いている
それは、ビー玉のように全く光を通さない、 しかし、底が抜けたように澄み切った、奇妙な瞳だった
慎一は、目の前の少女のことを覚えていないが、 どこか見覚えがあり、懐かしい気持ちに浸っていた
都築慎一
老いた慎一は、穏やかに微笑んだ
目の前の少女が、 写真に映るおさげ頭の少女と同一人物なことすら、 今の慎一には気づけない
少女・一ノ瀬露子は、 今にも消えそうなくらい、儚い笑顔のまま、 音もなく部屋の中へと歩み進めてきた
一ノ瀬露子
露子は首を傾げながら、 老いた慎一のことを見つめて尋ねる
都築慎一
一ノ瀬露子
露子はふっ、と微笑むと、 彼女の頬がピンク色に染まった
それは安心したのか、露子の肌が白すぎたのか、 どちらかはわからない
露子は現代の、白くて清潔な療養室を珍しそうに見回すと、 ベッドの脇にあるスマートフォンに細い指先で触れた
画面がピカリと青く光る
一ノ瀬露子
鈴を転がすような、無邪気な声だった
都築慎一
一ノ瀬露子
現代を生きているはずなのに、 スマホの使い方を知らないどころか、見たことすらない
そして、やけに古いセーラー服を着た露子に、 慎一は妙な違和感を抱く
露子はスマホに飽きると、今度は慎一の枕元にある、 あの古い写真を取り上げた
指先が触れた部分から、写真がジワジワと、 セピア色から黒く侵食されていく
一ノ瀬露子
露子が、写真を慎一の目の前に突き出す
慎一は、濁った目を細めて、写真に写る不器用そうな少年と、 その隣で冷ややかに笑う自分の姿、 そして、中央にいる露子の姿を見つめた
都築慎一
慎一は優しく、首を振った
都築慎一
都築慎一
慎一がそう言って、愛おしそうに目を細めると、 露子は美しくも不気味な笑顔で笑った
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
露子の綺麗な指先が、 慎一の皺くちゃな頰に触れた
しかし、その指先は異常に冷たくて、 まるで死人のようだった
一ノ瀬露子
露子が言葉の続きを口にしようとしたその瞬間、 慎一の脳裏を覆っていた朝霧が、 凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされた
一ノ瀬露子
窓の外の、薄桃色の夕焼けが、一瞬にして、 ねっとりとした血のような真紅へと跳ね返る
彼女のセーラー服の裾から、炭鉱の奥底に渦巻いていた、 おぞましい赤黒いモヤモヤが、滝のように溢れ出して床を埋め尽くしていく
都築慎一
脳細胞の隅々に、 忘れていたすべての「狂気」と「恐怖」が、 濁流となって蘇る
思い出した、 この底がわからない、奇妙な空白
醜い本心ばかりで冷め切っていた慎一でさえ、 唯一本心が、最期の最期まで、わからなかった相手
そして、勲を殴り返してしまったほど、 夢中になってしまい、特別になっていた相手
都築慎一
慎一の双眸に、あの12歳の頃の、 世界の全てを見抜くような鋭く冴え渡った光が戻る
しかし、もう遅かった 慎一に選ばれなかった露子は「怪異」として、現代にやって来た
露子は、慎一の胸元に顔を近づけると、恋人にするように優しく、 けれど絶対に逃がさない力で彼の細い首に腕を回した
彼女の身体から溢れる赤黒い怨念が、 慎一の細い身体を繭のように包み込んでいく
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
白い壁が、天井が、 ぐにゃぐにゃと奇妙な曲線を描いて歪んでいく
機械の電子音は、いつの間にか、 遠くで響く子供たちの不気味な童歌へと変わっていた
生涯をかけて背負った呪いは、死ぬその瞬間まで、 慎一を逃しはしなかった
自分のすべてを狂わせたこの少女に、 最期の最期でまた「認識」され、その深淵に囚われることに、 慎一の魂は、恐ろしいほどの高揚感と、どこか狂ったような救いを感じていた
露子は、慎一の耳元に唇を寄せ、 耳を劈くような無邪気な声で、こう囁いた
一ノ瀬露子
パリン、と世界が割れる音がした
ベッドの上の老人は、 すでに息を引き取っていた
心電図の波形は、 静かな一本の直線を描いている
しかし、不思議なことに、 老衰で亡くなったはずの都築慎一の亡き顔は、 恐怖に歪んでいるわけでも、安らかに眠っているわけでもなかった
彼の目は、何かに取り憑かれたように大きく見開かれ、 その口元は、誰かと、永遠に終わらない遊びを始めたかのように、 不気味に、歪んで笑っていた
枕元に残された古い写真は、いつの間にか、 三人の子供の姿がすべて真っ黒な炭のように塗りつぶされ、何も見えなくなっていた
都築慎一の魂は、 永遠に明けない「あの日の夕焼け」の中にいた
どこまでもねっとりした、 赤い空
炭鉱の煤煙が混じった、 じっとりとした空気
耳を澄ませば、 遠くから「かごめかごめ」を歌う子供たちの、 抑揚のない声が風に乗って聞こえてくる
療養室で88年の寿命を終えたはずの慎一の身体は、 いつの間にか、あの薄汚れた詰襟タイプの制服に半ズボン姿の、 12歳の少年の姿に戻っていた
都築慎一
慎一は、自嘲気味に口元を歪めた
ここは現実の夕凪村ではない
自分が生涯をかけて囚われ続けた、 死後の世界の奈落だ
一ノ瀬露子
背後から、セーラー服の擦れる音がした
振り返ると、一ノ瀬露子が、 あの頃と全く変わらない、儚くも無邪気な笑顔で立っていた
彼女の足元からは、生きている人間の正気を一瞬で狂わせるような、 赤黒い怨念が絶え間なく溢れ出している
しかし、死者となった今の慎一は、 もうその不気味な気配に怯えることはなかった
ただ、じっとその目で、 彼女の底知れない深淵を覗き込む
一ノ瀬露子
露子が白い手を伸ばし、 慎一の冷え切った手をそっと握る
その手からは、 生きた人間の体温など微塵も感じられない
かつて勲がくれた、あの「痛くない、生きてる人間の温かさ」とは、 対極にあるものだった
都築慎一
慎一の胸の奥を、一瞬だけ、 鋭い痛みが掠めた
アイツはきっと、 今でもどこかで僕を待っている
けれど、最期の瞬間に露子の目を真っ直ぐに見つめ、 彼女を「特別な異性」として認識してしまった慎一の魂は、 光の差す場所へ還る権利を、自ら手放してしまったのだ
もう、どうしようもない奴だった
都築慎一
嘘をついた 本当は初めてできた友達で、 唯一自分が年相応になれる、勲の温もりも求めているくせに
しかし、慎一は握られた冷たい手を、 静かに握り返した
人の嘘が見えすぎて世界に飽きていた12歳の自分にとって、 この怪異の女の子の「気持ちを知りたい」という狂気的な好奇心は本物だった
その代償として、永遠にこの赤い夕焼けの中を二人きりで彷徨うことになるとしても、 それを受け入れるだけの歪んだ情愛が、確かに慎一の心には存在していた
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
露子は満足そうに微笑むと、慎一の手を引いて、 夕闇の濃くなっていく坂道を歩き出す
二人の影は、どこまでも赤黒く、 混ざり合いながら伸びていく
慎一は、時々後ろを振り返るが、 誰の姿も見当たらない
誰もいない、終わりのない世界で