彼女と過ごした家までの道は、
想い出で溢れていた。
手を繋いだあの日も、
キスをしたあの日も、
喧嘩したあの日も、
全部全部過去の話なのに、
…今、
目の前に見える気がして。
今更だけど、
じわっと涙が溢れる。
好きやったのに、
大好きやったのに、
愛してたのに。
…違う、
今も愛してる。
"はぁ、…"
なんて深くため息ついて、
気付けば玄関の前に居た。
ここだって、
ただいまとおかえりを言い合った場所。
ドアを開ければ彼女が走ってきて、
"和くんおかえり!"
なんて笑ってくれた。
…でも今は、
全部終わった。
大橋和也
ドアを開けたって彼女が来るはずない。
暖かかった光があった毎日。
今、
目の前に広がるのは真っ暗で静か。
彼女がおらんだけで、
…こんなにも変わるなんて、。
意地っ張りは俺も今回ばかりは、
"寂しい"
なんて気持ちを認める。
寂しくて寂しくて仕方がない。
リビングの明かりを付ければ、
彼女がずっと付けていたエプロンと
綺麗に整えられているお皿や料理道具。
冷蔵庫の中もまとまりがあって、
彼女らしいなって思い知らされた。
お互い向かい合って食べた机も
今座ったらきっと、
…あの笑顔にしがみついてしまう。
そんな気がして、
座る気にはなれなかった。
"私、部屋欲しいな、"
彼女の部屋の前まで来た時、
そんな事をねだっていた事を思い出した。
ここに引っ越してきた時、
彼女の希望で作った彼女の部屋。
でも寝る時は毎日のように俺の部屋に来て寝てた。
…思い出すだけで頬が緩む俺って気持ち悪いんかな、
彼女の部屋に入ってみれば、
やっぱりどこもここも整っている。
好きな本だって、
洋服だって、
布団だって。
ちょっとくらい散らかってもいいのに。
そんな事を思いながら、
机の引き出しを引いてみた。
ー n e x t ー
コメント
2件
すんごいですね〜!
やっぱ安定の神作よね!