昔、
とても寒い冬の日に、
婆(ばあ)が川に洗濯に行くと、
川辺から泣き声が聞こえた。
まだ幼い赤ん坊で、
捨てられてしまったのか、薄い毛布にくるまれたまま置いてあった。
婆はその赤ん坊を持ち帰ると、
爺(じい)と自分たちの赤ん坊にすると決め、
「冬藻(ふゆも)」と名付け、大切に育てた。
冬藻はすくすくと美しく育ち、
16歳となった。
爺と婆は大切な一人娘だからと、
どこへもださずに、家で機織りをさせていた。
ある日、爺と婆が野良(のら)へ行く時、
爺と婆
冬藻、
爺と婆
どこへもでてはならないよ。
爺と婆
近頃は化け物が出ると噂されてるから、
爺と婆
絶対に家から出てはならないよ。
と、念を押していった。
冬藻が1人で機織りをしていると、
急に風が強く吹いてきた。
そうして、戸を叩く音が聞こえた。
化け物
冬藻、少しでいい、戸を開けてくれ。
冬藻
なぜ私を名を知っているの?
化け物
そらぁ、知ってるさ。
冬藻
戸を開けることはできません。
冬藻
開けてはならないと約束したのです。
化け物
なら、爪が入るくらいでいい。
冬藻
……
しつこく言ってくるので、冬藻は少しだけ戸を開けてやった。
すると、
隙間から、爪をかけてガラッと戸を開け、
家の中に入ってきた。
それは大きく、見るからに屈強で、
鋭い目付きに角の生えた、
化け物だった。
初めて見る化け物に固まりはしたが、
その化け物が自分を食う気配はなく、
落ち着いて話し出した。
冬藻
何が目的ですか?
化け物
なぁに、お前を取って食うつもりはねぇ。
化け物
ここの近くにりんごの木がある。
化け物
一緒に食いに行かないか?
冬藻
できません。
冬藻
私は、外へ出ることは出来ません。
冬藻
ですのでお帰りください。
化け物
お前は出たいと思わないのか?
冬藻
……
冬藻
私は、
冬藻
爺と婆の唯一の娘、
冬藻
そんな私がどこかに行ってしまったら、きっとすごく心配してしまう。
化け物
……
化け物
お前は?
化け物
お前はずっとここにいたいのか?
化け物
少しも外を知らずに、このまま死ぬのか?
化け物
それにな、さっきも言ったがたかが近くのりんごの木だ。
化け物
そう長くはかからないさ。
冬藻
……
冬藻
でも私には履くものがありません。
化け物
俺の背中におぶされ。
冬藻
安心できません。
化け物
心配するな。
化け物
そのまま連れ去ったりしねぇ。
そう言って、化け物は冬藻をつれだした。
冬藻
……
冬藻
(信用出来ないのに、どうしておぶさってるんだろう……)
化け物
……
冬藻
(これが初めての外の景色……)
冬藻
(なんて美しくて、寒いんでしょう。)
化け物
ほれ、毛布だ。
化け物
薄いが少しは暖かいだろう。
冬藻
……
冬藻
ありがとう…ございます。
冬藻
(暖かい……)
冬藻
(毛布もそうだけど、)
冬藻
(この人’’の背中…大きくて…暖かい……)
冬藻
(信用出来ないのに…どうしてこんなに安心できるんだろう……)
化け物
…はっはっはっ、化け物なのに人って思ってくれるんだな。
冬藻
……!!
冬藻
…心が読めるのですか?……
化け物
……
化け物
少しだけな…
化け物
……安心しろ、いつも心を読んでるわけじゃねぇ。
化け物
たまたま聞こえただけだ。
冬藻
そうですか…。
冬藻
……
冬藻は少しだけ顔を緩め、
少しだけ安心したように目を閉じた。
次回に続きます。 これからの展開にご期待ください😊