TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
ノーム

一覧ページ

「ノーム」のメインビジュアル

ノーム

1 - ノーム

♥

220

2020年03月14日

シェアするシェアする
報告する

沙希

ねぇ、パパ

岩村伸之

どうした?

沙希

あれ、なあに?

娘の沙希が指差す先に、岩村は視線を向けた。

岩村一家は、主の岩村伸之の仕事上の都合により、転居することになった。

その引っ越し先での作業が一段落したときのことだった。

新たな転居先にはウッドデッキと、それなりに広い庭がある。

沙希は、その庭にポツンと置かれた陶器のノームを示していた。

岩村伸之

あれはガーデン・ノームっていうんだよ

岩村が優しい口調で教えるが、沙希は首を傾げる。

沙希

ノームって?

靖子

外国に出てくる妖精のことよ

輪に入ってきた妻の靖子がそう教えた。

靖子

ガーデン・ノームと言うのは

靖子

色んな家の庭にいる妖精のことなのよ

沙希

へぇ~

沙希は関心があるのかないのか分からない声を出した。

その日の夜。

転居先での初めての夕食後のことだった。

受験勉強の為、部屋へ戻った和也の大声が聞こえた。

岩村が駆け付けると、和也は露骨にむくれた顔をしながら、

和也

なんであんなのが俺の部屋にあるんだよっ

と、父親に向かって声を張り上げた。

岩村が部屋を覗くと、勉強机の上にその場に相応しくない物があった。

昼間、庭で沙希が興味を引いたガーデン・ノームだった。

和也

あっ、もしかして沙希、お前か?

ひょっこり現れた妹に向かって和也が問い詰めた。

沙希

あたし、知らないもん

和也

俺が受験で大変なのは親父も母さんも知ってるから

和也

こんなふざけたイタズラをするわけがないだろ

和也

てことは、沙希しかいないじゃないか

沙希

あたしじゃないってば!

靖子

こらこら、止めなさい

岩村伸之

これって、庭にあったノームだよな?

後ろから覗き込んだ靖子はまじまじと見つめ、「確かに」と言った。

岩村伸之

どうして和也の部屋に移動してるんだ?

和也

当然、俺は知らないよ

沙希

あっ、分かった!

沙希

きっとお兄ちゃんの出来が悪いのを心配したから

沙希

妖精さんが見守ることにしたんだ

また喧嘩が勃発する…と、岩村はドキドキした。

が、和也も自覚があるらしく、急におどけるようにコケる真似をした。

兄妹喧嘩は杞憂で終わったが、ノームの謎は結局解けなかった。

ノームを元の庭へと戻し、和也は受験に専念した。

その次の日の深夜。

岩村は休日前に大好きな映画を観て、一服してから寝ることにしている。

その日も映画を観、煙草を吸うためウッドデッキへ出ようとカーテンを開けた。

岩村伸之

月夜に照らされたガーデン・ノームが、ウッドデッキに佇んでいた。

それも、掃き出し窓に顔を押し付けるような形で…。

岩村はドキッとし、思わず後退りした。

昨日の一件もあって夕食後に岩村が確認したときは、確かに庭に置かれていた。

まず誰かが手にして動かすとは考えられない。

冷や汗が流れたが、岩村は冷静に窓を開け、ノームを持って元の位置に戻した。

翌日、岩村は昔に知り合った霊能者の鶴見時夫を住居に招いた。

岩村伸之

ご無沙汰だね

鶴見時夫

岩村さんもお元気そうでなによりです

鶴見時夫

奥さんとお子さんたちは?

岩村伸之

和也は受験勉強をしに図書館に行って、妻は沙希と外出中だよ

岩村伸之

家族揃ってがいいと思ったんだけど

岩村伸之

息子は今が大事な時だから余計な心配を掛けたくなくてね

鶴見時夫

でしょうね

鶴見時夫

鶴見時夫

で、問題の置物というのは?

