第一章-5
少年の心中を慮るが
俺ごときでは到底理解できない絶望を抱えているのだろう。
少年の頭を撫でようとした手は
虚しく空を切る。
もう誰にも
撫でてもらえないのか。
その事実に気づいた瞬間
胸の中に得体の知れないやるせなさが広がった。
僕には
夢がありました。
その為に必死で勉強した...
なのに
なのに。
僕じゃない僕が
のうのうと生活してるんです!
憤怒。
嫉妬。
絶望。
怨嗟。
激情。
どす黒い負の感情が少年の周りで渦を巻き
身を切り裂くような空気と化して部屋中を駆け回る。
本棚が揺れ
写真立てが弾け飛ぶ。
さらにはベッドの下の秘蔵文庫まで舞い上がり
俺の顔面に張り付く大惨事だ。
紫
ストップ
紫
ストップストップ!
宙に浮く少年の顔を見上げるようにして
俺は言葉を続ける。
紫
お前の事情はわかった
これ以上
絶望の海に沈む少年を見過ごせなかった。
出会ってまもないとはいえ
会話を交わしたのならばもう友達だ。
ノリと勢いで生きる高校生にとって
友達の定義なんてそんなもんだ。
そして
友達の涙を放っておくなんて選択肢は
高校生には存在しない。
少年を救えるかどうかは分からない。
けれど
この衝動に身を任せないと後悔するのは確かだ。
紫
1人で背負わずに
紫
俺にも背負わせろ。
紫
ドッペルゲンガーを殺すかどうかはさておき
紫
まずは一緒に作戦を立てよう。
紫
殺害に踏み切る自信はないが
紫
必ず別の手段があるはずだ。
紫
それを探すことは俺にだってできる
俺は万遍の笑みを作り
拳を突き出す。
紫
やってやろうぜ
紫
相棒
少年がゆっくりと顔を上げる。
その目は真っ赤に充血していた。
なんで
そんな簡単に決めちゃえるの
いつの間にか敬語も外れ
少年が震える声で俺に問いかける。
協力を願ったのは彼なのだが
それを指摘するほど野暮ではない。
不安定な男子に必要なのは
包容力と愛の言葉だと誰かが言っていた。
次回作❤×410