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死神
目の前に立つ3人の男たちに向かい、死神は低い声で口を開いた。
高梨悦夫
死神
死神
仲村武史
背広姿のいかにもインテリ系な男、仲村が笑いながら遮った。
仲村武史
仲村武史
死神
仲村武史
仲村武史
死神
死神
死神
矢崎勉
仲村と同じく、つまらない冗談に嫌悪感を抱く矢崎も口を開いた。
高梨悦夫
高梨悦夫
唯一、死神の話を静かに聞いていた高梨が周囲を見回し、2人も釣られて見た。
何処かの荒野みたいな場所。
青黒い霧が辺りを覆い、廃墟の残骸らしきゴツゴツとした岩や壁があちこちにある。
まるで映画の撮影に用意された巨大なセットのようにも見えるが、
胸に手を当てた高梨は、異様な現状に佇む自分が不気味な死神のいう通り、
既に屍であると悟った。
高梨悦夫
仲村武史
仲村武史
矢崎勉
死神
死神
死神
仲村武史
既に自分が死んでいると信じ込んだ仲村が大きな声を出した。
死神
死神
高梨悦夫
矢崎勉
死神
死神
仲村武史
死神はおもむろに懐から缶を取り出した。
死神
死神
死神
死神の口から予想もしない遊戯の名前が飛び出た為、しばし3人は呆気に取られた。
仲村武史
仲村武史
高梨悦夫
死神
死神
死神
しゃれこうべの死神の口角が、カタカタ音を立てて上がるのが見えた。
仲村武史
仲村武史
矢崎勉
高梨悦夫
死神によりルールが説明された。
死神
死神
死神
高梨悦夫
死神
仲村武史
死神
死神
死神
高梨悦夫
高梨悦夫
死神
死神
死神
死神
死神
死神の指示に従い、高梨は用意された缶へと配置に就いた。
仲村と矢崎は青黒い霧の闇へと消えた。
高梨はようやく、廃墟の残骸の如くあちこちに聳える壁と岩の意味を察した。
隠れ場所。
地面の血だまりのサークルを中心に置かれた缶に高梨は足を乗せたが、
足裏に妙な感触を感じて見下ろした。
高梨悦夫
空き缶の中には大量のウジ虫に混じって血で真っ赤な人間の指と眼球が入っていた。
高梨は後退りすると死神に向き直った。
高梨悦夫
死神
死神
高梨悦夫
高梨は死神としばし睨み合ったが、すぐ気を取り直しゲームを開始した。
従来のルールに則って、高梨は徐々に血だまりから歩き始めた。
仲村か矢崎のどちらかを見付け、名前を呼び缶まで戻れば勝利だ。
無事、自分が缶を蹴る立場に回れる。
が、もし2人を見付ける前に缶を蹴られてしまえば終わりだ。
あの缶に詰まった無数のウジ虫と人体の一部が外に飛び散った瞬間、
高梨の敗北となる。
高梨は背後の缶に注意しつつ、忍び足で隠れ場所となり得る場所へと歩を進めた。
高梨悦夫
不意に感じる背後からの気配。
やたらと気配に敏感な自分に高梨はふと疑問を抱いた。
高梨悦夫
生前の自分と関係があるのだろうか?
そもそも俺たちはなにをしに行く途中で事故に遭ってしまったのだ?
気配の「気」が「確信」に変わったとき、高梨は踵を返し、
反対の岩影まで足音を立てず近付いた。
自分でも不思議なほど無駄のない静かな足取りだった。
高梨悦夫
高梨悦夫
岩影に潜む矢崎を見付け、高梨は一目散に缶めがけて突っ走った。
発見された矢崎は舌打ちしつつ、ルール通り缶のそばで待機した。
残るは仲村武史。
仲村……口は達者で調子はいいが仕事で失敗が目立つ役立たず。
高梨悦夫
頭の片隅からチラチラと覗いてくる得体の知れない言葉に戸惑いながらも、
高梨は仲村を探し始めた。
生前の自分に備わっていた能力が影響しているのだろうか。
でなければ、矢崎と同じく息を殺して壁に身を潜めていた仲村も、
すんなり発見することはできなかったはずだ。
高梨悦夫
高梨の勝利が決まり、仲村が鬼となる。
仲村は強気に臨んだが、いざゲームが始まると自分の生死に関わるからか、
中々その場から動けずにいた。
死神に促され、仲村は渋々血のサークルから離れ始めた。
仲村が矢崎を発見するまでにはかなりの時間を要した。
通常、缶けりは隠れた人間が見付からず、飽きが生じた頃に自然と終わる。
が、死神主催の缶けりは違う。
勝利者が決まるまでは永遠に続く。
二度も発見された矢崎は悔しげにそばの岩を蹴ってからサークルに戻った。
仲村は最後の1人を探しにかかったが、その顔が緊張で強張っている。
不意に、かすかな記憶が甦り高梨の口角が小さく上がった。
高梨悦夫
壁の一部が崩れ、大きな音を立てた。
仲村が一目散に駆け付け、
仲村武史
高梨は呆気なく発見され、ゲームは仲村の勝利となった。
次の鬼、矢崎は終始冷静を貫いていた。
ゲームが開始されるや否や、ストレッチまで始める始末だ。
おまけに缶の中のモノを覗いてはおどけて驚いたり笑ったりしている。
何事にも動じないその性格を見込んで仕事に引き入れたが、高梨には不愉快だった。
