先生
HRの前に、みなさんに報告があります
先生
もうみんな知ってると思うけど、先日、隣のA組の生徒達が事故にあった
先生
社会科見学に行く途中の道路でバスが横転して、乗っていた全員が亡くなった
先生
でも、A組の生徒全員が死んだわけじゃない
先生
その日、休んでいた生徒が二名いた
先生
入って来なさい
ドアが開き、聡介と奈々美が入ってきた。
教室がざわついた。
生徒A
A組で生き残ったの二人だけとか、やばっ
生徒B
偶然休んでたとか、ありえんの?
生徒C
あんな大事故に巻き込まれずに済んだなんて、ラッキーすぎるだろ
生徒D
他のクラスメイト全員死んでるのに、平然とした顔してるし
生徒E
なんか不気味なんだけど
生徒達は二人を見ながら、噂をした。
先生
静かにしなさい
先生
今日からこの二人は、このB組に入ることになった
先生
二人、挨拶して
聡介
相田聡介です。よろしくお願いします
奈々美
大園奈々美です。よろしくお願いします
先生
みんな、仲良くするように
放課後、聡介は一人で帰り道を歩いていた。
聡介
(今日からB組に入ったけど、誰とも話さなかったなぁ)
奈々美
相田君
声を掛けられ、振り返ると、奈々美がいた。
聡介
お、大園さん
奈々美
相田君、帰り道こっちなんだ
聡介
う、うん
奈々美
私もこっちだから、一緒に帰ろ
聡介
え?
奈々美
いいから
聡介は奈々美に腕を引っ張られて、一緒に歩いた。
奈々美
今日初めてクラスメイトと喋ったよ
奈々美
もう放課後なのに、変だね
奈々美
B組のみんな、私たちのこと気味悪がって、近づこうとしないんだもん
奈々美
ずっと退屈だったんだ
奈々美
二人で仲良くなろうよ
奈々美
B組の子とは、仲良くなれそうにないからさ
聡介
……それはちょっと
奈々美
そんなこと言わないで
聡介
……うん
奈々美
そういえば、どうして休んだの?
聡介
え?
奈々美
社会科見学の日
奈々美
私は風邪だったんだけど、相田君は?
聡介
……
奈々美
っていうか、相田君見たの久しぶりなんだけど
奈々美
ずっと休んでたよね?
奈々美
ねぇ、どうして?
聡介
何でもいいだろ
奈々美
教えてよ
奈々美
気になってしょうがないの
聡介
……いじめられて
奈々美
いじめ?
聡介
……
奈々美
不登校だったってこと?
聡介
……そう
奈々美
誰にいじめられてたの?
聡介
A組の男子全員に
奈々美
そうだったんだ
聡介
だからさ、嬉しかったんだ
奈々美
嬉しい?
聡介
事故のニュースを見て、みんな死んだって知った時
奈々美
……
聡介
そんな風に思うなんて、僕は最低の人間なんだ
奈々美
……そんなことないよ
聡介
……
奈々美
だって、いじめられるって、めちゃめちゃ辛いもん
奈々美
みんなから悪意を向けられるって、ものすごい恐怖だから
奈々美
ずっと孤独に耐えてきたんだもん
奈々美
嬉しいって思うのも無理ないよ
奈々美
だから、自分のことを責めないで
そう言って、奈々美は聡介に向かって微笑んだ。
聡介
(こんな僕の気持ちを、理解してくれるなんて)
聡介
(それに、女の子から優しい言葉を掛けられたの、初めてだ)
翌日。
聡介と奈々美は、図書室にいた。
2人は図書委員になったのだ。
先生
この返却本を、今日中に棚に戻しておいてくれ
目の前に、大量の本が積まれている。
先生
じゃあ、頼むな
先生が出て行くと、聡介は溜め息をついた。
聡介
多過ぎる
聡介
夜になっちゃうよ
奈々美は平気な顔をしている。
聡介
半分頼むね
奈々美
うん。いいよ
聡介は数冊の本を手に取って、棚に向かおうとした。
その時だった。
奈々美
終わったよ
振り返ると、奈々美が微笑んでいる。
聡介
終わったって、何が?
奈々美
本の返却
聡介
からかってるの?
聡介
そんなに早く終わるわけ……
見ると、さっきまであったはずの本が、全て消えていた。
聡介
あれ、本どこにやったの?
奈々美
ちゃんと棚に戻したよ
聡介
……いつの間に
聡介
どうやって?
奈々美
内緒
聡介
……内緒って
奈々美
委員の仕事、すぐ終わったね
奈々美
放課後の時間余っちゃった
聡介
うん
奈々美
ねぇ、ちょっと付き合ってくれる?
聡介
付き合うって、何を?
奈々美
行きたいところあるんだ
奈々美はそう言って笑った。