染花
(…最近幸太ばっか目で追ってる……)
はあ、とため息を吐く
染花
(あたしがどうにかできるもんなのか…?)
幸太
うわっびっくりした、染花何してんの?
染花
何って…アンタと帰ろうと思って待ってた
幸太
今から部活なんだけど…
染花
休むつもりだったんじゃないの?
幸太
え?なんで?
染花
…だってずっとぼーっとしてるしそれで行っても良くないでしょ
幸太
…バレたか
染花
なんのこと考えてたの?
幸太
…うん
染花
言いたくないならいいけど────
幸太
思い出してたんだ
幸太
幸太
…亜子ちゃんが死ぬまでのこと
染花
…亜子ちゃん、ね
もうコイツの考えてることなんて全然分かんないけど
亜子ちゃん、がコイツを苦しい方に縛ってる要因なのは確かで
だけどそれを解いてあげられるほど簡単な問題でもないし
こればかりは、どうにもできない
染花
(人が死んだなんて)
染花
(立ち直れるかどうかは残った側の心の問題なんだから)
幸太
…亜子ちゃんはね
幸太
いじめられて自殺未遂を起こした
染花
…未遂?
幸太
…一緒に帰りたいってことは話聞くつもりだった?
染花
うん
幸太
じゃ、時間あるよね
染花
…話してくれる気になったの?
幸太
思い出したって言ったでしょ
幸太
亜子ちゃんに言われたんだった
幸太
自分を大切にしてくれる人は大切にしなきゃいけないって
染花
…
幸太
正直ずっと思い出さないようにしてた
幸太
比喩でもなんでもなく息ができなくなるから
幸太
だけどやっぱり考えなきゃいけないと思ったから昨日ちゃんと向き合って
幸太
今日はそれが頭から離れなくて、ずっと考えてた
染花
(…ぱっと見で分かるほど雰囲気も口調も、随分いつもと違う)
染花
(ここまで、繕ってたとは)
幸太
…亜子ちゃんはさ、強かったんだ
幸太
いじめなんてされてないよって何度も僕に笑って言った
幸太
だけど実際はいじめられてて、辛くなって自殺しちゃった
幸太
1回目は未遂、2回目は…皮肉にも成功しちゃったんだ
染花
そんなことが…
幸太
…うん
染花
…?それで、何が幸太のせいなの?
幸太
いじめられてた理由が僕だった
幸太
亜子ちゃんが意見言えないのを知ってたから僕は優しくした
幸太
そしたらまあすずなりに僕の友達もそうなって、それが当たり前になったけど
幸太
いかんせん僕は友達が多かったから
染花
…あ
染花
そういうこと…女子の悪いとこ、ってやつか
幸太
女の子…まあ、人は誰だって自分以外の子がチヤホヤされてることが嫌なんだよ
幸太
媚び売るな、とか男好き、とかから始まって
幸太
ポストに脅迫の手紙とか、無くしものとか、暴力…妹にも手出したとかね
染花
やば…
幸太
やっぱりその中で自分が犠牲になってまで救けようとする人はいなかった
染花
幸太は?
幸太
…僕は亜子ちゃんが死ぬ前から
幸太
人を救けること自体は人としてするべきだと思ってたし
幸太
男友達とかは女こえー、とかくらいで別に亜子ちゃんと関わらまいとしてたわけじゃないから
幸太
…苦労はなかったよ、でも僕の無知が追い詰めた
幸太
…いじめの元凶でもある僕らが亜子ちゃんといることは…状況を悪化させるだけだった
幸太
亜子ちゃんは嫌がったけど隠れて先生に相談した
幸太
だけど誰も、本人が言わないならなんて具体的に対処はしてくれないし
幸太
なにも、できなかった
染花
それで、本人は結局辛くて亡くなったってことね
幸太
…手紙をもらったんだ
幸太
遺書ってやつ、1回目の未遂のときとはまた違うものだった
幸太
2回目の遺書は、僕だけに宛ててあった
染花
幸太だけに…?
幸太
いじめを知って動いてくれたのは幸太くんだけだった
幸太
ありがとう
幸太
でももう耐えられない
幸太
幸太くんにも迷惑をかけたくないからわたしはいなくなるね
幸太
わたしを忘れて幸せになってね、みたいな
幸太
…まあ、まとめるとこんな感じ
染花
…それは……
染花
(本人は本当に純粋にそう思ったんだろうけど…幸太側からしたら)
染花
(優しい言葉なのに、皮肉なことに…幸太"だけ"に宛てた手紙は)
染花
(亜子ちゃんには自分しかいないから、って抱えていかなきゃいけない気にもなる)
染花
(たぶん幸太はそんな義務的に苦痛になってるわけじゃないけど)
染花
(コイツのことだからそういうの感覚的に捉えて全部背負ってる)
染花
(しかも、本当に自分が悪いと思ってる)
幸太
別に何も言わなくていいよ
幸太
言いたいこと分かるし、もっと亜子ちゃんを弔うべき人たちがいるのも分かってる
幸太
だけど僕は人の気持ちなんてそんな容易に伝わらないって知ってる
幸太
相容れない、なんて言葉が存在するように、分かり合えない人は思うよりずっと多くいる
幸太
だからその人たちの分まで僕が苦しみをもらって
幸太
その分また、人を救けたい。
幸太
これは贖罪でもあるけど
幸太
僕が救われるためでもあるんだよ。
染花
人を救わなきゃ…苦痛が、増すだけ……
染花
(それが今の幸太のオリジンなら…あたしにそれは否定できない)
染花
(あたしはそれに、救われたから)
染花
…でも
染花
あたしだって…っそれでも幸太には、救われてほしい!
染花
じゃないとあたしは一生救われきれない!!!
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コメント
5件
染花さんが幸太くんの話を聞いてあげてるところが物語の最初、幸太くんが染花さんの話を聞いてあげてるところと対比していて物語が繋がってるな、って思った💭 そっ、か……。亜子ちゃんは二回も……。一回目は未遂、で良かったものの二回目は……、っていうのが……。しかも手紙が幸太くんだけにある、ってそれは確かに幸太くんも責任を感じちゃうよね……😢😢
ヤバすぎる…重… そういえば柑奈ちゃんは幸太くんだけが柑奈ちゃんに構ってた感じだったけど、亜子ちゃんのときは友達もみんなすずなりにっていうのが、昔の幸太くんはやっぱり違うんだなぁと思った。どっちがいいのかは分かんないけど…亜子ちゃんの場合ほんとにちやほやされてて嫉妬って感じなら幸太くんもあとで色々知ったとき責任感じちゃうよね……