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突然私の前に現れたのは、六本木で有名らしい灰谷さん。

私が人殺しだと知っていて、オマケに幽霊扱い。

誘拐する理由も教えてくれないし、これから何処に行くのかも教えてくれない。

灰谷さん、変な人。

そう思いながら、灰谷さんの隣をそろそろと歩く。

食べかけのおにぎりを再度食べ始めると、梅干しの酸っぱさが濃くなっていた。

𝐘𝐨𝐮

灰谷さんは、何のおにぎりの具が好きですか

このままだと気まづいと思った私は、おにぎりの具の話を振った。

ラン

どうでもいい事聞いてくんな

𝐘𝐨𝐮

このままだと話すネタが無いです

ラン

話さなきゃ良いだろ

𝐘𝐨𝐮

じゃあ何話しますか?

ラン

本当に人の話聞かねぇのな

案外灰谷さんと喋るのは退屈では無かった。

かと言って面白くは無いけど、今までの生活の中では1番だ。

噂ひとつで誰も私に寄り付かない。

そんな私を誘拐してくれるのならば、それはそれで良いと思っている。

𝐘𝐨𝐮

好きな食べ物の話とかしますか

ラン

さっきから食い物ばっかじゃん

𝐘𝐨𝐮

それしか興味が無いので

ラン

幽霊なのに食うんだ

𝐘𝐨𝐮

幽霊だって食べます

すると、『ふーん』と全く興味無さげに返事をする灰谷さん。

ていうか、何処まで歩くのだろう。

誘拐されると言っても、全く意図が読めない。

何の為にするのか。何で私なのか。

知りたいけど、それを教えてくれないのが灰谷さん。

𝐘𝐨𝐮

何処まで歩くんですか

ラン

こっから車

𝐘𝐨𝐮

やっと誘拐らしくなった

ラン

...............

どうやら、車道が狭い所まで誘導させられていたようだ。

確かに気付けば、段々景色が暗くなっていた。

人通りが少なく、暗くて、電柱の光だけが頼りの場所。

誘拐を周りの人に見られたら面倒くさいからかな。

ラン

...お前さ、本当にいいわけ?

𝐘𝐨𝐮

何がです?

ラン

これからお前、普通に生活出来なくなんぞ

やっぱりか。

ここで私は誘拐されて、灰谷さんのオモチャになる訳だ。

𝐘𝐨𝐮

心配してくれてるんですか

ラン

は? 勝手に勘違いすんな

𝐘𝐨𝐮

嘘つくの下手ですね

ラン

...ッたく、コイツの何処が良いんだよ、

𝐘𝐨𝐮

...はい?

