沙希
岩村伸之
沙希
娘の沙希が指差す先に、岩村は視線を向けた。
岩村一家は、主の岩村伸之の仕事上の都合により、転居することになった。
その引っ越し先での作業が一段落したときのことだった。
新たな転居先にはウッドデッキと、それなりに広い庭がある。
沙希は、その庭にポツンと置かれた陶器のノームを示していた。
岩村伸之
岩村が優しい口調で教えるが、沙希は首を傾げる。
沙希
靖子
輪に入ってきた妻の靖子がそう教えた。
靖子
靖子
沙希
沙希は関心があるのかないのか分からない声を出した。
その日の夜。
転居先での初めての夕食後のことだった。
受験勉強の為、部屋へ戻った和也の大声が聞こえた。
岩村が駆け付けると、和也は露骨にむくれた顔をしながら、
和也
と、父親に向かって声を張り上げた。
岩村が部屋を覗くと、勉強机の上にその場に相応しくない物があった。
昼間、庭で沙希が興味を引いたガーデン・ノームだった。
和也
ひょっこり現れた妹に向かって和也が問い詰めた。
沙希
和也
和也
和也
沙希
靖子
岩村伸之
後ろから覗き込んだ靖子はまじまじと見つめ、「確かに」と言った。
岩村伸之
和也
沙希
沙希
沙希
また喧嘩が勃発する…と、岩村はドキドキした。
が、和也も自覚があるらしく、急におどけるようにコケる真似をした。
兄妹喧嘩は杞憂で終わったが、ノームの謎は結局解けなかった。
ノームを元の庭へと戻し、和也は受験に専念した。
その次の日の深夜。
岩村は休日前に大好きな映画を観て、一服してから寝ることにしている。
その日も映画を観、煙草を吸うためウッドデッキへ出ようとカーテンを開けた。
岩村伸之
月夜に照らされたガーデン・ノームが、ウッドデッキに佇んでいた。
それも、掃き出し窓に顔を押し付けるような形で…。
岩村はドキッとし、思わず後退りした。
昨日の一件もあって夕食後に岩村が確認したときは、確かに庭に置かれていた。
まず誰かが手にして動かすとは考えられない。
冷や汗が流れたが、岩村は冷静に窓を開け、ノームを持って元の位置に戻した。
翌日、岩村は昔に知り合った霊能者の鶴見時夫を住居に招いた。
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村は玄関から家の裏へ回り、鶴見を庭へと誘導した。
岩村伸之
鶴見がポツンと佇むノームを見下ろした。
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
岩村伸之
岩村伸之
鶴見は慎重な手付きでノームの置物を持ち上げた。
一応、陶器で出来ているので割らないように気を付けなければならない。
鶴見とノームの目と目が合う。
鶴見は数秒、じっくりノームと目を合わせてから、ゆっくりと地面に置いた。
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
疑う岩村に、鶴見は冷静に頷いて見せた。
岩村伸之
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
今度は鶴見が困ったように髪を掻いた。
このときばかりの鶴見は頼りない霊能者にしか見えなかった。
岩村伸之
ところが、その日の夜。
また庭のノームが姿を消した。
岩村と靖子が徹底的に家の中を探したが見付からない。
岩村伸之
岩村は沙希の部屋へと向かった。
岩村伸之
沙希は寝息を立ててぐっすり眠っていた。
感情の欠片も感じられない表情のノームを横に置いて…。
岩村はそっとノームを持ち上げると、ゆっくりと部屋を出た。
冷たい感触に岩村は背筋がゾワッとした。
妻の靖子が驚愕しながらノームを見つめた。
岩村はただ「しーっ」と指を口に当て、ノームを抱えながら庭へ向かった。
少し考えてから、岩村は意を決して家から金槌を持ち出すと、
なるべく音を立てずガーデン・ノームを叩き壊した。
わずかに原型を留める頭部以外が完全に粉々になった。
ふと、視線を感じて振り返ると、沙希がウッドデッキから見ていた。
沙希
岩村はそれには答えず、沙希にノームを持ち運んだのかを聞いた。
沙希は「運んでいない」とだけ言った。
岩村は溜め息を吐いて一言言った。
岩村伸之
翌日、岩村は自宅から少し離れた喫茶店へ向かった。
霊能者の鶴見が、どうしても話したいことがあるからと呼び出したのだ。
鶴見は既におり、岩村は彼の前へ座り、コーヒーを頼んだ。
岩村伸之
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見は1冊の本を取り出し、あるページを開いて机の上に置いた。
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村はおかしそうに笑ったが、鶴見のキッとした目で居竦まった。
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
岩村伸之
岩村伸之
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見時夫
鶴見の表情は至極真剣だった。
まともな大人なら鶴見の言葉を一笑に付すところだが、
彼の顔を見る限りどうやら笑い事では済ませられないらしい。
自然と岩村の表情が強張ると、鶴見もそれを察した。
鶴見時夫
そのとき、突然外が騒がしくなった。
数台の消防車がけたたましいサイレンを響かせながら、
喫茶店の横を通り過ぎて行った。
岩村は嫌な予感がし、鶴見と一緒に喫茶店を飛び出した。
岩村と鶴見が見た光景は沢山の野次馬と消火活動を行う消防隊員、
そして、もうもうと燃え上がる岩村家の転居先だった。
黒煙が、雲一つない空を覆うように高く上がっていく。
靖子と子どもたちの身を案じた岩村が飛び込むのを消防隊員が制止する。
その妻と子どもたちは、1台の消防車の傍で待機していた。
3人共、軽い火傷だけで済んだらしい。
靖子
靖子
ホッと胸を撫で下ろす岩村だったが、沙希が腕に抱く物を見て驚愕した。
昨夜、自分が壊したノームの頭部だからだ。
岩村伸之
沙希
沙希
沙希はそう言いながら、ノームの頭を抱く腕にギュッと力を入れた。
岩村伸之
岩村伸之
岩村は後ろにいた鶴見を見た。
鶴見も察したらしく、沈痛な面持ちで頷いた。
その後、出火原因について徹底的な調査が行われたが、
結局、火の元が判明することはなかった。
2020.03.14 作
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