テラーノベル
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冷え切った冬の朝だった。吐息が白く濁るほど、ソ連の屋敷は凍てついていた。 「もう、行かなくてはなりません」 日本は、震える手でソ連の分厚いコートの裾を握りしめ、努めて冷静にそう告げた。彼女の身長は163センチ。196センチという圧倒的な体躯を持つソ連の前に立つと、まるで巨大な壁に包囲されているかのような圧迫感を覚える。 ソ連の表情は、氷のように無機質だった。しかし、その双眸だけは、獲物を逃すまいとする獣のそれだ。彼は音もなく一歩踏み出し、日本の逃げ道を完全に塞いだ。 「行かなくては、と? 誰が決めたんだ」 低い声が鼓膜を震わせる。ソ連の太く、節くれだった指が日本の顎を掴み、強制的に見上げさせた。その指先には、独占欲という名の湿り気がまとわりついている。 「そんなに焦らなくてもいいだろう。君の望むものは何でも用意した。暖かな部屋も、美しい着物も、美味しい食事も。……それとも、僕の愛が足りないというのか?」 日本は胃の腑がせり上がるような恐怖を感じながら、必死に微笑んだ。彼女の敬語は、彼に対する敬意からではなく、自分を守るための唯一の鎧だった。 「……皆様が待っているのです。私の故郷が。……どうか、これ以上私を閉じ込めるのはやめてください」 「故郷?」 ソ連は嘲笑するように鼻を鳴らすと、日本の腰を引き寄せ、逃げ場を奪った。彼はポケットから小さなガラス瓶を取り出す。中には、少し濁った液体が入っていた。 「外の世界なんて、君を傷つけるだけだ。汚れに満ちた場所だ。……僕が君を、もっと綺麗で、純粋な場所へ連れて行ってあげる。この薬を飲めば、もう外のことなんて考えなくて済むよ。僕の言葉だけで、世界が満たされるようになる」 「っ、やめて……! そんなもの、飲ませないでください……!」 日本は必死に首を振ったが、ソ連の力には抗えない。彼は日本を押し倒し、その細い手首を革のベルトでベッドのヘッドボードに縛り付けた。カチャリ、と無機質な音が寝室に響く。 「嫌がるのか? 僕を拒絶するのか?」 ソ連の瞳に、歪んだ情愛が渦巻く。彼はベッドに乗り上げ、日本の身体を覆い隠すようにして、その耳元で甘く、粘着質に囁いた。 「君が悪いんだよ、日本。どうして僕を置いていこうなんて思った。君が僕を愛さないなら、君の自由なんて必要ないだろう。……君を殺して、どこにも行けないように標本にしてしまいたい衝動を、どれだけ必死に抑えていると思っている?」 日本は涙をこぼしながら、かすれた声で叫んだ。 「貴方は……狂っています!」 「ああ、そうさ。君のせいでね」 ソ連は壊れ物を扱うように、しかし逃がす気は一切ない力加減で、日本の頬を撫でた。そして、あらかじめ準備していた薬を、強引に彼女の口へと流し込む。苦い液体が喉を通り過ぎた瞬間、日本の意識は急激に濁り始めた。 思考が溶けていく。名前も、故郷も、帰りたいという意志さえも、ソ連という巨大な影に塗りつぶされていく。 「……いい子だ。やっと静かになったね」 ソ連は満足げに目を細め、意識が混濁し、虚ろな瞳で自分を見つめる日本を抱きしめた。その抱擁は、死の接吻のように深く、終わりなき束縛の始まりだった。 「どこへも行かせないよ。君は僕だけのものだ。永遠に、この部屋で、僕の愛を吸って生きていくんだ」 冬の冷気の中で、二人の影は重なり合い、闇に溶けていった。外の世界がどれだけ回ろうとも、この閉ざされた空間において、日本はソ連の「所有物」として刻印されたのだった。