TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

本田の目は、静かに久留間の手首を見ていた。

赤い呪いが煙るように香る

それがゆらゆらと伸び上がり、静かに渋谷へと伸びていた。

ただし今はそれが先から掻き消えるように

久留間の手元に戻り始めている

さらにその気配が当事者には一切関知できない様子で

久留間も渋谷も、まったくそれに気付いてはいないようだった

本田芙蓉

……なるほど

本田芙蓉

なかなか厄介な相手に呪われたようじゃ

久留間悟

なに、じっちゃん?

本田芙蓉

いやいや

本田芙蓉

今はわしに言えそうな事はなにもない

本田芙蓉

しばし静観するのみじゃ

ぽつりと落ちた本田の呟きに、久留間が振り返る

きょとんとまばたいての問いかけに笑顔で返し

にこやかさの裏に隠した眼光で今度は渋谷を観察した

本田芙蓉

渋やん

本田芙蓉

今は痛んでおらんかの

渋谷大

うん、痛くない

渋谷大

時々なんだよ

渋谷大

なんつーか、こう

渋谷大

心臓が締め上げられるような感じっつーか

久留間悟

お前それ、呪いを疑う前に病院行った方がいいって!

久留間悟

じっちゃん、ちょっと連れてってきても……

渋谷大

ぃう……!!

業務の途中退席を申請する言葉が終わらぬうちに

渋谷が胸を押さえて蹲る

その苦しげな表情に慌てた様子で、久留間が顔色を変えた

久留間悟

ちょ、おい!

久留間悟

マジでやばいやつじゃんそれ!

久留間悟

じっちゃん、こいつマジで病院連れてってくる!!

肩を貸し、外へと連れ出す

その背中を見送り、ポストは言いづらそうに本田を見返った

ポスト

……あの、ボスぅ

ポスト

俺ね、ヨーロッパにいた頃

ポスト

あの手の呪いを何度か見てんだけど……

本田芙蓉

ほうかほうか

本田芙蓉

見たことがある者がおるのは心強い

本田芙蓉

ではポスト、アレは――

本田芙蓉

呪った対象が想う相手を害するモノ、かの

笑んだままの本田の眼光は、しかし柔らかさが見られない

それに些か怯んだ様子で、ポストは静かに体を折った

ポスト

お流石すぎてなんも言えないっす

本田芙蓉

ほっほっ

本田芙蓉

しかしこれは……

本田芙蓉

ちぃと困ったのぉ

ポスト

……困ったですむ?

本田芙蓉

あの二人のこと、お前さんも気付いておるじゃろ

本田芙蓉

それでも当人達はそれなりに隠そうとしておる

本田芙蓉

気恥ずかしさか、世間的なことを気に病んでか……

本田芙蓉

どちらにせよ、その気持ちは汲んでやらねばいかん

指を組んで思い悩む本田の言葉に、ポストの表紙が傾ぐ。

ポスト

じゃあ、俺らにできることはないってこと?

本田芙蓉

そうじゃな

本田芙蓉

二人がわしらに打ち明けてくれるまで

本田芙蓉

まず無理であろう

ポスト

……ゴリラ、大丈夫かなぁ

本田芙蓉

なに、心配はいらん

本田芙蓉

あの二人ならそれなりの対処法を見つけるじゃろ

本田芙蓉

わしらは黙って見守ればよい

ポスト

そっかぁ

あくまでも腰を上げようとしない本田の様子に戸惑いつつ

二人が出て行ったエントランスを見返る

タクシーを呼んでいるのか、それともほかの理由があるのか

どちらにせよ事務所の敷地内から動いていないその気配に

ポストは小さく唸った。

ポスト

ボス、けっこうスパルタなんだなぁ……

頑張れよーと呟いて、業務に戻る

扉の向こうからは、陽気で無邪気な悪意がしみ出していた

同時刻

カタヅケ屋本舗事務所の駐車場

額に脂汗が滲み、胸元を強く掴んだ渋谷を不安げに支えて

久留間はスマートフォンを取り出していた。

久留間悟

すぐタクシー捕まえるから

久留間悟

ちょっと待ってな大ちゃん

渋谷大

ん、だいじょぶ

久留間悟

大丈夫な顔じゃないよお前

短い呼吸を繰り返し、蒼白になった顔色で

無理に笑ってみせる渋谷の髪をぐしゃりと撫でる。

汗で濡れた感触が夜の情事を思い起こさせ

こんな風に触れたくはなかったと舌打った時だった

渋谷大

ッイ……!

