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私が小学1年生のとき
大好きなぬいぐるみの耳がとれてしまった…
それを直してあげたくて母に教えてもらいながら一生懸命縫ったのだ
ママ
結衣
ママ
母がそう言ったのはきっと、自分がパッチワークの教室の講師をしていたせいでもあるのだろう。
私は母の言葉を素直に信じ、たくさん練習して、数年後にはすっかり裁縫を特技としていた。
母が褒めてくれるから。 母が笑ってくれるから。 それが嬉しくて、私は作品を作り続けた。
けれど…
結衣
ママ
結衣
私が3年生になった頃から、だんだんと両親の仲が悪くなっていって。父と母が言い争いをしたり、時には物を投げたりするのを度々目にするようになった。
そして
私が小学校を卒業すると同時に、母は満開の桜の下を寂しそうに歩いていって。 そのまま二度と、帰ってくることはなかった。
父と2人になってからの日々は、まるで地獄のようだった。
成長するにつれて母に容姿が似ていく私を、父はひどく嫌い、すぐに暴力を振るうようになった
最初は髪を引っ張ったり、頬を叩いたり。痛いけど痕は残らない、そんなやり方だったけど。 角のある物で強く殴られる。 カッターで腕や足を切りつけられるタバコの火を押し付けられる。 暴力はどんどんエスカレートしていって、私の体は傷だらけになっていた。
結衣
終わらない痛みのなかで、私は必死に、遠い日の母の幻に追いすがる。いつでも優しく微笑み、私の作品を褒めてくれたあの笑顔に。
………………作品?
結衣
縫ってあげたら、元気になるから。 ぬいぐるみも人間も、縫うことはとてもよく効く治療法なんだ。 だったら………
その日、私は初めて自分の体に針を刺した。
結衣
結衣
あぁ、嬉しいな。お母さんのパッチワークみたいで、すごく素敵。
もっともっとたくさん縫いたい。 私自身の体を使って最高の作品を作るんだ!
彼
生徒B
生徒C
教室の隅からそんな声が聞こえてくるたび、私はどんどん刺繍を増やしていった。
縫えば傷は治るから。母のパッチワークに似た奇麗な刺繍を見ていれば、心の傷も癒えていく。
手のひらにはリボン。 胸元にはハート。 両足の編み上げも、もっと高くして。
絶えない傷のぶんだけ縫っていったら、私の小さい体はすぐに、縫えるところが無くなってしまった。
生徒B
やめてよ。いま言わないで。 いま言われたら、縫うところがないから治せないじゃない。
仕方ない。 耳を縫い合わせてしまおう。 どんな悪口も哀れみの声も、もう聞こえなくなるから。 もう傷付かなくてもいいよね?
父
結衣
結衣
あぁでも、なにかが違うのだ。
母のパッチワークみたいな、かわいらしい作品になりたかったのに。 全身縫い目だらけになった私は、 グロテスクで、痛々しくて。 全然かわいくないのよ。
どうしてだろう。どうしたらいい? かわいくもない、ただのバケモノになった私を。 もう誰も助けてなんてくれない……。
彼
高校生になってしばらく経ったある日。バケモノと呼ばれ避けられている私に、1人の男が話かけてきた。
彼
困ったように笑いながらコートを差し出してきた人は、私を怖がっていなかった。気持ち悪がってもなかった。
だから私は、そのコートを受け取り、ボタンを付けた。 すると、その人はさらに以外なことを言い出したのだ。
彼
奇麗、だなんてあるわけないのに。 だけどその人の喋り方や表現からは、一切嫌味のようなものは感じられなくて。
初めて向けられた言葉に戸惑いながらも、襟元に唐草模様を手早く刺繍してコートを返すと彼は。
彼
…………………瞬間、私は泣いていた。
たったこれだけの事で「全てを受け入れてもらえた」なんていうほど乙女思考じゃないし。 私が体を縫っていたのは、別に奇麗な刺繍を誰かに認めてもらうとか、そんな理由じゃなかったのに。
それでもなぜか一向に止まらない私の涙を、彼は柔らかいガーゼのハンカチで、とても優しく拭ってくれた。
彼と出会ってから、私は少しずつ体の糸をほどいていった。
もっと彼の言葉が聞きたいから、耳の糸をほどいて。 彼とキスがしたいから口のファスナーを外して。
結衣
結衣
けど…
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
なかなか糸が通らなかったのは、針を持つのがちょっと久しぶりだったから。ただ、それだけ。
決して…………手が震えていたなんてことはない。 そう自分に言い聞かせて、真っ赤な糸を通した針を握りしめ、眠る彼の横に付く。
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
冷たい針の先を、彼の柔らかい皮膚にそっと突き立てようとしたその時
彼
静かにまぶたを開いた彼と、目があった。 まだ少し蕩けている瞳は、それでも真っ直ぐに私を捕らえて離さなくて。
その瞬間、私は自分がなにをしようとしていたのか理解し、針を投げて駆けだした。
結衣
結衣
結衣
結衣
結衣
彼
不意に背中を包んだ優しいぬくもりが、私の思考を遮る。 追いかけてきてくれた彼の手には、赤い糸が通ったままの針。 彼はそのまま、私の耳元で小さく笑って
彼
彼
そう言うと彼は針から赤い糸を抜き取り、その端を自分の指に結びつけた。 そうしてもう片方の端を手のひらに隠していた銀色のリングをしっかりと結びつけると、そのリングを私の指にはめて、彼は。
彼
零れた涙が頬を伝って首や胸など、縫い傷の残る私の肌に落ちていく。 これはおとぎ話じゃないから、その涙で傷が消えていったとか、そんなことは無いけれど。 私はもう二度と体に針を刺すことはないだろう。
END
どうだったでしょうか? きっと主人公の傷はすべて消えたのでしょう! 私もこんな恋愛してみたいです! ここまで読んでくれてありがとうございました!!!