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前書き、
当作品は、【完結】『そんな夢を見る』という
連載作品のスピンオフ?作品になっております。
先に『そんな夢を見る』を読んでおくと、
より一層楽しめるかと思います。
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この世界の死神には2つのパターンがある。
1つは、
人が死後、死神になるパターン。
もう1つは、
冥王が自らを削って生み出すパターン。
同じ死神であれどその性質は根本から異なる。
前者の死神は特殊な力を持たず、
自我があるため冥王の命令に背くことがある。
後者の死神は特殊な力を持ち、
自我がありながら冥王の命令に背くことが出来ない。
前者の死神は仕事を全うすれば、
再び人の世へ転生することができる。
後者の死神は仕事を全うすれば、
再び冥王の元へと還る。
同じ死神であれど、その末路も異なる。
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・
生まれてすぐは、幼いカラスの姿をしている。
理由は知らない。
たぶん、冥王様の趣味だろう。
【幼体】と呼ばれ、
飛べるようになると【見習い】と呼ばれるようになる。
それぞれ決まった先輩死神の元へと派遣され、
その先輩から死神の仕事を教わるのが通例である。
・
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ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
パタパタと羽ばたいて自己主張してみるものの
見事に無視される。
ノーア・ノール
近づいて本を持つ手を鋭利な嘴の先で突き刺そうとした瞬間、
パタンッと本が閉じられた。
ハール
そして、初めて目が合った。
ハール
ノーア・ノール
嘘だろ?という言葉は飲み込む。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
閉じた本をテーブルに置く。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
気の無い返事。
ハール
ハール
そう言って冥王の紋章が印された封筒を掲げて見せた。
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
それだけ言うと先輩は立ち上がった。
・
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ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
診療所の簡素なベッドに横たわっているのは、
血色の悪い男性。
苦しそうに息をしていて
死期はすぐ側まで来ているようだった。
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
困っていると先輩はそう言ってくれた。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
先輩は死んだ男性の体を死神の鎌で切り裂き、
魂を取り出す。
その魂には、いまだ深々と刃物が刺さっていた。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
・
・
先輩に付いて行くようにして天上へと向かう。
天上、死者が訪れる場所。
ハール
ノーア・ノール
ハール
正門を抜けることなく、
左へと進んでいく。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
生い茂る草木の間を抜けると、
その先にあるのは白くて小さな建物だった。
扉の無い入り口から入ると、
中には井戸のようなモノがあった。
井戸には青みを帯びた水で満たされ、
その底は見えなかった。
ハール
ハール
ノーア・ノール
上を見ればドーム状の天井に
真っ白で暖かな光りが降り注ぐ天窓が見える。
ハール
先輩はそう言って、呪われた魂を浄化の泉に投げ入れた。
───シュワシュワ…
ノーア・ノール
心地よい音をたてて
真っ白な気泡が湧き上がる。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
そして、完全に刃物が溶けると、
湧き上がっていた気泡も消え、
綺麗になった魂は水面へと浮き上がってくる。
ノーア・ノール
翼を広げて掬い上げようとして、先輩が止めた。
ハール
ノーア・ノール
言われるまま翼を閉じて見ていると、
浄化された魂は泉の水面から出て、
そのままどんどん浮上していく。
そして、真っ白な光り降り注ぐ天窓を抜けるところまでは見えた。
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
先輩は淡々と説明する。
ノーア・ノール
その言葉を聞いて先輩は少し驚いたような顔をして見せた。
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
このときは、先輩のその言葉の意味が理解できなかった。
・
・
ノーア・ノール
ハール
先輩は呆れたように言葉を吐き出す。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ほぼ八つ当たりのように叫ぶ。
地上に降りてからというもの、
猫に追いかけられ、
普通のカラスに突かれ、
犬に噛み付かれ、
ネズミに羽根を毟られ、
と散々だった。
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
大きな瞳から零れ落ちそうになった涙を羽根の先で拭う。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
そう言って先輩は視線を宙に彷徨わせて唸る。
なんとか良いフォローの言葉を探そうとしているのが手に取るようにわかって、項垂れる。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ふてくされるように歩き、
窓辺に置かれたクッションの上に座る。
ハール
先輩はそう言って頭を撫でてくれた。
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
それを【成体】と言うらしい。
つまり、一人前の死神になったということ。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
”死者の書”とは、
管理地内にいる人の死ぬ時間と場所が記されている書物で
それに従って死神は仕事を執り行っていく。
ハール
それゆえ、”死者の書”を持たない”特殊班”の仕事は突発的だ。
仕事の依頼も手紙で届く。
突然、どこからともなく。
ノーア・ノール
ハール
しかし、そう言った先輩の表情は険しかった。
ノーア・ノール
ハール
その言葉の意味がわからず、
首を傾げると”とりあえず、行ってみよう”と言われた。
