悠真のストーカー事件から数ヶ月経った頃
瞬太
えっ!?
瞬太
鈴木の遺体が見つかったんですか!?
八田
はい、骨の一部ですけど
ストーカーの琴美をナイフで刺し、一緒に海に落ちていった鈴木の遺体が
2年以上経って、ようやく見つかったと知らせが入った
八田
やはりまだご存知ではなかったんですね
八田
まあ、今日身元が判明したばかりの最新情報ですから
瞬太
骨が見つかった場所は?
八田
落下場所の崖から数十キロ離れた浜辺だそうです
八田
長い時間かけて流れついたんでしょう
瞬太
そう…ですか…
八田
悲しんでいるんですか?
瞬太
自分でもよくわからないです
瞬太
状況から考えて、彼が亡くなっていることはわかっていましたが
瞬太
改めて突きつけられると、なんというか…
八田
彼は犯罪者ですよ
八田
あの凶悪犯の脱走を手助けした悪人です
瞬太
だけど彼は被害者でもあります
瞬太
琴美に洗脳されなければ
瞬太
彼の人生はこんな結末にはならなかった…
瞬太
琴美の遺体もそのあたりにあるんでしょうか?
八田
警察はその付近を重点的に捜索しているようですが
八田
見つかったという情報はまだありません
八田
もしくは…
瞬太
え?
八田
あ、いえ
八田
なんでもありません
八田
また情報が入りましたら、真っ先にお教えいたしますよ
瞬太
あの…
瞬太
前から気になっていたんですけど
瞬太
八田さんの情報網ってどうなっているんですか?
瞬太
警察がどこにも漏らしてないような
瞬太
最新の情報を知っているなんて…
八田
記者にはいろいろ繋がりがあるんです
八田
詳しくは言えないですけど
八田
こうやって事件の情報を教えているんですから
八田
また何か面白いネタが入ったら教えてください
八田
最高の記事書くんで
八田
ではまた
瞬太
(面白いネタって…)
瞬太
(またそんなことが起きたら困るんだけど…)
悠真
兄ちゃん
瞬太
ああ、悠真か
瞬太
今日は事務所に来てたんだな
悠真
うん、撮影があったからその帰りにちょっと寄った
悠真
そんなことより、今の八田って記者だよね?
悠真
なに?また琴美の事件の記事書くつもり?
瞬太
いや、今回はそういうのじゃないみたい
悠真
ふーん、それならいいけど
悠真
まあでも、あの人もそんなに悪い人じゃないよね
悠真
この前、琴美の記事を雑誌に載せた時は
悠真
俺たちの個人情報が特定されないように配慮してくれてたし
瞬太
あれは結構意外だった
瞬太
面白い記事が書けるなら被害者の気持ちなんか関係ないとか
瞬太
そういうタイプの人だと思っていたから
悠真
でもあまり信用しすぎないようにね
瞬太
うん、わかってるよ
瞬太
ただいま
悠真
ただいまー
沙月
あ、良かった!
沙月
悠真くん帰ってきた
悠真
どうしたの?
沙月
悠真くんのお父さんからこっちに電話が来たの
沙月
悠真くんに電話しても繋がらないからって
悠真
そういえば撮影中スマホの電源オフにして、そのままだった
悠真
それで、何かあったの?
沙月
おばあさんが倒れて病院に運ばれたんだって
悠真
えっ!?
瞬太
容体は!?
沙月
まだ検査中でわからないって
沙月
とりあえず一報をくれたみたいで
悠真
そっか…
悠真
大したことなければいいけど…
瞬太
…………
それから数時間後
再び親父から連絡が入り
一命は取り留めたが、あまり良くない状態だと知らされた
悠真
俺、今週末は実家に帰ろうかな
悠真
ちょうど3連休だし
瞬太
うん、それがいいよ
瞬太
ばあちゃんも悠真に会いたがっていると思うし
悠真
なあ、兄ちゃんも一緒に行かない?
瞬太
えっ、俺?
悠真
兄ちゃんだってさっきからすごい心配してるじゃん
悠真
兄ちゃんにとっても実の祖母なわけだし
瞬太
それはそうだけど…
瞬太
でも、両親が離婚してからほとんど会ってないし
瞬太
ばあちゃん、俺のこと覚えてないかも
悠真
そんなわけないだろ
悠真
ばあちゃん、昔からよく兄ちゃんの話してたよ
悠真
瞬太は優しくていい子で、自慢の孫だって
瞬太
そうなの?
悠真
うん
瞬太
(そういえば小さい頃、すげー可愛がってもらってたな)
瞬太
(俺もばあちゃんのこと大好きで)
瞬太
(周りの人たちから)
瞬太
(瞬太はおばあちゃんっ子だなってよく言われたっけ)
瞬太
(こんなこと考えるのは良くないことだけど)
瞬太
(もしこのまま容体が悪化して死んでしまったら)
瞬太
(俺は一生後悔するかもしれない)
瞬太
(何であの時会いに行かなかったんだって)
瞬太
(でも…)
沙月
行ってくれば?
瞬太
えっ
瞬太
でも今週末は沙月の両親が東京に来る予定で…
沙月
それは私だけで大丈夫
沙月
どうせお父さんたちは陽太に会えれば満足なんだから
沙月
2人で行ってきなよ
沙月
それでおばあちゃんに元気な顔見せてきてあげて
沙月
2人の顔を見たら、おばあちゃんの病気も良くなるかもよ
瞬太
沙月…
瞬太
ありがとう
こうして俺は悠真と一緒にばあちゃんや親父たちが住む新潟に向かった
瞬太
親父が駅まで迎えに来てくれるんだよな?
悠真
その予定だけど…
悠真
あ、いた
剛志
瞬太!悠真!
剛志
よく帰ってきたな
悠真
ただいま
剛志
おかえり
剛志
瞬太、久しぶりだな
瞬太
うん
剛志
ああ、そうだ
剛志
まずは俺の妻を紹介しないといけなかったな
剛志
美雪、こっちに来て
美雪
…………
目の前に現れたのは色白で儚げな雰囲気の女性だった
美雪
初めまして、美雪です
美雪
よろしくお願いします
瞬太
よろしくお願いします
この女性との出会いで
止まっていた運命の歯車が再び動き出す
これが最後の戦いの始まりだということを
俺はまだ知らなかった──







