テラーノベル
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学校を出てから、フラフラと何気なく歩き、行き着いた先は、 離れにあった公園だった。
目に付いた木製で出来たベンチに腰をかけ、頭上で涼し気な影を作る程葉が生い茂るアーチを眺めた。
蘇枋
思わず、深いため息を着いてしまう。 正直、自分でも自分の事が分からなくなりつつあった。 桜とどんな関係でいたいのかも、 考えれば考えるほどか分からなくなった。
棪堂
公園の入口付近から何やら少し低い声が聞こえ、蘇枋は思わずそちらへ視線を向けた。
男は、短い黒髪が全体的にうねっている様な髪型に、何かを隠したいのか全身長袖長ズボンと、暑苦しい格好をしていた。 そして何より、その存在に気づいた瞬間、蘇枋は思わず、顔を顰め、心の内で舌打ちをした。
棪堂
こんなに特徴的なのだから、 人目見たら印象に残りそうなものなのだが。いや、こんな奴に認知されてると思うだけで嫌気がさす。 蘇枋は近ずいて来る棪堂を、じっと見つめ方を落とした。
棪堂
蘇枋
絶対零度。本当にそう思わせるほど、冷たい視線のまま蘇枋は棪堂へ問いかけた。
棪堂
棪堂
棪堂
怪しくない云々に、まずまずこの男は存在自体が怪しいのだ。風鈴にあんな大勝負をしかけ、挙句の果てには桜を連れ去ろうともした。今更改心しました。なんて言われても、そう易々と信頼は出来ないだろう。
それは棪堂もわかっているのか、 1つため息を着いた後、蘇枋の座るベンチの隣にドカりと音を鳴らして座り込んだ。ニヤリと先程まで浮かべていた笑みは、消え去っている。
棪堂
蘇枋
棪堂
棪堂
桜はどれほど棪堂に会っていたのだろうか。干渉も、話を聞いていない自分には分からないが、少なくとも、棪堂が桜の異変に気がつくくらいには、お互い仲を深めているのだろう。
棪堂
棪堂
なにかに気づいた様に、棪堂が不快な笑みをニッコリ浮かべる。
棪堂
棪堂はいきなり確信を着いてきた。こういう妙に勘がいい所も本当にやりにくい。蘇枋に苛立ちが少しずつ募っていく。
蘇枋
棪堂は蘇枋の表情の綻びを、少しも見逃しはしなかった。 棪堂の表情を見て、蘇枋はしまったと思った。何時でも保たれている蘇枋の鉄壁なポーカーフェイスは、深く考え事をしていたせいと、急な棪堂の登場によって少し崩れてしまっていたのだ。
棪堂
棪堂
この人が桜と付き合おうと、俺には何の関係もない。俺は、今の桜にとって、友人かどうかすら怪しい立場なのだから。 俺は桜君を振った。彼の言葉をシャットアウトした。そんな身で、彼の恋愛に瞳孔口を出す資格は無い。
蘇枋
蘇枋
考えていたことと、真逆な言葉が出て、自分でも少し困惑してしまう。そんな困惑をそ取られぬ様、蘇枋は表情を取り繕い、それらしい言い訳をつらつらと並べた。
棪堂
それは本当にご最もだ。 ご勝手にどうぞ。本当はそう言おうとしていたのに、この口は全く別の言葉を喋っていたのだ。
蘇枋
全て言いきってから、棪堂からさっさと離れる様、蘇枋はベンチから腰を上げた。1度も後ろを振り向かず、公園の出口へと歩く途中、不穏な声が聞こえる。
棪堂
アンナの相手にしなくていい。聞いたところでどうせ嘘だろう。蘇枋は少しも振り返ろうとしない。それでも棪堂は言葉を続ける。
棪堂
棪堂
なんだ。この人は何が言いたいんだ。 それがなんだと言うのだ。
棪堂
棪堂
棪堂
なんだろうか。嫌な予感がする。 普段汗をかかない蘇枋の首筋から、 1つの冷や汗がツゥっと流れ出た。
棪堂
棪堂が不穏な笑みを浮かべると共に、タイミングを見計らってた様に、蘇枋のスマホから通知音が鳴った。 震える手でポケットから取りだし、 画面を恐る恐る開く。
メッセージ欄の1番上には、楡井からメッセージが入っていた。 開いた瞬間、蘇枋は、走り出す。 彼の名前が一瞬見えたから。 見間違いだったらそれでいい。 勢いよく走り出す蘇枋に、棪堂は声をかけた。
棪堂
情報はそれだけか。蘇枋は頭をフル回転に動かした。 もし棪堂が話していた連中が、 桜を連れ去っていたとしたなら。 きっと戻る場所はアジトだ。そして海が見える場所、大人数がいる、となると大きめな工場だろう。
蘇枋は行儀が悪いと分かっていながらも、走る足を止めずに、スマホの地図アプリを開いた。きっと工場は今使われていないであろう廃工場だろう。今も使われ動いていたならば、不良のたまり場などになっているはずはない。