・
・
・
それが、彼女との初めての出会いだった。
・
・
ノーア・ノール
触れなくてもわかる。
それは、
今まで見たどの呪いよりも強い恨みをはらんでいた。
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
先輩はきっぱりと言い放った。
ハール
ハール
ハール
ハール
先輩は、深いため息をこぼす。
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
死神である自分が見えたのは、
彼女の死期が近かったから。
ハール
ハール
先輩のその言葉を信じて彼女の魂を天上に運ぶ。
小さな魂にたくさん突き刺さった真っ黒な針。
浄化の泉に沈めれば、真っ白な気泡が湧き上がる。
ノーア・ノール
そう、思ったのに……。
・
・
呪われる人は、
必ずしも悪い人とは限らない。
先輩が最初に言ったことは、
このことだったのだと理解した。
あんな、純粋無垢な女の子が
悪魔に呪われるなんてきっと何かの間違いだ。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
浄化しても、
転生しても、
穢れている魂。
悪魔の呪いとは、
それほどまでに面倒くさいモノだとは思いもしなかった。
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ボロボロと涙を流す姿を見て、
先輩は深いため息をこぼした。
ハール
ハール
そのときは、先輩のことを心底冷たい人だと思った。
なんで、罪もなく呪われた人を見てそんなことを言えるのかと。
どうしてそこまで無関心でいられるのかと。
ただ、時間が経てば経つほど
死神というのはそういう存在であることを理解する。
淡々と仕事をこなす人形のようで、
ただそれだからこそ成り立つ仕事なのだと。
いちいち、死ぬ人間のことを気にかけていれば
それこそキリが無い。
毎日、いったい何人の人が死んでいるというのか。
あまり一人の人間に固執するな、
と先輩に言われたけれど。
何度も何度も彼女に救われていくうちに、
彼女を救いたいという気持ちはどんどん大きくなっていった。
それは、
死神として持っていてはいけない思考であり、
感情だと先輩に言われても。
彼女に対する想いを、
恩を無かったことには出来なかった。
・
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ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
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ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
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ノーア・ノール
ハール
先輩は大して驚くことなくそう言った。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
自分の顔を、頬を抓る。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
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先輩はお喋りが好きなタイプではなかったけど、
話しかけたらちゃんと答えてくれる良いヒトだった。
読書が大好きで、
どこに行っても本を読んでいて、
放っておくと何日も本を読んでいた。
綺麗好きで、
散らかった部屋を見るといつも重いため息をこぼしていた。
散らかすのはいつも自分だったけど。
死神だから表情は薄いけど、
死に逝く人を見る目は優しく、
魂を雑に扱うことはなかった。
きちんと仕事が出来れば褒めてくれるし、
失敗すれば怒ってくれた。
そんな、
普通なことが嬉しかった。
そんな、
先輩が大好きだった。
ずっと、側にいたいと思ったし、
ずっと側に居られると思っていた。
でも……。
・
・
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ハール
ハール
ノーア・ノール
渡されたのは、
今掬い上げたばかりの呪われた女性の魂。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
そう言って背中を向けた先輩の服を、
反射的に掴んだ。
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
先輩は大きく息を吐き出し。
振り返る。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
先輩はそこで一旦言葉を止めて、
複雑な表情を浮かべた。
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
そう言って取り出したのは、
白銀の短剣。
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
その言葉に先輩はゆっくりと首を横に振った。
ハール
ハール
そっと、ナイフを仕舞う。
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
涙が止まらなかった。
掴んでいた手が、
ゆっくりと離れる。
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ノーア・ノール
ハール
ハール
ハール
ハール
ハール
ノーア・ノール
先輩はやんわりと微笑んで、
頭を撫でてくれた。
ハール
ハール
・
・
大好きだった先輩。
でも、それが最後の言葉になった。
魂を浄化の泉に沈めて、
浄化して、
急いで地上に戻った時、
先輩はいなくなっていた。
一切れのタルトを残して……。
わかっていたことだけど、
上手く受け入れられなくて何日も泣いたのを覚えてる。
冥王様の意思に背いて消えたわけじゃない。
そう、思うことにした。
消えたなんて、
思いたくない。
信じたくない。
今もどこかで”特殊班”として働いているか、
仕事を全うして人に生まれ変わっているか。
その、どちらかであればいいと思う。
そして、幸せであれば
自分のことを忘れていても構わない───。
・
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・
タナキエル
タナキエルはそう言ってケーキ屋を指差した。
ノノ
ノノ
タナキエル
ケーキ屋に入り、ショーケースを眺める。
色とりどりのタルト。
見ているだけで心が弾む。
少しだけ悩んで、
先輩が好んで食べていた
リンゴのタルトを買うことにした。
ノノ
ノノ
タナキエル
タナキエル
ノノ
タナキエル
ノノ
タナキエル
ノノ
ノノ
タナキエル
ノノ
ノノ
タナキエル
ノノ
タナキエル
タナキエル
ノノ
タナキエル
タナキエルはため息交じりに言って、
ノノは一人嬉しそうにスキップをする。
ノノ
ノノ
・
・
─了─