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14 - 『そんな夢を見る・ノノ過去編』

♥

35

2022年09月12日

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前書き、

当作品は、【完結】『そんな夢を見る』という

連載作品のスピンオフ?作品になっております。

先に『そんな夢を見る』を読んでおくと、

より一層楽しめるかと思います。

この世界の死神には2つのパターンがある。

1つは、

人が死後、死神になるパターン。

もう1つは、

冥王が自らを削って生み出すパターン。

同じ死神であれどその性質は根本から異なる。

前者の死神は特殊な力を持たず、

自我があるため冥王の命令に背くことがある。

後者の死神は特殊な力を持ち、

自我がありながら冥王の命令に背くことが出来ない。

前者の死神は仕事を全うすれば、

再び人の世へ転生することができる。

後者の死神は仕事を全うすれば、

再び冥王の元へと還る。

同じ死神であれど、その末路も異なる。

生まれてすぐは、幼いカラスの姿をしている。

理由は知らない。

たぶん、冥王様の趣味だろう。

【幼体】と呼ばれ、

飛べるようになると【見習い】と呼ばれるようになる。

それぞれ決まった先輩死神の元へと派遣され、

その先輩から死神の仕事を教わるのが通例である。

ノーア・ノール

(このヒト、もう何時間も本を読んでる……)

ノーア・ノール

(暇、なのかな?)

ノーア・ノール

(ボクが配属された”特殊班”ついて)

ノーア・ノール

(この目の前にいる先輩から)

ノーア・ノール

(色々と教えて貰わなきゃいけないのに……)

ノーア・ノール

(このヒトはずっと本を読んでる)

ノーア・ノール

(むぅ……待つって嫌いなんだよなぁ)

パタパタと羽ばたいて自己主張してみるものの

見事に無視される。

ノーア・ノール

(こうなれば!!)

近づいて本を持つ手を鋭利な嘴の先で突き刺そうとした瞬間、

パタンッと本が閉じられた。

ハール

ん?

そして、初めて目が合った。

ハール

え、カラ、ス?

ノーア・ノール

え?今、気がついたの?

嘘だろ?という言葉は飲み込む。

ノーア・ノール

(何時間ここに居たと思ってんの!?)

ノーア・ノール

(あれこれやったのに)

ノーア・ノール

(全部気がついてなかったって言うのか!?)

ハール

喋ったってことは、【見習い】か

閉じた本をテーブルに置く。

ノーア・ノール

はい!

ノーア・ノール

【見習い】のノーア・ノールです

ハール

ふぅん

ノーア・ノール

先輩、お名前は?

ハール

ハール・ヨルバだ

ノーア・ノール

宜しくお願いします!!

ハール

あ、うん

気の無い返事。

ハール

それにしてもタイミングがいいね

ハール

丁度、仕事が入ったところだよ

そう言って冥王の紋章が印された封筒を掲げて見せた。

ノーア・ノール

”特殊班”って普通の死神よりも仕事は少ないって聞きましたけど

ハール

そうだね

ハール

他の死神は毎日あるけど

ハール

オレたちは数ヶ月に一回とか

ハール

そんなもんかな

ノーア・ノール

す、少ない……

ノーア・ノール

あ、それで”特殊班”っていったいどういう班なんですか?

ノーア・ノール

嫌われ班だって聞きましたけど

ハール

……まぁついて来ればわかるよ

それだけ言うと先輩は立ち上がった。

ノーア・ノール

(辺鄙なところにある小さな村の)

ノーア・ノール

(小さな診療所だ)

ノーア・ノール

(真夜中だけど)

ノーア・ノール

(死神は壁だってすり抜けられるから)

ノーア・ノール

(きちんと戸締りしてても入れちゃうんだなぁこれが)

ハール

この人だ

ノーア・ノール

この人、ですか

診療所の簡素なベッドに横たわっているのは、

血色の悪い男性。

苦しそうに息をしていて

死期はすぐ側まで来ているようだった。

ハール

どう見える?

ノーア・ノール

どうって言われましても……

ハール

見えるんだろ?

