蘭堂
うう、寒い…
風通しが良くなって三倍寒い……
屋敷の中へ入ると、暖炉の前で椅子に座りながら
震える蘭堂さんが居た。
風通しが良くなったと云っているけど、
実際半分程の屋根が吹き飛んでいるわけで。
杏堂〇〇
(風通しが良くなったどころじゃないと思うんだけど…)
太宰治
災難だったねえ、蘭堂さん
蘭堂
酷い目に遭った…なぜ私が…
太宰治
襲われた理由は凡そ想像がつくよ。
噂の拡張だ
太宰治
森派の蘭堂さんが爆発で殺されたとなれば
人々は先代の怒りをより強く実感するだろう
太宰治
実際、ここに来る前にGSSの指揮軍を調べたら
黒い爆発を偽装する手順書が見つかった
蘭堂
黒い爆発とは……?
杏堂〇〇
えーと?ナトリウムランプの炎色反応を
利用すると黒に近い炎が作れる…らしいですよ
太宰治
まあいずれにしても粗末(チープ)な偽装作戦だよ
蘭堂さんが椅子の周りに積まれた本を一冊手に取り、
暖炉の中に投げ入れた。
中原中也
つまりこういう事か?
中原中也
GSSの連中がマフィアを仲間割れさせるために
荒覇吐になりすましてこの旦那を襲った…
杏堂〇〇
そうなるね〜
蘭堂
GSSの現総帥は冷徹な男で、
しかも彼は北米の秘密機関「組合」と
蘭堂
深い関係にあるという噂だ
太宰治
蘭堂さんが擂鉢街で目撃した
荒覇吐について教えて欲しい
太宰治
先代復活の噂に繋がる情報は、
今のところ其れしか無いから
蘭堂
あぁ、善く憶えているとも…忘れるものか
蘭堂
私だけが生き残った…
だが周囲の部下はことごとく燃えてしまった
蘭堂
あの黒い炎に呑み込まれてしまった。
あれは本当に荒神だった
太宰治
面白くなってきた。詳しく話してよ
太宰のその言葉を合図に、
蘭堂さんは暖炉の炎をボーッと見つめながら語り始めた。
蘭堂
あれは擂鉢街のほぼ中心地での出来事であった
蘭堂
我々ポートマフィアは羊の武装した少年達との
抗争に向かう途中であった
蘭堂
そこでいきなり黒い爆発に我々全員が吹き飛ばされた
蘭堂
…いきなりの爆風。
私は自分自身を異能で守る事しかできなかった
蘭堂
黒い炎、瓦解する大地…あれは地獄であった
蘭堂
そしてその中心に其奴は居た
其れは先代の首領などではなかった
蘭堂
いや、そもそも其奴は人間ですらなかった
蘭堂
獣……黒き炎の獣。一対の瞳すらも
煉獄から噴き出したかのような炎であった
蘭堂
地上の凡ゆる物が高熱で揺れていた
……ただ横浜の海が
蘭堂
遠くに眺めるあの海だけが、
月明かりを讃えて静かに凪いでいたのを
蘭堂
妙に憶えている
蘭堂
あの時獣の声を聞いた
なんの感情も含まぬ声であった
蘭堂
私には其れが怖かった
杏堂〇〇
……
少々の沈黙の後、蘭堂さんは椅子から立ち上がると
此方に振り向いた。
蘭堂
……すまない
蘭堂
君達は先代の復活を荒覇吐後からではなく、
蘭堂
敵異能力者の偽装であると証明したかったのであろう?
太宰治
いや、中々興味深い話だったよ
蘭堂
?
太宰治
全部判った
太宰治
お陰で事件解決だ
中原中也
……あ?
杏堂〇〇
え、どゆこと