岩村伸之

案内するよ

岩村は玄関から家の裏へ回り、鶴見を庭へと誘導した。

岩村伸之

これなんだけど…

鶴見がポツンと佇むノームを見下ろした。

鶴見時夫

ガーデン・ノームですね

鶴見時夫

これが岩村さんの言っていた悩みの種ですか?

岩村伸之

普段はこの場所に置いてあるのに

岩村伸之

一昨日は息子の部屋にあって

岩村伸之

昨日は何故かウッドデッキに立っていた

岩村伸之

なんか気味悪くってね…

鶴見は慎重な手付きでノームの置物を持ち上げた。

一応、陶器で出来ているので割らないように気を付けなければならない。

鶴見とノームの目と目が合う。

鶴見は数秒、じっくりノームと目を合わせてから、ゆっくりと地面に置いた。

鶴見時夫

鶴見時夫

特にこれといって妙な気配は感じられませんね

岩村伸之

本当に?

疑う岩村に、鶴見は冷静に頷いて見せた。

岩村伸之

もっとよく見てほしいんだけど

鶴見時夫

なんの変哲もないただのノームですよ(笑)

岩村伸之

じゃあどうやって、勝手に移動したんだと思う?

鶴見時夫

そこはなんとも…

鶴見時夫

意地の悪いことを言うつもりはありませんが

鶴見時夫

お子さんのイタズラの可能性は?

岩村伸之

まさか

岩村伸之

息子は受験で必死だし沙希は…

鶴見時夫

どうしました?

岩村伸之

そういえば、あんな非現実的なことが起きたのに

岩村伸之

沙希だけこいつを怖がってる様子じゃなかったな…

鶴見時夫

となると、娘さんが触ったかもしれないわけですな

岩村伸之

でも、なんでそんな怖がらせるようなことを沙希がするんだ?

鶴見時夫

さあ、そこまでは…

今度は鶴見が困ったように髪を掻いた。

このときばかりの鶴見は頼りない霊能者にしか見えなかった。

岩村伸之

(本当に沙希のイタズラなんだろうか?)

ところが、その日の夜。

また庭のノームが姿を消した。

岩村と靖子が徹底的に家の中を探したが見付からない。

岩村伸之

もしかして…

岩村は沙希の部屋へと向かった。

岩村伸之

沙希は寝息を立ててぐっすり眠っていた。

感情の欠片も感じられない表情のノームを横に置いて…。

岩村はそっとノームを持ち上げると、ゆっくりと部屋を出た。

冷たい感触に岩村は背筋がゾワッとした。

妻の靖子が驚愕しながらノームを見つめた。

岩村はただ「しーっ」と指を口に当て、ノームを抱えながら庭へ向かった。

少し考えてから、岩村は意を決して家から金槌を持ち出すと、

なるべく音を立てずガーデン・ノームを叩き壊した。

わずかに原型を留める頭部以外が完全に粉々になった。

ふと、視線を感じて振り返ると、沙希がウッドデッキから見ていた。

沙希

…パパ、妖精殺しちゃったの?

岩村はそれには答えず、沙希にノームを持ち運んだのかを聞いた。

沙希は「運んでいない」とだけ言った。

岩村は溜め息を吐いて一言言った。

岩村伸之

もう寝なさい

翌日、岩村は自宅から少し離れた喫茶店へ向かった。

霊能者の鶴見が、どうしても話したいことがあるからと呼び出したのだ。

鶴見は既におり、岩村は彼の前へ座り、コーヒーを頼んだ。

岩村伸之

僕になにか話があるらしいね

鶴見時夫

例のノームのことで私なりに色々と調べてみました

岩村伸之

原因が分かったの?