久留間悟

ちょ、おい大!!

崩れ落ちた渋谷の肩を抱き、慌てて周囲を見渡す

車通りはあるものの、タクシーはいっこうに通りかからない

やはりアプリで呼び出した方が得策かと

スマートフォンをタップした時、二人の上に小さな影が差した

サキュバス

やだ、あなたのパートナーって男!?

サキュバス

いい男二人がゲイなんてもったいない!

久留間悟

……ッ!?

聞き覚えのある声に空を仰げば、幼い体躯を

惜しげもなく晒した先日の淫魔が覗き込んでいた

その姿に、渋谷の心臓の痛みが起因している予感が警鐘を鳴らす

久留間悟

――やなタイミングだな

久留間悟

なんで君、ここにいんの?

サキュバス

言ったでしょ?

サキュバス

あなたから好きになってくれるまで待つって

サキュバス

私、ちゃあんと待ってるだけよ?

久留間悟

なにもせずに、かな

サキュバス

えぇ

サキュバス

ただまぁ……

サキュバス

あなたが他の人を好きになれなくはしたかしら

ふふと笑う小さな声に、渋谷の肩がひくりと反応する

未だ痛みが残る心臓を無視し、久留間を睨みあげた

渋谷大

どういうこった、お前

久留間悟

いやいや!

久留間悟

俺はなんにもしてないってば!

サキュバス

そうよ

サキュバス

彼はあなたのことを好きなだけ

サキュバス

それ以外はなにもしてないわ

歌うようにくるりと体を捻り

淫魔は見た目にそぐわぬ艶然さで唇を開く

サキュバス

彼が誰かを好きだ、大事だと思うたび

サキュバス

相手は心臓を締め上げられる痛みに悶絶するの

サキュバス

思いが強ければ強いほど痛みは強くなって

サキュバス

もしかしたら一瞬で握り潰されてしまうかもね

サキュバス

恋の痛みが命を奪うなんて素敵でしょう?

渋谷大

……なるほど

渋谷大

このイッテェのはそういうことか

渋谷大

悟が俺のことをそんだけ心配してるってことだな

渋谷の唇がわずかに笑む

そのままふらつく足で立ち上がり 苦しげな表情のまま淫魔を見据えた

渋谷大

悪いけど、俺はこの程度で死ぬタマじゃねぇから

渋谷大

要は心配させなきゃ、昨日程度の痛みで済むわけだ

渋谷大

――全っ然問題ねぇよ

久留間悟

大ちゃん

久留間にだけ見えるように、渋谷がふにゃりと笑みを浮かべる

その瞬間走った痛みに咄嗟に顔を顰めるものの

たった一呼吸短く吐き捨て、強気に睨み上げた

渋谷大

コイツが欲しけりゃ

渋谷大

直接俺を殺すくらいのつもりで来いよ

渋谷大

お嬢さん

サキュバス

――っ

カラーコンタクトで彩られた青い目が、虚勢ではなく

挑戦的な光を見せたことに淫魔は思わず怯み、息をのむ

しかしそれもつかの間、すぐさま余裕を取り戻した淫魔は

ゆったりと頬を緩ませ、久留間を見下ろした

サキュバス

……いいわ、ゆっくり待ってあげる

サキュバス

これは痛みを受ける側の問題じゃないんだもの

小さな投げキスを久留間に寄越し、ひらりと手を振る

その足もとが空中にもかかわらず小さく跳ねるのを見て

久留間は慌てて声を投げかけようと口を開いた

そこから音が発されるのを待たず、淫魔はにこやかに告げる

サキュバス

言っておくけど、私が諦めない限り

サキュバス

解呪はできないわよ

サキュバス

淫魔の呪いは失恋以外では解けないの

サキュバス

じゃあね、私のロミオ!

音だけを残し、淫魔の姿が宙に溶ける

届きもしないのに引き止めようと伸ばした手だけが

所在なく空を切った。

直後、その場に座り込んだ渋谷が深く息を吐く

渋谷大

……つまり俺

渋谷大

あの子が納得するフラれ方をするまで

渋谷大

この状況ってことな?

久留間悟

……とりあえずじっちゃんには

久留間悟

呪われましたって報告しなきゃなぁ……

渋谷大

どう言うの?

久留間悟

へ?

渋谷の疑問符に、久留間は一瞬沈黙する。

やがて、二人の関係をひた隠しにしている限り

経緯をそのまま報告するわけにはいかないと気づき

苦悩の叫びを上げた

サキュバスの爪痕

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

250

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