ハール

その目には

ノーア・ノール

……。

ノーア・ノール

(先輩の言ってることはわかる)

ノーア・ノール

(でも)

ノーア・ノール

(見えているモノの意味はよくわかんない)

ハール

見えているモノをそのまま言えばいい

困っていると先輩はそう言ってくれた。

ノーア・ノール

……

ノーア・ノール

心臓の辺りに、深々と刃物が刺さっています

ハール

そっか

ハール

そう見えるんだな

ノーア・ノール

え?

ノーア・ノール

先輩には見えないんですか?

ハール

見えるよ

ハール

君とはちょっと違うけどね

ハール

オレの目には十字架が刺さって見える

ノーア・ノール

え……

ハール

それが”呪い”だ

ノーア・ノール

え、えーっと

ノーア・ノール

つまり、この男の人は

ハール

誰かに呪われて、死ぬんだろう

ノーア・ノール

……

ノーア・ノール

え?

ノーア・ノール

呪いって人を殺すことが出来るんですか!?

ハール

ああ、そうだ

ノーア・ノール

へ、へぇ……

ノーア・ノール

人間って怖いですね

ハール

……ああ、そうだな

ハール

でも、誰がどうして彼を呪ったのか

ハール

それは、オレたち死神が関与すべきことではないし

ハール

探る必要のないことだ

ハール

オレたちの仕事はあくまでも

ハール

死を看取り

ハール

魂を上に運ぶこと

ハール

それだけだ

ノーア・ノール

……

ハール

返事は?

ノーア・ノール

…はい

ハール

よし

ハール

ただ、呪いによって穢された魂は

ハール

穢されていない魂と同じルートは辿れない

ノーア・ノール

え、何でですか?

ハール

”呪い”には死後もその効果を持続させているモノもあれば

ハール

他者の魂を汚染する可能性があるモノもあるんだ

ハール

だから、同じルートは通れない

ノーア・ノール

ほへぇ、そうなんですか

ノーア・ノール

でも、その呪われた魂は

ノーア・ノール

上に持って行ってどうするんですか?

ハール

浄化するんだよ

ノーア・ノール

浄化……?

ハール

呪われたままにしておくわけにはいかないからね

ノーア・ノール

それってどうやるんですか?

ハール

上に行けばわかるよ

先輩は死んだ男性の体を死神の鎌で切り裂き、

魂を取り出す。

その魂には、いまだ深々と刃物が刺さっていた。

ノーア・ノール

(この刃物には触れることも出来ないし)

ノーア・ノール

(抜くことも出来ない……)

ノーア・ノール

(それだけ強い恨み)

ノーア・ノール

(強い呪いってことなのかな……)

先輩に付いて行くようにして天上へと向かう。

天上、死者が訪れる場所。

ハール

正面からは入れないよ

ノーア・ノール

え、じゃあどこから?

ハール

こっち

正門を抜けることなく、

左へと進んでいく。

ノーア・ノール

(草と木が……)

ノーア・ノール

(この道は下り坂?)

ハール

これは”裏道”

ハール

オレたち”特殊班”しか知らないし

ハール

入れない道だよ

ノーア・ノール

へぇ…

生い茂る草木の間を抜けると、

その先にあるのは白くて小さな建物だった。

扉の無い入り口から入ると、

中には井戸のようなモノがあった。

井戸には青みを帯びた水で満たされ、

その底は見えなかった。

ハール

これが浄化の泉

ハール

穢れた魂はここでしか浄化が出来ないそうだ

ノーア・ノール

青い、綺麗な水ですね

上を見ればドーム状の天井に

真っ白で暖かな光りが降り注ぐ天窓が見える。

ハール

見ていて

先輩はそう言って、呪われた魂を浄化の泉に投げ入れた。

───シュワシュワ…

ノーア・ノール

おぉ…白い気泡が…

心地よい音をたてて

真っ白な気泡が湧き上がる。

ノーア・ノール

(よく見えないけど…)

ノーア・ノール

(魂に刺さってた刃物が……)

ノーア・ノール

(ボロボロになって…溶けてる?)