「過度な余裕がやがて仕事でミスを起こす」
高梨は息を殺し、悠々とサークルを回ってから適当に動く矢崎を見た。
そして、矢崎が仲村の隠れる岩の群れに(まるで散歩のような足取りで)近付いたとき…。
カーーーンッ
ハッと矢崎が振り返ると、高梨が佇んでいた。
高梨は無表情だった。
さっきまでの余裕が一瞬にして吹き飛び、矢崎は呆然となった。
床に散らばった無数の目玉がまるで敗北した自分を嘲笑うような視線を向けている。
死神
呆然としたままの矢崎に、死神はいつの間にか取り出した鎌を振り下ろした。
矢崎は悲鳴とともに、体が腐敗しやがてボロボロになって消えた。
死神
死神
死神はゲームを楽しむ子どものように言った。
鬼役はローテーションされ、あの世の住民となった矢崎のバトンタッチは高梨だ。
高梨は缶の上に足を乗せた。
ふと、空き缶の中に詰まったモノたちが哀れな存在に見えてきた。
今は単なる指となり、目玉となった悲痛な人間の叫びが高梨の耳に響く。
しかし、高梨はそれを聞き流すと、ゆっくりとサークルから離れた。
仲村のパターンは読めている。
冷静、冷徹、慎重派、博識。
矢崎とは比べ物にならないが、仲村には矢崎にあるものがない。
高梨悦夫
パラパラ…
欠片が落ちるような音がし、高梨はゆっくりと音のした方向に体を向けた。
高梨はゆっくりとした足取りで近付く。
わざと足音を消さず近付いた廃墟の壁から、突然仲村が飛び出した。
手に持っていた大きな石を高梨の頭に振り下ろすが、間一髪避けた。
仲村武史
仲村武史
仲村は石を持つ手と声を震わせながら、辛うじて聞き取れる声量で言った。
対峙する高梨は無表情だが、臨戦態勢を整えている。
高梨悦夫
仲村武史
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
突然、仲村が奇声を上げて石を手に突進して来た。
高梨にとって、今の相手は先行きを考えない猪突猛進な獣と同じだった。
仲村の腹に猛烈な蹴りを入れた。
「死んだ体なのになぜ痛覚はそのままなのだろう」と、
冷静さを失った今の仲村には考えることすらできなかった。
呻き声を漏らしくずおれる仲村の手から石を奪い取った。
相手の片腕を伸ばし、その石を肘関節めがけて上から振り下ろした。
バキッという音とともに、仲村の左腕はあらぬ方向のV字型に曲がった。
仲村の悲鳴はもはや聞くに堪えられない醜い獣の咆哮だった。
死神
悶える仲村を引きずりながら、高梨は死神のそばまで歩いた。
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
死神
高梨悦夫
死神は愉快そうに口をカタカタ鳴らしながら笑い声を上げた。
高梨悦夫
高梨悦夫
死神
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
死神
高梨悦夫
高梨が地面で悶える仲村を見下ろした。
死神
仲村武史
仲村武史
死神
死神
死神
死神は巨大な鎌を仲村の胸に突き刺した。
仲村の声が途切れ、やがてチリチリと灰のように彼の体は跡形もなく消え去った。
死神
高梨悦夫
死神
死神
死神
死神
死神
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
死神
死神はなにやら意味の理解できない言葉を唱え始めたが、
不思議な浮遊感に包まれ意識を失った高梨は最後まで聞き取れなかった。
高梨が目を覚ますと、白い壁が目の前にあった。
それがすぐ真っ白な天井だと理解した。
回りでは白衣に身を包んだ男と女たちがせわしなく動いている。
どうやら事故を発見した通報者が連絡を入れ、病院に搬送されたらしい。
医師
医師の顔がぬっと目の前に現れた。
高梨悦夫
医師
医師
医師
高梨悦夫
高梨悦夫
医師
医師
医師の言葉はここで途切れた。
異変に気付いた周囲の人間が目にしたのは、
医師の首に深々と突き刺さったメスと、泡のように溢れる血だった。
医師が悲鳴を上げることなく倒れると、高梨はおもむろに身を起こした。
立ち向かった勇敢な若い医師が行く手を阻んだが、それが過ちだった。
事故に遭った体とは思えないほど俊敏な動きを繰り出した高梨に翻弄され、
若い医師は壁に頭を激突され、首の骨を折ってしまった。
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨悦夫
高梨は事故の出血で赤く染まった服を掴み、手術室から出て行った。
仕事だ、まだ仕事が残っている。
その仕事でまた沢山の缶を蹴ることになるだろう。
闇の中で俺の秘書が高らかな笑い声を上げたような気がした。
2019.11.29 作