本田芙蓉
本田芙蓉
本田への報告は結局、久留間が淫魔と接触した経緯は一切話さず
渋谷一人が呪われたという方向へ舵をきって行った
無論のこと本田はポストから呪い主や、その呪いの出所が
久留間の手首につけられた傷であることも理解している
しかしそれに気づいている素振り一つ見せず
好々爺はふむと小さく頷いた
本田芙蓉
本田芙蓉
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
しわがれた喉から落ちたため息を、二人は申し訳ない気持ちで見る
しかし本田はといえば、二人に諭すように言葉を続けた
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
久留間悟
意外な言葉に、思わず間抜けた声が漏れる
それをにこやかに受け流し、枯れ木のような両手が
ポンと音を立てて打たれた
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
きょとんと顔を見合わせる二人を前に
本田はあくまで朗らかな態度を崩さない
それが呪いの全容を知った上でのことと気づきもしない二人に
ポストはただただ、なんで気づかれてないと思うんだろうなぁと
明後日の方向を見つめていた
業務が最小限と言っても、その日は渋谷にとって
苦難の一日だったことは言うまでもない
呪いを受けているという精神的負担はやはりじっとりと重く
その上ことあるごとに心臓に痛みが走っては
なけなしの集中力も消し飛ぶというものだった
まず第一に、書類作成
カタヅケ屋が扱ったここ一ヶ月の事件は、発覚から依頼
解決に至る経緯をまとめ
必要なものは警視庁に共有しなければならない
パソコン操作に特化しているわけでもなく
かといって書類整理が得意なわけでもない渋谷は
もっぱらこの作業を担うことが多いが
文章作成もやはり苦手な渋谷にとって
事務仕事は苦行でしかなかった
従ってその都度残した報告やメモを見ながら唸り続けるわけだが
この日はその最中、心臓に痛みまで走ったものだから堪らない
渋谷大
咄嗟に歯を食いしばり、反射的に久留間を見る
すると視線の先では、両手を合わせて謝っている恋人の姿があった
渋谷大
理解できない部分が増えてしまったと首を傾ぐと、また痛みが走る
若干苛つきはしたものの、それだけ想われているのだと解釈すれば
気恥ずかしさこそあれ我慢できないものではなかった
ただしこれが、一日中頻発したとなれば話は別だ
書類作成に唸るたび
少し頭を整理しようと煙草を吸いに出て、それを見られるたび
また、休憩に入ると言われて喜んだ瞬間
昼食を食べに出た食堂で、思いがけず顔が綻んだ瞬間
さらにはいい加減心臓の痛みに腹が立ち
久留間と目が合って舌を出した瞬間までも心臓が締め上げられる
ここまで来てはさしもの渋谷も、定時退社時刻の頃には
怒り心頭の様子だった
事務所を出て、久留間を家まで送る車内で声を荒げたのも無理はない
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
久留間悟
久留間悟
久留間悟
渋谷大
荒々しくハンドルを切る渋谷の表情は、完全に激怒している
さすがの久留間もそれにときめく余裕や、癒されるだけの豪胆さを
持ち合わせておらず、おとなしく助手席で肩身を狭めるばかりだった
それを横目に見て、わずかに気の治まった渋谷の唇が引き結ばれる
渋谷大
久留間悟
渋谷大
久留間悟
言葉の意味を理解できず、首を傾ぐ
しかし次の瞬間その言葉がなにを指してのものなのか思い至り
激しくショックを受けた様子で目を見開いた
久留間悟
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
渋谷大
対向車線を通りすぎていくヘッドライトが、渋谷の表情に
より憂いを帯びさせて魅せる
白い髪が光の筋のように煌めくのがやけに艶めいて感じ
久留間が思わず見惚れた瞬間だった
渋谷大
突如、急ブレーキをかける
その衝撃に、久留間は改めて自らの置かれた状況を思い出した
車通りの少ない一方通行道路に入ったばかりだったため
追突被害などは免れたが、この幸運が続くとは考えられない
むしろ離れている時でも自分が渋谷を想うたびに
こんな事態になるのなら、これは考えているよりも
ずっと危険なのではないかと再認識した
久留間悟
血の気が引く思いと共に、謝罪を口にしかけた途端
胸元に白い髪が飛び込む
車内とは言えど道の真ん中、しかも住宅地で
こんな行為に出る渋谷は過去にない
その動揺と困惑で、落ち着きに努めるべきはずの久留間は
よりドキドキと心臓を高鳴らせてしまっていた
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
しがみついてくる指が強く、呼吸はさらに荒い
明らかに異常事態を知らせる症状に、久留間の背中を冷たいものが駆けた
が。
渋谷大
渋谷大
泣きそうな声で呟かれた声に、息をのむ
正気に戻った気分で渋谷を見下ろすと、額に脂汗を浮かべた強気な瞳は
もう何事もなかったかのように久留間の胸を押した
渋谷大
渋谷大
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
人差し指が鼻先に突きつけられ、青い瞳が睨みつける
渋谷大
渋谷大
渋谷大
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
音を立てて車のドアを閉めると、運転席からひらりと
手を振った渋谷がそのまま走り去る
それを呆けた表情で見送って帰宅した久留間は
やがて渋谷の帰宅連絡を受けると同時に
これまでにない態度の渋谷を思い返し、愛しさを溢れさせざるを得なかった
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