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必ず死に至る病

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必ず死に至る病

10 - 6話「死神と硝子のワルツ」

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2025年05月01日

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何も無い、飽き飽きとした部屋

どうしょうもない無価値な、ただただ生きるためだけの活動を無意味に続ける

この部屋と病から逃げる日は来るのだろうか

生きてるだけなんだけどなぁ…

硝子細工みたいなこの命

今日も身体の悲鳴が鳴り止まない

家と言われて真っ先に浮かぶのは自室だ

正確には、自室以外の記憶がない

……

声すら忘れてしまいそうな静寂な世界は、横になった俺を孤独だと教える

…はぁ

身体が、心が辛くて苦しくてしょうがない

俺は生物としての駄作だった

欠陥した俺の身体はそこら中が痛くて、何かが俺の中で暴れ回っている

…痛い

ぼんやりとした頭は上手く働かない

掠れた喉は何かを外に出そうと必死で、血が出ているような気分であった

つらい

ベットからロクに立てやしない、歩けも踊れも当然出来ない病人である

死神が居るなら共にワルツでも踊ろうか

気が遠くなるほど聴いた洋楽は、俺に空想を与えた

何一つ変わらない日常に訪問者が来る

母親

堵恵ちゃん。起きてる?

…起きてるよ

俺の母親は度々俺の自室に現れては声を掛けたり、食事を運んでくれる人だ

ここまで聞くと良い人に思えるだろう

母親

そろそろ学校行ける?

まだ無理…行く途中で倒れる

無機質な部屋に沈黙が流れる

母親は俺の体調不良をそこまで気にしてくれる人では無かった

母親

はぁ…まだ我儘言うの?

明らかに失望した、その目

身体と同じくらい嫌いだ

しょうがないだろ…なら、病院連れて行ってくれ

母親

駄目よ

母親の顔が狂気的に見えたのは気の所為だろうか

母親

その程度でお金は掛けられません

母親

治療費がどれくらい掛かると思ってるの?

行かなかったら、一生良くならないだろ

娘の反抗的な態度に母親は驚いたらしい

でも、当然といえば当然だ。だって俺は"生かされている"のだから

母親

親に向かって何なのその態度!

母親

私達は心配して言ってるのよ!

何度目か忘れた母親の心配ごっこ

自分達の選択のせいで俺がこうなっているのに、何故俺を責めるのだろうか

母親

大体、口調も服も髪型も男みたいで気持ち悪い!

母親

そんな子に育てた覚えはないのに…!

まるで世界の被害者とでも言いたそうな顔

どうしようも出来ないくらい愚かだと思った

母親

ご飯置いておくから食べたら呼びなさい!

そう一息に言った母親は不機嫌を隠さぬまま、俺の世界から出ていった

モクモクとふやけた米を無心で咀嚼する

またこれかぁ…

作ってもらっている身が言うのは失礼からもしれないが、はっきり言って飽きた

昔と比べると飯も随分雑になったと思う

なんか…こう…牡蠣とかさ

牡蠣フライを食べてみたい。高いとか食中毒になるからとかで母親は拒否するだろうけど

仮に食中毒になったら、いっそ死んでしまいたい

何でだろうな

飽きか、胃の限界か…俺は飯を放棄して何の変哲もない天井を見つめる

多分、俺は死にたがっている

つまらないな

こんな脆い命で生きても何も無い

…はは

自分か親か、はたまた全てか、俺は嘲笑った

俺は生きた屍だ

何かが死んでいるんだ

産まれなければ…

記憶に染み付いた大して広くもない部屋は、俺の窮屈さの象徴でしかない

死ねるのなら…

思わず口走った瞬間、扉が開く音がした

母親

堵恵ちゃん…そんな事言わないで

…母さん

母親の顔は酷く悲しそうで

母親

私達は堵恵ちゃんを愛しているわ

母親

堵恵ちゃんは病院に行かなくて大丈夫なのよ

疑わしい、残酷な優しさだった

…分かったよ

母親は俺の手に何かを握らせた

母親

お小遣いよ。大切に使いなさい

愛は2千円だった

社会性も将来も希望も無い日常

俺はいつも力なく横たわることしか出来ない

母親

堵恵ちゃん

ある日、日常が終わった

…母さん

母親

家にいるだけじゃ駄目かもしれないから…

母親

違うところ行ってみようか

俺は笑っていたと思う

親の監視下に置かれる俺にとって、この言葉は歪みきった救いだからだ

うん

親から与えられる鈍い刺激は俺から何かを確実に奪い続けていた

それは、めげずに未来に向かおうとする努力そのものだったのかもしれない

少ない自分のスペースを俺色に染め上げる

やっとらしくなったな

満足気に呟けば、下から賑やかな声が聴こえる

結局、身体は治ってなどないし、むしろ悪化してしまっているくらいだ

お姉ちゃん…か

周囲の殆どに年上として接するようにすれば必然的に弟妹の尊敬が集まる

酷く不思議で堪らなかった

何をすれば良いんだろうな

とっくに親に飼い殺された俺の羽は、泥のような諦めが纏わりついていて

この硝子細工を叩き割りたかった

塗りつぶされた記憶の中で輝くもの

父親

堵恵

父さん

父親

お前は色々な物に縛られるだろう

昼下がりの穏やかなベンチ周辺と父親の表情は酷く不釣り合いだった

父親

だから、家の中では自由に生きなさい

痩せこけた父親が言う

これが最初で最後の唯一の許可だった

…分かったよ。父さん

父親の最期の呆気なさを思い出す

俺はその日から自由に生きた

母親に、周囲に奇怪な目で見られたとしても

自由という、残酷なルールを生きる

自由という、あまりにも多すぎる可能性と選択に窒息してしまいそうで

死にたい

俺を殺してくれる死神を待つ

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