テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

昨日の流れで竜胆とパートナーに戻ることになった。それは良い。俺だって心から喜んでいる。

問題は事情を知っている梵天のメンバー達にどう説明するかだ。いや、幹部達はまだいい。恐らく俺のことなんかに興味はない。心配なのはマイキーの反応だ。

俺がマイキーに心配を掛けてしまったせいとは言え、アイツは俺と竜胆をなんとしてでも引き離そうとしていた。

それどころか俺がきっかけで、マイキーまでもサブドロップにさせてしまった。それだけの事をしたのにパートナーに戻りましたなんて、軽々しく言えるワケがない。

竜胆もその事は気に掛けているようで、事務所に向かう車の中で頼りない顔をしていた。

竜胆

……まぁ、大丈夫だろう。いざとなったら俺がなんとかする。

春千夜

…何とかって、何だよ。

竜胆

…そうだなー……坊主にする……?

春千夜

おい、野球部じゃねーんだぞ。そんなんでマイキーの気が済むワケねーだろ…。

俺達の心配をよそに、マイキーの反応は意外にも寛容で拍子抜けした。

マイキー

おー、やっぱり戻ったか。良かったな、おめでとう。

春千夜

……マイキー……良いのか…?俺……あんなにお前に迷惑掛けたんだぞ…?

マイキー

ん?今幸せなんだろ?ならいいじゃん。

竜胆

……首領、迷惑を掛けてすみませんでした。これからは俺が三途をしっかりと支えていきます。

マイキー

よろしく頼んだぞ。…まぁ、また三途を泣かせたらその時は容赦しねーけどな?

笑顔で竜胆を脅すマイキーはやっぱり怖い。竜胆はヘラヘラと笑って誤魔化した。

九井

もう大丈夫だろ。あれだけ反省してまた三途を泣かせたら、竜胆はとんでもねーバカヤローってことだ。

望月

ああ、三途にも見せてやりてーよなぁ。コイツがどれだけ落ち込んでたか。

竜胆

ウルセー!お前ら変なこと春……三途に吹き込んだら承知しねーからな!

春千夜

………な……っ、

マイキー

はっ、お前裏では春千夜って呼んでるのかよ!ヤベーじゃん!

九井

ここではプライベートは出すな。気まずいだろ。

鶴蝶

ヒューッ、仲良いじゃん。これは心配する必要なさそうだなぁ。

竜胆

別にいいだろ、パートナーなんだからよ!

皆が一斉に竜胆を茶化し始めた。こんなに賑やかな事務所はいつぶりだろう。理解のあるメンバーばかりで、本当に助かった。

見て見てー!ノライヌ拾ってきたー!

蘭が無邪気な声で勢い良くドアを開けると、乾青宗が子犬のように首根っこを掴まれて捕獲されていた。怯えきってガタガタと震えている。

九井

──おい蘭!テメーふざけんなコラァッ!!イヌピーを放せ!!

鶴蝶

おい、ディフェンスはマズイ。落ち着け?な?

ばーか、ディフェンスになっても鶴蝶より弱いんじゃん。もっと鍛えたら?

九井が怒りのあまり、Domがパートナーを守るために攻撃的になる『ディフェンス』の状態になりそうになったところで、慌てて鶴蝶が羽交い締めにして押さえた。蘭はここぞとばかりに舌を出して九井を挑発している。

春千夜

(…ったく、ほんと馬鹿ばっかりだな……。)

竜胆

兄貴、止めろよ。それは冗談じゃ済まねー煽りだぞ。

ちぇーっ。鶴蝶もういいよ、ソイツ放しちゃって。

鶴蝶

わかった。…九井、すまない。蘭には手を上げないでくれ。

ココ…!

九井

イヌピー…!

九井が羽交い締めから開放されるなり、乾は子犬のように九井の元に駆け寄って抱きついた。九井も目をうるうるとさせながら乾を抱きしめて、頭を撫でた。

竜胆

おい、ついさっきプライベートは出すなって言ったのはどこの誰だよ。

100年ぶりの再会なの?アイツら。

春千夜

いや、せいぜい数日ぶりの再会だろ。

熱い抱擁を交わす2人を、その場にいた全員が呆れた目で見ている。

九井

イヌピー、ちゃんとおつかいはできたのか?

