香
でも、そんな事あり得るかな

塔子
例えば図書室に水なんかが持ち込まれる様な事はないかな? 掃除の時とかはどう?

香
水拭きする時にバケツを入れるっていうことはあったと想うけど。
書庫の掃除をした時も持ち込んだよ。

塔子
それも件のあまね先輩とだよね

香
うん……そうだったけど

塔子
で、その時盛大にすっころんだんでしょ

香
も、もう。それを言わないでよ。恥ずかしい

塔子
まあまあ、そう言わないでさ。でもさ、そもそも、何ですっころんだんだっけ?

香
それは、だから。あまね先輩が脚立に乗ってて、それがガタガタ揺れてたから、あせっちゃったんだよ

塔子
それだけ? ただ駆け寄ろうとしただけじゃそんなにはならないんじゃない?

香
え? それだけって?

塔子
下が濡れてたんじゃないの? だから滑ったんでしょ?

香
ああ、そうそう。水拭きしてたのがまだ乾いてなかったんだよね

塔子
うん、香の方はそうだったんだよね。じゃあ、先輩が脚立を揺らしてしまったのは何でだと想う?

香
いや、それは……私がちゃんと抑えてなかったからかもしれないけど

塔子
そういう事じゃなくってさ。結構上の方で作業してたってことでしょ

香
ああ、そうだったと想うよ。でも、それがどうかしたの?

塔子
ちょっと想像してみたんだけどね、グラついた状態になったのは棚の中を拭いている時じゃないと想うの。
だってさ棚の中を拭いている時って言うのは棚に重心がかかってるって事でしょ

香
ええと。ああ、そういう事になるのかな

ちょっとわかりにくいけど言いたいことは分かる。
雑巾を掛ける時は棚に顔をつっこむような形で作業をするので
グラついたりする可能性は少ないということだろう。
塔子
じゃあ、更に聞くけど、その棚には本が入ってたのかな

香
えっと……。上の方はあんまり入ってなかったと想う。あったとしても二、三冊かな

本がぎっしり詰まっている棚は一度本を別な場所に移して作業するのだが、少ない場合は一々そんな事はせずに本を少し移して雑巾で拭いていたと想う。
塔子
なら、脚立がぐらついたのはその時じゃない? 中にある本を手にとって別な場所に移そうとした時

香
ああ、確かにその状態なら重心を崩すこともあるかもしれないね。でも、ねえトーコ。何が言いたい訳? それって本の入れ替えと関係あるの?

塔子
下の床は濡れてたんだよね

香
うん……。え? ひょっとしたら、その本を下に落として汚したっていいたいの? でも、濡れた床に落としたくらいじゃ交換するほど汚れないと想うけど

塔子
いや、そんな話をしたいんじゃないよ。私が言いたいのはその後、あんた、すっころんでどうなったんだっけ?

香
いや、だから言わなかったっけ? 尻もちをついて露わな姿を見せちゃったんだって

塔子
それだけ?

香
それだけって……あ、後。靴もすっとんでっちゃったって……もう、更に恥ずかしい事思い出させないでよ

塔子
その靴ってどこへいったかは確認した?

香
いや……。それどころじゃなかったし。後で先輩が持ってきてくれ……

塔子
仮に先ほどの想像が正しいとするよ。先輩は手に本を持っていた。脚立はぐらついた状態でね。慌てていたからちゃんともててなかったかもしれない
例えば、指がページの中に入ってしまって本が開いた状態になってしまった、なんてことは考えられないかな。

本はそのまま下に落ちる。そんな状態であればぐしゃぐしゃになりページの中身はぐっしょりと濡れて靴跡も付いて……
香
えっと……。じゃあ、つまり

塔子
うん、単刀直入に言うよ。本を汚した犯人。そして先輩が庇っていたのは、香。あんた自身だったって事じゃない?
