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初めて行ったことは大抵失敗するものだ
料理にしろ、運転にしろ、勉強にしろ
無知な状態から、成功を修められるのは 限りになくゼロに近い
だから、私の試みも当然の如く 失敗したのだろう
意識が遠くなっていく中で、私がさいごに思ったのは 「もういたくない」だった
██
気がつくと、私は見知らぬ場所に立っていた
家々に囲まれ、草木が手入れされずに生い茂っていた
考えても、私の記憶にヒットしない場所
そうして、さっきまで私は何をしていたのかを思い出す
「ああ、死ねなかったんだ」
初めての試みだった
初めてにしたくない試みだった
でも、やるしかなかった
ずっと会社に勤めてきた
ずっと嫌味を言われてきた
ずっと任されてきた
ずっと責任を負わされてきた
██
会社に勤めていたのは、金のため
嫌味を言われたのは、無能なため
任されたのは、断れなかったため
責任を負わされてきたのは、弱かったため
原因は私にあるということに、どうしようもなく気づかされて
大丈夫?
やってくれてありがとう!
仕事代わろうか?
そんな言葉を期待して、ずっと頑張ってきたのは私で
██
あれ?そうだっただろうか
私は、私はそれでも頑張ってきた理由は…
「なんだったっけ?」
██
玄関の目の前に私は立っている
ここは私と彼女の家だ。いつも見慣れている家
ドアノブを掴み、引けば同居人が私を待っているはずだ
なのに
どうしてか、私はドアノブを掴むのを躊躇っている
生まれてこのかた、感じたことのない嫌な予感が背筋をなぞる
しばらく立ち止まっていると
ガチャ
と、音が聞こえた。鍵を開けた音だ
そうだ、なんで私は鍵を持っていないのだろう
私は今、何も持っていない
そんなことに今さら気づいていると
紗良
██
同居人がドアを開けた。
紗良
紗良は、浮かない顔で、私を通りすぎた
██
紗良は私の声を無視して行ってしまった
██
私は彼女についていこうとした
しかし、動かない
さっきの嫌な予感が、私を止める
私は何かを忘れている。 それも一つじゃない、たくさんの大切なことを忘れている
「まだ、忘れられたくない。忘れたくない」
私には心配してくれる同僚がいた
それも1人ではなかった
それでも、私は存在しない悪意に晒されて
透明な檻に囚われて
思考を放棄した頭の中には
「死にたい」 という言葉だけが残留していて
だからかな
私が紗良について行って、目にした光景は
さっきの嫌な予感が指し示した答えは
「ゼロに近いことを私は成し遂げたんだ」
それは、当然だった
██
██
私の写真が飾られて、周りの人間は泣いていた
…泣いていた?
██
私のことが嫌いだったんじゃないの?
私が無能だったからじゃないの?
じゃあ、結局私は
██
被害妄想に塗りたくられた世界は、きっと美しかったんだ
その世界に私は溺れていたんだ
そして、溺れ死んだ
本当はこんなにも愛されていて
信頼されていて
友人がいたというのに
██
██
私の死に顔は、酷く痛々しかった
「もういたくない」だって?
嘘を言うなよ
私はまだ、いたい
胸がこんなにも痛くて、居たいのに
遺体の私は何も言わない
もう遅いんだよ
██
██
██
██
私は、ただ、そうやって理解して
ボソッと、呟いた
「ありがとう」