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橘真衣
家に帰ってきた私は 早速部屋に逃げ込んだが 先生との約束を果たさなければならない
でも 期限は今月末と言っていたし もう少し心の準備をしても良いのではないか
橘真衣
やるべきことを先延ばしにしても 辛いことは増幅するだけだ
むしろ こういうのは早い方が良いくらいだろう
私はある意味そうやって生きるしかなかった
追い詰められてとか 切羽詰まってとかじゃない
ただ形をなぞるだけだから 楽しいことも辛いこともそう変わりなかったのだ
だったら 一時の苦痛を味わっておくだけでいい
無意味に大きな苦痛を味わいに行くのは 時間の無駄というやつだ
こうした考えから ふと私は自身の過去について思いを馳せた
どうして こんな風になってしまったのだろう
先生も言っていた 過去を知ることで求めている答えに繋がると
求めている答え
それは
橘真衣
私は思考を中断する
何を考えているのだ
こんなことを考えること自体 無意味なのではないか
今はただ 先生の言うことを諾々と聞いていれば この退廃的な自身の生活が変わるかもしれない
ある種の思考停止
他人の言うことを細い指先で伝っていく
それが私の生き方
しかし 私は自身の過去について何も知らないことに思い至った
もちろん 幼い頃から今までの記憶はある
「過去」と言う言葉の定義にもよるが 私は自身が生まれる経緯や家族について知らない
「過去」というより「ルーツ」に近いかもしれない
思えば、本当に一度だけ 母から亡き父のことを聞いたことがある程度だ
私は先生から貰った本を指先でなぞる
よりよく生きるための時間の使い方
ぼうっとしているよりかは 何かを得られるかもしれない
私は重い腰を上げて ようやく部屋を出た
橘真衣
橘理恵
橘理恵
橘理恵
橘真衣
母は部屋におらず リビングルームにいた
テレビを見ていたが 私が話しかけると無言で切った
一体何事かと 目を大きく見開いてこちらをみる
母のこう言うところが苦手だ
人の話を聞くためにこちらを向くのは当たり前だが なんというかその目が嫌なのだ
人の心の機微など分かろうとしない なぜだか臨戦態度の目
射抜くというよりぎょろりとまとわりつく目
私は目を逸らして 頭にある言葉を入力していった
橘真衣
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘理恵
私は何も言えなかった
返ってくる答えはとても冷たく響き 脳内でその声がぐわんぐわんこだまする
苦痛
でも もう慣れてしまっていた
私は無感動に相槌を打って もう一つの質問をした
橘真衣
橘理恵
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘理恵
橘理恵
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘真衣
私は逸らしていた目を 思わず母の目に向けた
母は自身の指をさすりながら 伏し目がちになっている
その指には 結婚指輪がつけられている
母はぽつりと語った
橘理恵
橘真衣
橘理恵
橘理恵
本当に、もう何も言えなかった
母も何かを考えているようだが それ以上は何も話そうとしなかった
私は
私は、母に対してどう思ったのだろう
失望?
呆れ?
いや、何かが違う
もやもやと膨らんでいく感情
色は?
黒い
とても、とっても黒いもや
そうだ
これは
憎悪だ
私は唇を強く噛んだ
橘真衣
橘真
橘真
橘真衣
橘真衣
橘真
橘真衣
橘真衣
橘真
橘真衣
橘真
橘真衣
橘真
橘真
橘真
橘真衣
橘真衣
橘真
橘真衣
橘真
義父はパソコンから顔を上げて 足を組んだ
くるくると椅子を回して ふとこちらを見た
そして言った
橘真
橘真衣
橘真
橘真
橘真
橘真
橘真
橘真
私は震える手を必死で抑えた
そして、ある疑問をぶつけた
橘真衣
橘真
橘真
橘真
橘真衣
橘真
橘真
橘真衣
橘真
橘真衣
橘真
橘真
橘真
橘真
違う
私は激しく抵抗した
守られてなんかいないんだ
経済的な安心を与えてくれているだけで この人は家族に対する愛が欠けている
何か空っぽなまま話している
それに 父さんのことをそんな風に語らないで
あなたより、よっぽど立派だ
家族のことを見つめ直すべきは 義父の方だ
橘真衣
どろどろとまた黒いもやが伝わってくる
憎悪
私は、こんなことを思った
"父さんの仇を打ちたい"
これは復讐心?
復讐なんて大層なことはできっこない
でも、いつかこの人たちに なにか天罰が当たりますようにと
私は心から願った
私は 多分亡くなった父さんに似ていたんだと思う
繊細で抑うつ的で真面目
だから 人一倍優しかったのだと思う
私は 自身の過去を知ったことで 亡くなった父に同情を覚えていた
今の私と似ているからか とても悲しくて仕方がなかった
父は、殺されたようなものだ
犯人は?
母と、義父の共犯だ
言い訳がましく義父は弁解したが 家族への愛もなく亡き父に対する言葉も辛辣だった
でも、まだ迷いもある
これから一体 どうすれば良いのだろうか
家族とどう接していけば良いのだろうか
橘真衣
橘真衣
橘真衣
橘真衣
橘真衣
橘真衣
橘真衣
涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちてきた
橘真衣
橘真衣
ブーブーブーブー
みると、スマホが振動している
電話だ
画面には非通知設定の表示が出ている
私は 無意識に電話に出ていた
なんでもいいから 気を紛らわせるものがあれば良いと思ったから
ピッ
電話に出る
しかし 相手は何も言ってこない
イタズラ電話だろうか
それとも電波が悪いのか
私はそっと切断の表示に指を置く
その瞬間
「オマエノ チチオヤ」
橘真衣
「オマエノ チチオヤ タチバナマコトハ」
「ヒトヲ コロシタコトガ アル」
変声器、だろうか
機械的で妙に甲高い声が 言葉を紡ぐ
橘真が人を殺した?
一体、どういうことだ
声は続けていった
「カンザキ」
「カンザキ シュンヤ トイウ オトコに アエ」
「スベテハ ソコニ アル」
橘真衣
橘真衣
ブチッ
プープープー
電話は切れてしまった
今のは一体……?
私は一気に緊張した
何者かが私を呼んでいる
私は、決断を迫られている
ここで立ち止まるか、進んでいくか
ただ進む先は茨の道よりも過酷かもしれない
それでも
橘真衣
私は覚悟を固めた