プルルル……プルルル……。
警察
はい、こちら白百合警察署の陣川です。
雪
先日から世間の話題になっている
雪
第1白百合病棟で、入院中だった松崎光太郎さんを殺害したのは私です。
雪
私が、殺しました。
警察
え?
雪
全てを包み隠して死んでしまっては、
雪
警察の方に迷惑をかけてしまうと思いまして。
警察
何を言っているんですか?
雪
状況が分からないのも、いたずら電話と思われてもおかしくないことも重々承知しています。
雪
ですが、少しだけ
雪
私の茶番に付き合っては頂けないでしょうか。
警察
はぁ……。
雪
松崎さんは、ちょうど3ヶ月前に、信号無視をして高速で交差点に突っ込んできたトラックにはねられて
雪
脊髄を損傷し、首から下が全く動かなくなりました。
雪
本人は、私の前では元気に振る舞うように心がけていたようですが
雪
もう7年も一緒にいる私からすれば、彼が傷ついているのは一目で分かりました。
雪
そりゃ、傷付くのなんて、当たり前だと思います。
雪
突然首から下が言うことを聞かなくなるんですから。
光太郎
笑っちゃうなぁ……
光太郎
この前まで動いていた手足が
光太郎
いっこも動かなくなっちまうなんて。
光太郎
でもほら、ゆきがこうやって毎日会いに来てくれるから
光太郎
毎日頑張れるよ
雪
光太郎は、事故の後からそんなことばかり呟くようになりました。
雪
でも、昨日の夜の光太郎はいつもと違いました。
雪
目に涙をいっぱいに溜めて
光太郎
すまない……すまない。
光太郎
お願い……
光太郎
俺を殺してくれないか
雪
そうやって言ってきました。
雪
彼の、最初で最後の弱音でした。
雪
叶えてあげようと思いました。
雪
今更食い止めようなんて、失礼だと思いました。
雪
だから私は今日、
雪
花屋で黒い一輪の薔薇を買って
雪
光太郎の元へ行きました。
雪
3ヶ月も病室にこもっていたせいで白く透き通った光太郎の首筋に手をかけて、
雪
光太郎の上にまたがりました。
雪
今から起こる出来事が全てわかりきっていたのでしょう。
雪
光太郎は少しだけ笑って私の事を見つめました。
雪
私は顔を光太郎に近づけて、
雪
光太郎が事故に遭う前と同じようにキスをしました。
雪
1度口を離して。
雪
もう一度唇を重ねて。
雪
ゆっくり、首にかけた指先に力を込めていきました。
雪
血が通って、ドクドク言ってる所を、ぐっ、と。
雪
少しでも光太郎がはやく楽になれるように、全身の力を込めて
雪
私は愛する光太郎を殺しました。
雪
キスをする光太郎の唇が
雪
冷たくなってもまだ
雪
私はしばらくの間光太郎の唇の感覚を繊細にまで記憶することに専念していました。
雪
ややあって、私は我に返って光太郎の元を離れました。
雪
胸元に、黒い一輪の薔薇を添えて。
雪
黒い薔薇の花言葉は、
雪
「決して滅びることの無い愛」だそうです。
雪
私たちにぴったりでしょう?
ツーツーツー…。