鶴見時夫

これから説明します

鶴見は1冊の本を取り出し、あるページを開いて机の上に置いた。

鶴見時夫

これは外国で出版され日本語に翻訳された本なんですが

鶴見時夫

外国の様々な妖精について詳しく書かれてあります

岩村伸之

みたいだね

鶴見時夫

で、ノームについてですが

鶴見時夫

ノームは大地を司る精霊と言われています

鶴見時夫

四大精霊の火、風、水、地のうちの地を司る

鶴見時夫

見た目は立派な白い髭を生やした小人なんですが――

岩村伸之

鶴見くん、僕は精霊の勉強をするつもりで来たんじゃないんだ

岩村伸之

悪いけど要点だけを踏まえて話してくれないかい?

鶴見時夫

そうでしたね、すみません

鶴見時夫

精霊でもあるノームの形を模したガーデン・ノームですが

鶴見時夫

どうして庭にそれが置かれてあるかご存知ですか?

岩村伸之

まあ…少しでも庭の雰囲気を変えるため、かな?

鶴見時夫

それもあるでしょうが

鶴見時夫

ガーデン・ノームは「庭の守り神」とも言われているんです

鶴見時夫

ガーデン・ノームを庭に置くと植物が元気に育つとも言われていますが

鶴見時夫

それ以外に、悪魔を近寄らせない力も宿していると外国では信じられています

岩村伸之

守護霊みたいな存在ってことだね

鶴見時夫

それで、自分なりにある仮説を立ててみたのですが

鶴見時夫

あのノームは、家に蔓延る悪い精霊から皆さんを守るために

鶴見時夫

夜な夜な徘徊しているのではないでしょうか?

岩村伸之

そんなバカな(笑)

岩村はおかしそうに笑ったが、鶴見のキッとした目で居竦まった。

岩村伸之

岩村伸之

本当に…?

鶴見時夫

自分は冗談で言っているのではありません

鶴見時夫

岩村さんの自宅は悪い精霊の力をノームが抑制していることで

鶴見時夫

平穏無事に過ごせているんだと思います

岩村伸之

それじゃあ、もしも…もしもだけど

岩村伸之

僕があのノームを気味悪がって捨てるなり壊すなりしたら?

鶴見時夫

それだけは決してしないで下さい

鶴見時夫

そうなればノームという守り神がいなくなり

鶴見時夫

それこそ悪い精霊は岩村さんたちに危害を加える危険があります

鶴見の表情は至極真剣だった。

まともな大人なら鶴見の言葉を一笑に付すところだが、

彼の顔を見る限りどうやら笑い事では済ませられないらしい。

自然と岩村の表情が強張ると、鶴見もそれを察した。

鶴見時夫

岩村さん、まさか…

そのとき、突然外が騒がしくなった。

数台の消防車がけたたましいサイレンを響かせながら、

喫茶店の横を通り過ぎて行った。

岩村は嫌な予感がし、鶴見と一緒に喫茶店を飛び出した。

岩村と鶴見が見た光景は沢山の野次馬と消火活動を行う消防隊員、

そして、もうもうと燃え上がる岩村家の転居先だった。

黒煙が、雲一つない空を覆うように高く上がっていく。

靖子と子どもたちの身を案じた岩村が飛び込むのを消防隊員が制止する。

その妻と子どもたちは、1台の消防車の傍で待機していた。

3人共、軽い火傷だけで済んだらしい。

靖子

突然、火の手が部屋中に広がってきて

靖子

もうダメかと思ったんだけど…神様に感謝しなきゃね

ホッと胸を撫で下ろす岩村だったが、沙希が腕に抱く物を見て驚愕した。

昨夜、自分が壊したノームの頭部だからだ。

岩村伸之

沙希、それは?

沙希

パパが壊した妖精の頭だよ

沙希

私、可哀想だったから頭だけでも大事に持ってたの

沙希はそう言いながら、ノームの頭を抱く腕にギュッと力を入れた。

岩村伸之

岩村伸之

(もしかして家族が助かったのは…)

岩村は後ろにいた鶴見を見た。

鶴見も察したらしく、沈痛な面持ちで頷いた。

その後、出火原因について徹底的な調査が行われたが、

結局、火の元が判明することはなかった。

2020.03.14 作

この作品はいかがでしたか?

220

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