何か灰谷さんが小声で言ったが、小さ過ぎて聞こえなかった。

絶対怒らせてしまったのは分かる。

ラン

もう知らねー。早く乗れ

𝐘𝐨𝐮

お邪魔します

今から私は、灰谷さんに誘拐される。

怖いけど、怖くなかった。

逆にワクワクが止まらなくて、これから私の新しい人生がスタートする様だ。

私は残りのおにぎりを口に含み、目の前に停る車に乗った。

車内は外と同じく暗かった。

初めて車に乗った。フカフカしてる。

初めてハンドルを間近で見た。

あれちゃんと回るんだ。

幼い頃から兄と2人きりだった私は、親という物は居なかった。

いや、居たのだろうけど、途中で私達と歩むことを辞めたのだろう。

だから、旅行にも行った事は無いし

遠足なんて月に行くぐらい私とは縁のない物だった。

ラン

...何ソワソワしてんの

𝐘𝐨𝐮

車、初めて乗ったのでテンションが上がってます

ラン

マジかよ、車乗った事ねーの

𝐘𝐨𝐮

マジです

車って、こんなにスピードが出るんだ。

楽しい。面白い。

初めてシートベルトを閉めるのも、車のドアを閉めるのも

全部遠足気分みたいに楽しかった。

ラン

本当に幽霊みてぇ

車の窓を開け閉めしていると、隣の少し離れた所に座る灰谷さんが言った。

さっきから幽霊幽霊って、灰谷さんこそ死神じゃないか。

𝐘𝐨𝐮

...どこら辺がですか

ラン

誘拐されてるっつうのに楽しそーにしてっから

ラン

少しは怖いとか思うだろ

そんなの楽しいに決まってる。

あの時の地獄と比べたら、ここは楽園だ。

𝐘𝐨𝐮

全部の初めて、灰谷さんですから

ラン

は? どういう事だよ

𝐘𝐨𝐮

灰谷さんが誘拐してくれなかったら、人と喋ってませんし

𝐘𝐨𝐮

車にも乗った事ないですし

𝐘𝐨𝐮

人の隣を歩く事も無かったです

𝐘𝐨𝐮

だから、ありがとうございます

誘拐された事に感謝を。

そんな事を言ってられるのは、世界で1人のこの私だけだろうか。

ラン

.......変なヤツ

𝐘𝐨𝐮

灰谷さんこそ

私は隣で不機嫌そうに言う灰谷さんに、そう返した。

暫く車に乗って、30分が経った。

するとどうやら目的地に着いた用で、車は止まった。

𝐘𝐨𝐮

着いたんですね

ラン

いちいち喋んな

酷いな、灰谷さん。

でもその塩対応の理由は直ぐ分かった。

𝐘𝐨𝐮

眠いんですか

ラン

...眠くねーし

車で移動中、ずっと興奮状態だった私は目が覚めてたが

灰谷さんはどうだ。少し眠そうにしていた気がする。

ラン

くだらねぇ事言ってねーで早く降りろ

そう言われ、私は運転手さんに挨拶をして車から降りた。

すると、目の前には大きなマンションが。

灰谷さんの家かな。

𝐘𝐨𝐮

ここは?

ラン

別荘。お前専用のな

私専用? 私を誘拐したあとここに住まわせる為に?

ラン

すると、灰谷さんは鍵を手渡して来た。

え、鍵受け取っていいの? 誘拐なのに。

𝐘𝐨𝐮

良いんですか、鍵

ラン

アイツの要望だからな

𝐘𝐨𝐮

アイツ?

新しい登場人物だ。

アイツって誰だろう。

ラン

俺の弟。明日には会えんだろ

𝐘𝐨𝐮

弟さん居るんですね

ラン

まぁな、この誘拐も竜胆が計画した事だし

𝐘𝐨𝐮

竜胆...竜胆さんって言うんですか

ラン

そう

聞くと、だるそうに答えてくれた。

私を誘拐する事を考えたのは、どうやら灰谷さんの弟さん。

その弟さんの名前は、竜胆さんと言うらしい。

𝐘𝐨𝐮

.............

どこかで聞いた事のある名前。

ラン

部屋教えっから付いて来い

そう考え事をしていると、そう灰谷さんは言う。

𝐘𝐨𝐮

...分かりました

もうエントランスの鍵を開け、中に入っていた灰谷さんを追い掛けた。

エントランスを抜け、エレベーターで8階まで上がっていく。

このマンション、ハイテク過ぎて階段が無いらしい。

エレベーター壊れた時はどうするのだろうか。

そう思ったが、考えても分からない為辞めた。

そしてその部屋へと進んでいく。

着いた先は、マンション内部の8階の一番端の部屋。

809号室だった。

ラン

ここがこれからお前の家

𝐘𝐨𝐮

家...

新しい家。

兄に追い出されて初めての家だ。

ボーッと見ていると、灰谷さんはポケットからカードキーを取り出し

ドアノブに付いたセンサーに翳した。

ピッと言う機械音が鳴ると、オシャレでシンプルなドアが開いた。

𝐘𝐨𝐮

ハイテクですね

ラン

いーからさっさと入れ

私の言った事を無視した灰谷さんは、部屋に早く入るよう急かした。

そっか... これを計画したのは弟さんだし、灰谷さんには関係ないのか?

そもそも、私を誘拐する理由って何だ。

さっき車でも聞いてみたけど、一向に答えてくれる様子は無かった。

.....気になる。

ただ単に無差別誘拐で私を選んだ訳でも無さそうだし。

そう考えていると、どうやらボーッとしていた様で

後ろから灰谷さんに背中を押され、無理やり部屋に入れられた。

𝐘𝐨𝐮

乱暴...