うん、できた。

九井

そうか、偉いぞ。Good boy(世界一賢い子だ)

…ココに会えるから頑張った。

九井

──…っ……イヌピー……!

マイキー

うわぁ……仲間のラブシーンってキチーんだな……。

望月

ああ、特に九井のはキツいな。

絶対に家では赤ちゃん言葉喋ってるタイプだよねー。

???

おーい、梵天ってこんなに緩い組織なのかよ。

突然ドアの外から耳慣れない声が聞こえて、九井と乾と蘭を覗くメンバーが動揺を見せた。各々が警戒態勢に入って、武器に手を伸ばした。俺も咄嗟にポケットに手を入れて、仕込んでいた銃に手を掛けた。

鶴蝶

……おい、誰かいるのか……?

竜胆

…俺は特に聞いてねーぞ。

望月

皆……気をつけろよ……。

マイキー

──…なんで……なんで……?

気がつくと、マイキーが俯きながらガタガタと震えていた。さっきまでは一緒に笑っていたのに…一体どうしたんだろう。

???

イヌピー、入っていいか?

九井

いや、待て。今入ったら皆に攻撃されてハチノス状態になるぞ。……お前ら、武器から手を離せ。安全は俺が保証する。…だよな、マイキー。

マイキー

……ああ……そこに居るのは危ない奴じゃない……。

マイキーに言われて、その場にいた全員が武器から手を離した。それでも緊迫した空気は消えない。

九井

もう入っていいぞ。ドラケン。

ドラケン

──…ったく、お前らのアジトはこんなとこにあったのかよ。通りで10年以上探しても見つからねー訳だ。……なぁ、マイキー?

ドアを開けて入ってきたのは、黒髪になりすっかりと大人の雰囲気に変わったドラケンだった。口調は昔と変わらず冷静でアンニュイなのに、切ない目でマイキーを見つめて今にも泣き出しそうだった。

マイキー

──……ケンチン……っ、…なんでここに居るんだよ…っ、

ドラケン

何でって…お前はパートナーだからに決まってんだろ…。…お前を想わなかった日があるとでも思ってんのかよ、…バカヤロー。

マイキー

……俺は…俺はケンチンの前から急に姿を消したのに……。

ドラケン

そのことについては躾が必要だと思ってるぜ。……Stay(そこに居ろ)…叱りつけてやる。

マイキー

……やだ…ケンチン……こっちに来ないでよ……っ、

マイキーは言葉とは裏腹に怯えた様子はなくて、両目から大粒の涙を流して顔を真赤にしていた。ドラケンは一歩一歩ゆっくりとマイキーに近づくと、震える手で肩を優しく抱きしめた。マイキーの肩に顔を埋めているから表情は見えないけれど、鼻を啜る音が聞こえたから泣いているのだろう。

ドラケン

──…っ……お前に会ったら沢山文句言ってやりてーと思ってたのに……いざ顔を合わせたら愛してるしか出てこねぇ……。…おい、どうして俺を置いていったんだよ……、

マイキー

ケンチン…ごめん……本当にごめん……っ、

ドラケン

…Good boy(よく謝れたな)…もう良い……その代わり、もう勝手に消えねーって約束しろ…。

その場にいた全員がつられて泣きそうになっていた。良かった、本当に良かった。子供に戻ったように泣きじゃくるマイキーを見て、2人の間で空白の時間を埋めているのが伝わってきた。

九井

…ドラケンがずっとパートナーを探してるのは知ってたが、まさかマイキーだとは思わなかったんだ。三途がきっかけでマイキーがSubだと知って、まさかと思って探ってみたらドンピシャだった。

ココ、良いことしたね。いーこいーこ。

九井

……っ……イヌピー…!

……あーあ、なーんか任務って気分じゃなくなっちゃった。鶴蝶、今からデートに行こ?

鶴蝶

いいな。どこに行きたい?

んー…映画?

鶴蝶

わかった、すぐに行こう。

場の空気を読んだ2人は、静かに手を繋いで俺たちに視線を配らせた。

ココー…俺もデートに行きたい。

九井

当たり前だ、行こう。どこに行きたい?