そして、完全に刃物が溶けると、

湧き上がっていた気泡も消え、

綺麗になった魂は水面へと浮き上がってくる。

ノーア・ノール

わわっ!

翼を広げて掬い上げようとして、先輩が止めた。

ハール

何もしない方がいい

ノーア・ノール

え、あ、はい…

言われるまま翼を閉じて見ていると、

浄化された魂は泉の水面から出て、

そのままどんどん浮上していく。

そして、真っ白な光り降り注ぐ天窓を抜けるところまでは見えた。

ノーア・ノール

あの魂はどこに行っちゃったんですか?

ハール

審判の間だよ

ノーア・ノール

審判の間……

ノーア・ノール

(えーっと、確か…)

ノーア・ノール

(魂が裁かれるところだ)

ノーア・ノール

(転生させるべき魂なのか、)

ノーア・ノール

(消滅させるべき魂なのか、)

ノーア・ノール

(永遠に彷徨わせるべき魂なのか)

ノーア・ノール

(そういった審判が下ると言われている場所って聞いてるけど)

ノーア・ノール

(正直、詳しくは知らない……)

ノーア・ノール

そっか…

ノーア・ノール

浄化したけど、転生するってわけじゃないのか

ハール

そういうこと

ハール

浄化しても、消滅の審判が下される可能性もあるというわけ

先輩は淡々と説明する。

ノーア・ノール

……審判を下すうえで”呪い”は必要ないですもんね

その言葉を聞いて先輩は少し驚いたような顔をして見せた。

ノーア・ノール

ん?どうかしました?

ハール

いや、可哀想

ハール

とか言いそうだなっと思ったんだけど

ノーア・ノール

可哀想?

ノーア・ノール

呪われるような奴の魂ですよ

ノーア・ノール

きっと、ロクな人生じゃなかったはずです

ハール

……そうとは限らないけどね

このときは、先輩のその言葉の意味が理解できなかった。

ノーア・ノール

ぐすぐす……

ハール

泣くな。死神だろ

先輩は呆れたように言葉を吐き出す。

ノーア・ノール

なんで、ボクばっかり狙われるんですか!!

ノーア・ノール

死神って見えないんじゃないですか!!?

ほぼ八つ当たりのように叫ぶ。

地上に降りてからというもの、

猫に追いかけられ、

普通のカラスに突かれ、

犬に噛み付かれ、

ネズミに羽根を毟られ、

と散々だった。

ハール

まぁ、動物は霊的なものが見えるというし

ノーア・ノール

だからって、こんな、こんな酷い目に遭います!?

ノーア・ノール

ふつう!?

ハール

うん、遭わないね

ノーア・ノール

ですよね!!

大きな瞳から零れ落ちそうになった涙を羽根の先で拭う。

ハール

君は死神のクセに存在感が強いんだろう……

ハール

たぶん

ノーア・ノール

それって死神として、致命的じゃないですか?

ハール

うーん…

そう言って先輩は視線を宙に彷徨わせて唸る。

なんとか良いフォローの言葉を探そうとしているのが手に取るようにわかって、項垂れる。

ノーア・ノール

いいんです

ノーア・ノール

やっぱり、大人しくしときます

ノーア・ノール

ボクにとって地上は地獄です……

ふてくされるように歩き、

窓辺に置かれたクッションの上に座る。

ハール

そう落ち込むなって

先輩はそう言って頭を撫でてくれた。

ハール

それも、きっと君に与えられた個性だ

ハール

それに、カラスからヒト型に成れれば

ハール

襲われることもなくなるはずだよ

ノーア・ノール

……。

ノーア・ノール

(ヒト型に成る…)

それを【成体】と言うらしい。

つまり、一人前の死神になったということ。

ノーア・ノール

(一人前になれば、自分の管轄が与えられる)

ノーア・ノール

(でも、”特殊班”は何もかも特殊だから)

ノーア・ノール

(他の死神と違って此処に管理地が与えられない)

ノーア・ノール

(各地を転々として)