ラン

うるせ

2人とも無事部屋に入ると、後ろの扉はガチャンっと重い音を出して閉まった。

暗い玄関だったのが、灰谷さんが電気を付けたことによって明るくなる。

玄関の先を見ると、見たこともない感じのオーラがあった。

玄関の床は大理石の様な物で、その先に繋がる床も白で綺麗。

𝐘𝐨𝐮

...凄い

ラン

さっさと靴脱いで入れ

ラン

説明すっから

私が感動しているのもつかの間、灰谷さんはまた不機嫌そうに言った。

説明ってなんだろう。と思いながら靴を丁寧に脱いで並べた。

ついでに灰谷さんの靴も並べて置いた。

カチッと音がすると、リビングの明かりが付いた。

どうやらリビングはセンサーが反応して自動で電気が付くらしい。

その照明もまたオシャレで、またもや感動した。

ラン

冷蔵庫に食料入ってるから適当に食え

部屋を見回していると、キッチンの横で立つ灰谷さんが言う。

𝐘𝐨𝐮

食料、くれるんですね

ラン

当たり前だろ

𝐘𝐨𝐮

...?

少し想像していた物と違い、困惑。

誘拐って、鎖とか付けられてご飯も出してくれないイメージがある。

𝐘𝐨𝐮

鎖とかは付けないんですか

ラン

...付ける訳ねーだろ

𝐘𝐨𝐮

??

『何言ってんだコイツ』とも言いたげな顔をする灰谷さん。

ますます誘拐する意味が分からなくなってきた。

その後、私は困惑したまま灰谷さんから部屋の説明を受けた。

いくつかルールもあって、計画には手が込んでいる。

外に出る時は必ず連絡。

危険で暗い場所は一切禁止。

買物等、自分の好きな事をする時は自由。(但し連絡する事)

そんな感じの事を何個か言われた。

...で、その中で理解し難かったのが、

他人の男との接触禁止。

これが1番よく分からなかった。

まあルールはルールだし、守る必要はあるけど。

結構守るのキツいんじゃないかと思ったが、どうせバレないとも思った。

ラン

じゃ、俺もう帰るから

𝐘𝐨𝐮

帰っちゃうんですか

そのまま寝泊まりすると思っていたが、そうでは無かったようだ。

こんな高そうなマンションも買えて、自分の家もあるなんて。

お金持ちなのかな、と頭の片隅で思った。

ラン

明日竜胆来るから

𝐘𝐨𝐮

灰谷さんは来ないんですか?

私は1つ、この部屋に疑問があった。

ベッドがシングルで無かった事だ。

″私専用″なのに、何でダブルベッドなのだろう。

ラン

竜胆と一緒に来る、多分な

𝐘𝐨𝐮

何時頃ですか

ラン

質問ばっかだなお前

そう言って呆れたように顔を顰めたが、私はお構いなく聞いた。

ラン

都合によって変わる。朝7時頃

𝐘𝐨𝐮

そんな早くから来るんですね

そんなんならここで寝て行けばいいのに、と思ったが言わないでおこう。

ラン

...帰る

𝐘𝐨𝐮

また明日

すると会話は途切れたようで、灰谷さんは靴を履いて出て行った。

私はその姿に、軽く手を振る。

...灰谷さん、変な人だけど

そんなに、嫌じゃない。

朝。5時半に目が覚めた。

こんなに朝早く起きたのは初めてだ。

こんなに早く起きた理由は、朝ご飯を作るため。

今日の7時頃、予定通り行けば灰谷さんと竜胆さんが来る。

その2人の分の朝ご飯も作ろうと思ったからだ。

𝐘𝐨𝐮

キッチンの使用自由...って言ってたよね

私は昨日の灰谷さんの言った事を思い出しながら、料理を始めた。

冷蔵庫の中には、案外色んなものが入っている。

アイスも、冷凍食品も、フルーツも野菜もジュースも。

こんなに行動が制限されてない中で、食料も沢山だなんて信じられない。

まるで『誘拐』では無く、『保護』されている気分だ。

そう思いながら、私は朝食を作り進めた。

時計の針が、7時10分を刺す。

その途端、ピッとあのカードキーを翳した時の音が鳴った。

𝐘𝐨𝐮

...灰谷さん達かな

私はワクワクして、玄関まで走った。

𝐘𝐨𝐮

おはようございます

ラン

うわ

リンドウ

...........

扉が開くと、やはりそこに2人が居た。

1人は灰谷さん。もう1人は弟の竜胆さんかな。

そう思い竜胆さんに挨拶をしようとした時だった。

ギュッ

私は竜胆さんに、抱き締められていた。

突然、灰谷くんに誘拐されました

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コメント

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続き気になります!

ユーザー

ハート10000いけました!

ユーザー

よっしゃぁぁぁあとちょっと!

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