これらの条件に、蘇枋は1つ思い当たる場所を見つけた。 そこからのルートを、地図をざっと見て見つけ出し、工場に向かって走る。 見当違いならば、他の場所を当たろう。まず、彼が連れ去られたということすら間違いならばそれでいい。
蘇枋は、走りながら通話ボタンを押した。 もちろんかけた相手は、メッセージ欄の1番上に表示されていた名前の人物。
「す、蘇枋さんっ、今どこにいるんですかっ!?大変です、桜さんが、桜さんがっ…」通話先からは、鼻水を啜る様な音が入る。この様子ならきっと顔はグズグズで、涙も出ているだろう。
蘇枋
楡井を落ち着かせようと務めて優しい声を出す。鼻水をズルズルっと啜ったあと、楡井は詳しく現状について話し始めた。
蘇枋
楡井が言うには、 見回り中に、 悲鳴が聞こえ、まっさきに桜が走っていったそう。楡井は少し遅れてからその場に着いたから、彼らがどんな会話をしたかは知らないが、現状だけを見て、状況を把握したらしい。
人質を取られていたそうだ。 相手は大人数、そして人質の首にはナイフが1つ添えられていた。きらりと光ナイフに、怯えてか、その人質は、涙を浮かべ助けを乞うたそう。桜は難しい顔をして、下手に手を出せないでいた。
楡井が言うには、人質の見た目は自分たちよりも幼い容姿で、コンパクトな黒いカバンを背負っていたらしい。
手を出せない桜は、相手をじっと睨みつけて、なにか要望でもあんのか。と冷静に言い放ったそう。 待ってましたと言わんばかりに、相手の集団は、桜に着いてくる様氏名をした。 そうすれば人質は解放すると。人質の怯えて涙ぐんだ瞳を見たあと、桜はすんなり両手を上げて何もする意思がないとポーズをとった。
楡井がやめてください!と叫んだところで、これ以外に何とかできる方法なんてねぇだろ。という桜の声に、何も言えなくなってしまったそう。 桜は手首を固くロープで引き結ばれ、 大人数の敵襲に囲まれ連れていかれたそう。 楡井達には近ずけば2人の安全は保証できないと言われたそうで、その場から少しも動くことは出来なかったらしい。
なぜ自分はその場にいられなかったのだろうか。彼を助けられなかったのだろうか。 酷い後悔が、走って息切れている蘇枋にのしかかってきた。 楡井におおよその桜がいるであろう目的地を送り、蘇枋は走る足を止めない。 そうだよな、あんなに強い彼が捕まる、なんて、それくらいの理由しか思いつかない。 彼は強いけれど、それ以上に優しいから。
そうして現在、物陰に隠れる様にして蘇枋は慎重に工場の中を探索する。棪堂が言っていることが本当だとすれば、条件が一致する場所はこの場所くらいだ。 この場所は人目が付きにくい。たまり場にするには最高のスポットだろう。 棪堂の言っていることが嘘だとしても、情報という情報は何も無い。これに頼ることしか出来ないのだ。
慎重に、慎重に蘇枋は物音を立てずに歩く。
すると小さく、笑い声、そして生々しい音が聞こえてきた。 その瞬間に、憎悪が湧き上がると同時に、 この場所が当たりだと気づいた。 今ばかりは絶対に感情で動いてはならない。 蘇枋は自分に喝を入れ、声のする方へそっと近ずいた。
姿を視認した時、蘇枋は現実を見たくないほど悲惨な状況をみた。 桜はグッと何かをこらえる様に、殴る、蹴るなどの暴行を静かに受け、彼の過去を抉る様な酷い暴言も吐かれていた。
手も足も固く結ばれ、身動きひとつ取れず、ただ床に丸まって殴られ続けている。
すぐにでもその場を飛び出して助けたかった。それでも蘇枋は自分を律し、まずは状況把握に勤しんだ。
楡井が言うには、人質もここに連れてこられたはずだ。桜1人に注意が言っているこの状況ならば、人質はきっと無事な可能性が高い。果たして自分は、あのちょっとの特徴を聞いて、人質を見つけられるだろうか。 現在この場にいる人数の確認をすることを優先する。そうすれば、どう動けばいいか自ずと考えが浮かんでくるだろうから。
ざっと見たところ、人質らしきものは居なかった。ロープで腕も足も縛られ身動きが取れないでいるのはこの場で桜のみだ。 どこかほかの部屋にいる?だとすれば蘇枋に声が届いているはずだ。ただ大人しく縛られて部屋に閉じ込められているだけではないだろう。
それとも口を塞がれている?いや、言葉にならずとも、微かに音くらいは聞こえるだろう。こんな広い空間では音が反響して聞こえやすいだろうから。 だとすれば他に何か理由があるのだろうか。