ノーア・ノール

(穢れた魂が見つかれば近くにいる”特殊班”の死神が呼ばれる)

ノーア・ノール

(そういう仕組みらしい)

ノーア・ノール

(だから、ボクたち”特殊班”は)

ノーア・ノール

(死神が持っているはずの”死者の書”を持っていない)

”死者の書”とは、

管理地内にいる人の死ぬ時間と場所が記されている書物で

それに従って死神は仕事を執り行っていく。

ハール

おや、仕事だ

それゆえ、”死者の書”を持たない”特殊班”の仕事は突発的だ。

仕事の依頼も手紙で届く。

突然、どこからともなく。

ノーア・ノール

場所はどこですか?

ハール

すぐ近く……

しかし、そう言った先輩の表情は険しかった。

ノーア・ノール

どうしました?

ハール

いや、今回は本当に特殊らしい

その言葉の意味がわからず、

首を傾げると”とりあえず、行ってみよう”と言われた。

それが、彼女との初めての出会いだった。

ノーア・ノール

(小さな体に無数の針のような釘のようなものが……)

触れなくてもわかる。

それは、

今まで見たどの呪いよりも強い恨みをはらんでいた。

ノーア・ノール

先輩、これ……

ハール

悪魔の呪いだ

ノーア・ノール

悪魔の?

ノーア・ノール

でも、悪魔って

ノーア・ノール

人の欲望を叶える存在で、

ノーア・ノール

悪魔が直接人を呪うなんて

ハール

オレは聞いたことが無い

先輩はきっぱりと言い放った。

ハール

彼女が、

ハール

こんな幼い子が、

ハール

悪魔に恨まれるようなことをしたなんて思えない…

ハール

…けど

先輩は、深いため息をこぼす。

ハール

これは、確かに悪魔の呪いだ

ノーア・ノール

彼女、ちゃんと浄化できますか?

ハール

ん?

ノーア・ノール

ボク、

ノーア・ノール

犬に襲われてるところを彼女に助けられたんです

ハール

……そっか

死神である自分が見えたのは、

彼女の死期が近かったから。

ハール

ああ、大丈夫

ハール

きっと、浄化できるよ

先輩のその言葉を信じて彼女の魂を天上に運ぶ。

小さな魂にたくさん突き刺さった真っ黒な針。

浄化の泉に沈めれば、真っ白な気泡が湧き上がる。

ノーア・ノール

(これで彼女の魂は救われるんだ…)

そう、思ったのに……。

呪われる人は、

必ずしも悪い人とは限らない。

先輩が最初に言ったことは、

このことだったのだと理解した。

あんな、純粋無垢な女の子が

悪魔に呪われるなんてきっと何かの間違いだ。

ハール

呪った相手の詮索はしないこと

ハール

オレは最初に言ったはずだけど?

ノーア・ノール

そうですけど、先輩!

ノーア・ノール

ボクは彼女が呪われた理由が知りたいんです!

浄化しても、

転生しても、

穢れている魂。

悪魔の呪いとは、

それほどまでに面倒くさいモノだとは思いもしなかった。

ハール

わかったところでオレたちに何ができる?

ハール

死神に出来るとこは、

ハール

粛々と魂を天上に運ぶだけ

ハール

呪いを解くことなんて出来るわけがない

ハール

しかも、呪った相手は悪魔だ

ノーア・ノール

わかっています!

ノーア・ノール

わかっていますけど!

ノーア・ノール

ボクはあの子に何度も助けられているんです!