買い物した後にココの家に行きたい。今日は泊まる。

九井

………!よし行こう、すぐに行くぞ。何が欲しい?ブランド物か?それともバイクか?ダイヤか、金か?

んーん、ドンキでいい。

九井

わかった。買収だな?

違うよ、日用品買いたい。

春千夜

(…アホクセー……九井も大概ヤベー奴じゃねーか……。)

竜胆

春千夜、…俺達も行くぞ。初デートだからお前の好きなとこに行こう。車に着くまでに考えておけよ?

春千夜

………わかった。

竜胆が急に俺の手を握るから、一瞬心臓が跳ねた。蘭が微笑ましげに俺達を見ている。

モッチーはさぁ、せっかくだからパチンコにでも行きなよ。それか漫喫?ヒトカラ?

竜胆

おい、あんまり独り身をからかうような事は言うなよ。可哀想だろ。

望月

………………………。

鶴蝶

まあ良い、今日は全員オフだ。明日から頑張れるように、ゆっくり息抜きしてこい。

九井

わかった。

竜胆

うっす。

こういう時の梵天は団結力が強い。皆で一斉に事務所を出て、散り散りになった。

俺と竜胆は、結局竜胆の家に戻ってきた。デートに行くのも悪くはないが、今は誰にも邪魔されない場所で2人の時間を大切にしたかった。

竜胆が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、2人でタブレットで通販サイトを見ている。

竜胆

パジャマと着替えと枕とタオルと…あとはそうか、箸と食器か。

春千夜

そんなのは適当なものでいい。

竜胆

やだよ。お前に適当なものなんて使わせたくねーよ。

俺が竜胆の家に頻繁に泊まりにくることを予想して、俺専用のものを買い込んでいるらしい。『ついで』と言って竜胆の分の揃いのものも買っているのは、この際放っておこう。

竜胆

他に必要なものはあるか?

春千夜

…いらない。俺の家にもあるから。

竜胆

お前の家にあっても、持って来たら不便になるだろ?

春千夜

……鈍いな、お前……。

竜胆

……ん……?

竜胆はおかしな奴だ。俺の感情に敏感に気付く癖に、肝心な気持ちはわかってくれない。

…当たり前か。俺と竜胆は別の人間なんだから、結局は気持ちは言葉にしないと伝わらない。

俺はクッションを引き寄せて抱いて、深く息を吸ってから想いを口に出した。

春千夜

……お前の家バカみたいに広いし、俺も一緒に住んでやる。……だから今カートに入れたもの、全部消してくれ。

竜胆

……春千夜……?

春千夜

…その代わりベッドは買って欲しい。キングサイズが良い。…今のは2人で寝たらちょっと狭い。

今自分がどんな顔をしてるかなんて考えたくもない。けれど竜胆が嬉しそうな顔をして俺を抱き締めたから、変な顔をしていたんだろう。

竜胆

……本当に良いのか……?ちゃんと付き合ってまだ2日目なんだぞ?

春千夜

…別にいい。今さら離れる気もないんだから、いらないものに金掛けるくらいならこうした方がいい。

本当は竜胆と離れたくないだけだ。そこは素直になれなくても、さすがに俺の気持ちはわかってくれるだろう。

竜胆

わかった。じゃあ来月までには引っ越す準備をしよう。俺も手伝うから、分担してやろうな?

どちらからともなく瞼を閉じて、キスをした。今日はコマンドを1度も使ってないのに、胸に温かい感情が広がって幸福に包まれた。

──人間は誰だって愛し愛されて、誰かの役に立ちたいと思って生きている。どうしてかを突き詰めたら、誰かに必要とされることこそが俺の『存在する理由』になるからだ。…ダイナミクスはもしかして、そんな人間の本質的な欲求から生まれた性別なのかもしれない。

いや、小難しいことは考えなくていい。俺は竜胆のためにSubである俺を受け入れて、2人の時間が末永く続くように一生懸命生きれば良い。──長年曇っていた俺の心が晴れて、全てが上手くいく気がした。

春千夜

──…竜胆、これから末永く宜しく頼むぞ。…好きだ。

END

竜春 Dom/Subユニバース【完結】

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

3,421

コメント

69

ユーザー

ほんとに凄すぎて凄い、、(語彙力) めっちゃ涙出た、

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