脅されていた?桜に何か言われたのか? 今この少しの情報では何も分からない。
そこに蘇枋は見た。小さめなカバンを背負う小柄な青年が、笑いながら桜の動画を撮っているところを。 あぁ、なんて胸糞悪いんだろうか。 きっと彼は、最初から人質なんてものじゃなかった。
いや、人質役、だと言った方がいいのだろうか。彼らは最初からグルだった。 そして、人質役に彼を選んだ理由は、身長が低く、顔が幼めで、自分たちより歳が低いと思わせて、守るべき存在だと認識させること。大人であろうとなんだろうと俺たちは助けたが、更に同情を引くなら子供の方がいいと判断したのだろうか。
見た目は中学生くらいだが、中身はどうだろうか。俺たちと同い年、あるいはもっと上かもしれない。桜は気づいているのだろうか。自分が助けようとした相手に裏切られ、一方的に殴られ、蹴られている状況に。
今こんな状況で、冷静にいられるだろうか。否、怒りで腸が煮えたぎっている。自分自身どうにかなってしまいそうだ。 応援が来るまで状況を詳しく把握して助け出そうと思ったが、そうも出来そうになかった。
中の人数や立ち位置は大体把握した。 相手の強さは分からない。でも棪堂が言うには相当な強さらしい。この人数で、全員が全員同等の強さだとすると、なかなかに厄介だろうか。
「こんっの化け物っ!!」 そう叫び声と共に、振り上げられたガラス瓶を見て、ただ傍観して仲間を待つことだなんてできなかった。
蘇枋
蘇枋の切り裂く様な鋭い声に、 振り上げた手が止まると共に、全員の目線が蘇枋へと注目を集めた。
蘇枋
なんだお前と、ワラワラ人数が集まってくる。応援が来るまで、果たして耐えられるだろうか。いや、今ここででなければ、きっと桜くんの方がもたなかった。これでいい。俺が持ちこたえればいいだけだ。
桜
蘇枋
優しく、甘ったるい表情で桜を見た。 それを見た桜は、一瞬驚いた顔をした後に、瞼を閉じて全てをシャットアウトしてしまった。
蘇枋
鬼がニッコリ微笑んだ。
結果、蘇枋は余裕で応援が来るまで耐えきり、見事、風鈴の勝利と終わった。
楡井
蘇枋
蘇枋
悔しそうに蘇枋は下唇を噛み締めた。
蘇枋
楡井
蘇枋
蘇枋はあまり桜へ近寄らず、手当は他の人や楡井に任せてただその姿を眺めている。 ただでさえ傷で苦しんでいる桜に近ずき、体調も悪化させてしまえば相当苦しむだろうからと。
楡井は桜のされたことを想像してしまったのか、泣きながら手当している。
楡井
楡井
桜
楡井が笑って優しく声をかけた所で、桜が怯えた様に声をはりあげた。 楡井も、あと片付けをしていた風鈴の人間も、びっくりした様にその場に塊動けずにいた。
蘇枋は思い出す、彼が受けた数々の言葉や傷を、きっと記憶が混乱を起こし、 怯えきった顔をしているのだろうか。
蘇枋
桜には近づかず、蘇枋は声だけをかけた。 蘇枋の顔を見た瞬間、桜はものすごい勢いで走り去ってしまう。 あまりに一瞬のことで、全員がぽかんと蓬けた表情をした。
楡井
楡井がびっくりした声を上げたと同時に、止まっていた時が動き出したかの様に動き出した。みんながみんな、急なことに焦りながらどうするどうすると目を見合せている。
なぜ彼は急に逃げ出したのだろうか。 やはり記憶が混乱していた? 時折見える彼の薄暗い過去からして、大人数に囲まれているのは恐怖の対象となっていたのだろうか。
ただ今は、自分がどうすべきか考えなければならなかった。
蘇枋はどうする?
「桜を追う」
「 」
幸せへのコマンドは見つけられましたか? これが全てを左右する選択となります。 幸せのコマンドは、ずっと前から存在しています。 あなたは彼らを幸せへと導けますか?
コメント
8件
今回も素敵なお話ありがとうございます✨ なんとなく最終回が近づいているような気がします😖💦 ついに選択肢が一つに…!? 1話から少しだけ読み直して見たのですが、やはり違和感に気づけませんでした… 最初からってことはやはり一番気になるのは1話のモールス信号みたいなところですかね… いつか明らかになるって言ってましたがまだよくわかってませんし…… まだまだ続きます💦
さぁ、みなさん。謎解きの時間です。 今までの最後の言葉には、とある仕掛けがあり、幸せのコマンドへのヒントが隠されているものがあります。 皆様はそのコマンドを見つけられますか? 選択肢はいつもどうりこのコメントの返信欄に書いておきます🙇🏻♀️ バッドエンドか、ハッピーエンドか、結末は全て皆様次第です。