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波瑠
秋の終わり、葵は静かに息を引き取った。 最後の手紙には弱々しい文字が並んでいた。
大好きな朔へ ずっと傍にいてくれて、ありがとう。伝えたいこと、たくさんあったはずなのに、私、朔の前では全然素直になれなかった。ごめんね。もっと生きたかった。もっと伝えたかった。朔のことが、本当に本当に大好きでした
朔は、手紙を胸に抱きながら、声を殺して泣いた
朔
校庭には銀杏の葉がはらはらと舞う。 止まらない涙の中で、朔はもう一度、心で彼女に叫んだ
朔
季節はもう、冬の始まり。空気が冷たく、葵のための花が白い空気に溶け込んでいた。涙に濡れた葬儀の会場で、拓真は最後まで席から立ち上がれずにいた。 葵の眠る棺が家族や友達に囲まれて、花で飾られている。その横顔はまるで眠っているようで、今にも 「おはよう」と声をかけそうだった。
葵のお母さん
葵の母親が小さく声をかける。朔は足元がぐらりと揺れる感覚のまま、棺のそばに歩み寄った。
朔
手が震える。小さな彼女の手に自分の手を重ねると、生ぬるい冷たさだけが返ってくる。 気づけば自然に、棺に体を預けていた。込み上げる感情が、どうしても止められなかった。
朔
抑えていた涙が一気に溢れる。顔を歪めて、声が絞り出される
朔
背中を丸めて、棺に縋り付く朔。葵の顔を見つめながら、悔しさと後悔で叫ぶことしかできなかった
朔
参列者たちは、静かに涙を拭いながら遠巻きにその姿を見ていた
朔
静まり返った会場に、朔の嗚咽だけが響いた。 やがて誰かが優しく肩を抱く。けれど、朔はなかなか手を離せなかった。最後の瞬間まで、叶わない想いをもう一度伝えたくて−−。
葵の棺にもたれかかりながら、涙はいつまでも止まらなかった⋯
波瑠
波瑠
波瑠