ノーア・ノール

このまま何も出来ずに

ノーア・ノール

ただ見ているだけなんて…

ボロボロと涙を流す姿を見て、

先輩は深いため息をこぼした。

ハール

そんな駄々っ子みたいなことを言っても

ハール

オレたちにできることなんて限られているんだよ

そのときは、先輩のことを心底冷たい人だと思った。

なんで、罪もなく呪われた人を見てそんなことを言えるのかと。

どうしてそこまで無関心でいられるのかと。

ただ、時間が経てば経つほど

死神というのはそういう存在であることを理解する。

淡々と仕事をこなす人形のようで、

ただそれだからこそ成り立つ仕事なのだと。

いちいち、死ぬ人間のことを気にかけていれば

それこそキリが無い。

毎日、いったい何人の人が死んでいるというのか。

あまり一人の人間に固執するな、

と先輩に言われたけれど。

何度も何度も彼女に救われていくうちに、

彼女を救いたいという気持ちはどんどん大きくなっていった。

それは、

死神として持っていてはいけない思考であり、

感情だと先輩に言われても。

彼女に対する想いを、

恩を無かったことには出来なかった。

ノーア・ノール

(ボクはきっと死神として欠陥品だから)

ノーア・ノール

(【成体】にはなれない)

ノーア・ノール

(……きっと遅かれ早かれ消滅する運命なんだ)

ノーア・ノール

(それなら、そうなるのなら)

ノーア・ノール

(せめて、彼女を呪った悪魔を見つけることが出来れば…)

ハール

ノーア・ノールですか?

ハール

真面目に仕事をこなしていますよ

ハール

問題?

ハール

いいえ

ハール

何もありません

ハール

まぁ少々個性が強いようで

ハール

動物に度々追いかけられていますが…

ハール

仕事に支障をきたすほどではないでしょう

ハール

……はい

ハール

ええ、それはもう

ハール

粛々と死神らしく仕事をしています

ハール

ノーアなら死神にしても問題は無いでしょう

ハール

……強いて言えば

ハール

ノーアは

ハール

優しすぎるのかもしれません

ハール

……ははっ

ハール

私と似ていると?

ハール

ご冗談が上手いですね、冥王様

ハール

私は……

ハール

私は彼女ほど優しくはありませんよ

ハール

…けして、ね

ノーア・ノール

……せ、先輩!!

ハール

やっと【成体】になったか

先輩は大して驚くことなくそう言った。

ノーア・ノール

嘘だ

ノーア・ノール

これは悪い夢だ

自分の顔を、頬を抓る。

ハール

どうして?

ハール

ああ、男の子だったのが意外だったのか?

ノーア・ノール

そうじゃないです!!

ノーア・ノール

絶対、【成体】になれないと思っていたんですけど

ハール

なんで?

ノーア・ノール

だって、ボクは……

ノーア・ノール

一人の子に固執してますし

ノーア・ノール

それに妙に存在感があって

ノーア・ノール

時々人にその姿が見えちゃったりしますし…

ハール

……まぁ

ハール

それも込みで【成体】になれたんだろ

ノーア・ノール

え~~~~~!?

ハール

ほら、せっかく【成体】になれたんだ

ハール

お祝いをしよう。何が食べたい?

ノーア・ノール

え、えーっと…

ノーア・ノール

タルト!

ノーア・ノール

先輩がいつも食べてる

ノーア・ノール

リンゴのタルトが食べたいです!

ハール

ああ、わかったよ

ノーア・ノール

先輩、何か冥王様に言いました?

ハール

何かって何をだ?

ノーア・ノール

だってだって!

ノーア・ノール

先輩がボクのことを推したから

ノーア・ノール

【成体】になれたんじゃあ…

ハール

そう思うなら

ハール

オレのためにもう少し死神らしく頑張ってほしいものだね

ノーア・ノール

!!!

ノーア・ノール

は、はい!

ハール

じょ、冗談だよ

ノーア・ノール

頑張ります!!

ハール

冗談だってば

先輩はお喋りが好きなタイプではなかったけど、

話しかけたらちゃんと答えてくれる良いヒトだった。

読書が大好きで、

どこに行っても本を読んでいて、

放っておくと何日も本を読んでいた。

綺麗好きで、

散らかった部屋を見るといつも重いため息をこぼしていた。

散らかすのはいつも自分だったけど。

死神だから表情は薄いけど、

死に逝く人を見る目は優しく、

魂を雑に扱うことはなかった。

きちんと仕事が出来れば褒めてくれるし、

失敗すれば怒ってくれた。

そんな、

普通なことが嬉しかった。

そんな、

先輩が大好きだった。

ずっと、側にいたいと思ったし、

ずっと側に居られると思っていた。

でも……。

ハール

はい

ハール

ノーアが持って行って

ノーア・ノール

え?

渡されたのは、

今掬い上げたばかりの呪われた女性の魂。

ハール

【成体】になったんだ

ハール

つまり、もう一人前ってことだろ?

ノーア・ノール

…そう、ですけど……

ハール

ってことで、頼むよ

ハール

オレは先に帰って本を読んでるから

そう言って背中を向けた先輩の服を、

反射的に掴んだ。

ハール

ノーア?

ノーア・ノール

……先輩は

ノーア・ノール

どこにも行きませんよね?

ハール

え?

ノーア・ノール

先輩は

ノーア・ノール

本当にボクの帰りを待っていてくれますか?

ハール

……。

ノーア・ノール

勘は

ノーア・ノール

良い方だと思ってます

ノーア・ノール

一人前になって

ノーア・ノール

独り立ちするのは当然のことです

ノーア・ノール

でも

ノーア・ノール

何も言わずにいなくならないでください

ノーア・ノール

お願いします……

先輩は大きく息を吐き出し。

振り返る。

ハール

ノーア

ハール

死神には二つのパターンがあるのは、知ってる?

ノーア・ノール

はい

ノーア・ノール

生前、人だった死神と

ノーア・ノール

冥王様から生まれた死神、ですよね?

ハール

そう

ハール

そして、本来であれば”特殊班”は

ハール

冥王様から生まれた死神が配属されるはずなんだ

ハール

でも、オレは……

ハール

前者の死神

ハール

死神になる前は人だった

ノーア・ノール

…そうだったんですか?

ノーア・ノール

……?

ノーア・ノール

でも、呪いが見え…え?

ハール

見えるから”特殊班”に配属されたんだろうね

ハール

でも、だからこそ……

先輩はそこで一旦言葉を止めて、

複雑な表情を浮かべた。

ハール

だからこそ

ハール

冥王様の意思に背ける

ノーア・ノール

……どういう

ハール

オレは

ハール

ノーアを消滅させることなんて出来ない

ノーア・ノール

え……

ハール

オレは、冥王様にノーアが優れた死神になると報告したんだ

ノーア・ノール

いや!それ盛り過ぎでしょ!?

ノーア・ノール

な、なんでそんな盛ったんですか!?

ハール

あははっ

ハール

なんでかな?

ハール

でも、まぁ多少は盛ったけど

ハール

嘘を吐いたつもりは無い

ハール

ノーアは確かに仕事はきちんとこなしていた

ハール

私情を挟むことは無かったし

ハール

でも、冥王様の目は欺けないね

ハール

ノーアが彼女に固執していることがバレてしまってね

ハール

オレはその責任を問われた

ノーア・ノール

なんで……

ハール

ノーアを消すこと……

そう言って取り出したのは、

白銀の短剣。

ハール

これで刺された死神は消滅するらしい

ノーア・ノール

……

ハール

でも、オレはその選択肢は選ばない

ノーア・ノール

どうしてですか!?

ノーア・ノール

こんなこと逆らったら

ノーア・ノール

先輩が消滅しちゃいますよ!?

ハール

どうかな?

ハール

もし、冥王様の意思に反することが罪ならば

ハール

最初からそんなこと出来ないようにするはすだ

ハール

そうしなかったということは

ハール

死神が冥王様に背くことは想定の範囲内ということ

ノーア・ノール

そ、そんな

ハール

それにきっと

ハール

ノーアがオレの元に配属されたのも冥王様の意思かもしれない

ノーア・ノール

で、でも

ノーア・ノール

冥王様はボクを消滅させろって…

ハール

……

ノーア・ノール

先輩!大丈夫です!

ノーア・ノール

ボクのことなんか気にせず

ノーア・ノール

ブスッ!とやっちゃってください!!

ハール

あの子……

ノーア・ノール

え?

ハール

ノーアがずっと気にかけていた子

ノーア・ノール

あ……

ハール

オレの見立てではノーアがいないとあの子は

ハール

救われないんじゃないかな?

ノーア・ノール

そ、そんなわけないですよ!

ノーア・ノール

彼女を救うなんて誰でも

ハール

でも、きっと

ハール

あの子はノーアに救われたいだろうし

ハール

オレも

ハール

ノーアにあの子を救って欲しい

ノーア・ノール

じゃあ、先輩も一緒に

その言葉に先輩はゆっくりと首を横に振った。

ハール

変わり者のノーアだからこそ

ハール

きっと救える

そっと、ナイフを仕舞う。

ノーア・ノール

先輩っ!

ハール

心配しないで

ハール

ノーアを消滅させろ、とは言われたけど

ハール

出来なかったらオレが消滅させられる

ハール

とは言われてないから

ノーア・ノール

でも!でも!!

ハール

もう二度と会えないかもしれない

ハール

でも、オレはずっとノーアのこと

ハール

想ってるから

ノーア・ノール

……先輩…

ハール

だから、何かに邪魔をされたとしても

ハール

自分を貫いて

ハール

あの子を助けてあげて

ノーア・ノール

……

涙が止まらなかった。

掴んでいた手が、

ゆっくりと離れる。

ノーア・ノール

ボクも先輩のこと

ノーア・ノール

一生忘れません

ノーア・ノール

絶対

ノーア・ノール

彼女を助けてみせます

ハール

うん

ハール

信じてるよ

ハール

さ、早く行っておいで

ハール

そして、一人前の死神になるんだ

ハール

いいね?

ノーア・ノール

……はい

先輩はやんわりと微笑んで、

頭を撫でてくれた。

ハール

大好きなタルト

ハール

買っておくから

大好きだった先輩。

でも、それが最後の言葉になった。

魂を浄化の泉に沈めて、

浄化して、

急いで地上に戻った時、

先輩はいなくなっていた。

一切れのタルトを残して……。

わかっていたことだけど、

上手く受け入れられなくて何日も泣いたのを覚えてる。

冥王様の意思に背いて消えたわけじゃない。

そう、思うことにした。

消えたなんて、

思いたくない。

信じたくない。

今もどこかで”特殊班”として働いているか、

仕事を全うして人に生まれ変わっているか。

その、どちらかであればいいと思う。

そして、幸せであれば

自分のことを忘れていても構わない───。

タナキエル

今年もタルト買って帰るのか?

タナキエルはそう言ってケーキ屋を指差した。

ノノ

うん!買って帰るよ!

ノノ

タナキエル、覚えてたんだ

タナキエル

何百年と同じこと繰り返してりゃ、嫌でも覚えるだろ

ケーキ屋に入り、ショーケースを眺める。

色とりどりのタルト。

見ているだけで心が弾む。

少しだけ悩んで、

先輩が好んで食べていた

リンゴのタルトを買うことにした。

ノノ

先輩……

ノノ

ちゃんと人に転生できたかなぁ…

タナキエル

お前を死神にするほどのお人好しだぞ

タナキエル

転生してるだろ

ノノ

ふふっ、そうだよねぇ

タナキエル

お前は転生出来るか知らんけどな

ノノ

むぅ、ひどいなぁ

タナキエル

どうだ?悪魔と契約して人になるか?

ノノ

えぇぇ?

ノノ

…あ、でもそしたら、先輩に会える、かも?

タナキエル

おいおい、氷野のことはいいのか?

ノノ

夕姫ちゃんも先輩もベリトくんも大事なの!

ノノ

来世ではみんな一緒に学校生活をエンジョイするんだから

タナキエル

俺はどこに行った?

ノノ

知らない!!

タナキエル

ったく、ふてくされんなよ

タナキエル

良いワイン開けてやるから

ノノ

わーい!やったぁぁ!

タナキエル

お前はホント、単純だな

タナキエルはため息交じりに言って、

ノノは一人嬉しそうにスキップをする。

ノノ

(いつか、先輩に会ったら報告するんだ)

ノノ

(ちゃんと、あの子、助けられましたよって……)

─了─

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