…体調はもう回復したのか?
ああ…もう問題ない。お前は?
まぁ、それなりだよ。 ……ずっとお前の事が気掛かりだった。
俺はお前の事が気掛かりだ。 …少し痩せたんじゃないか?
そうか? なら今まで以上にモテて困るな。
……そう、だな…。
はっ、そこは否定しろよ。 こちとら浮気する趣味はねーよ。
ついに想いが通じ合ってしまった。
急すぎて思考が追い付かない。イマイチ現実味がなくて夢なのかと疑うが、隣には確かに竜胆がいる。
俺達は蘭の心遣いで先に帰宅することになった。今は竜胆が運転する車で、竜胆の家に向かっている。
竜胆
春千夜
竜胆
春千夜
これから進む未来には、隣にお前がいる──…これ以上何を求める。過去を振り返る必要なんてない。
竜胆
春千夜
竜胆
──…クソッ、こっ恥ずかしい事言いやがって…っ!今までとの差がありすぎてついていけねーわ!
竜胆は車を降りて、ドアを開けてくれた。
竜胆
春千夜
竜胆
薄暗い駐車場の中でも、竜胆の余裕のない表情が解る。それなのに俺の頭を撫でる手は至極優しい。
春千夜
以前蘭が、竜胆は人一倍心を読むのが上手いと言っていた。まさにその通りだと思う。
竜胆は座席の背もたれに手をついて、そっと俺の唇に口付けをした。触れるだけのキスなのに、脳が痺れるほどの甘い感覚が走る。
間近で感じる竜胆の呼吸は、俺を欲して僅かに乱れている。それでもアイツなりのけじめなのか、それ以上のことはしないで離れようとした。
春千夜
春千夜
竜胆
春千夜
らしくもない事を言ってしまってから、後悔した。こんな台詞…恥ずかしすぎる。
けれど竜胆には響いたようで、瞬く間に顔が真っ赤になった。
竜胆
竜胆の体重が掛かって、シートがギッと音を立てて揺れた。同時に貪る様なキスをされて、竜胆に求められていることを実感して、幸福感に包まれた。
春千夜
自分の上擦った声なんて聞きたくないのに、狭い車内で喧しく響く。身体が熱い。頭の中が蕩けてしまいそうだ。
──…竜胆も俺と同じように、幸せに浸っているだろうか。…もっと喜ばせたい。
……でも、どうしたら良い……?
そうこう考えている内に、竜胆の唇が離れた。俺はとっさに首の裏を捕まえて、慌てた勢いで余計なことを告げてしまった。
春千夜
竜胆の家には何度か訪ねたことがあったが、来る度に広いと感心する。
しかし前に来た時よりも物がスッキリとしていて、違和感を感じた。
春千夜
竜胆
そう話す竜胆からは、一切の未練が感じられない。俺と距離を置いていた期間で、完全に吹っ切れたのだろう。
竜胆
春千夜
悔しい。いくら梵天の組織内では俺の方が上だとしても、竜胆からすれば俺が2歳年下な事には変わりない。
春千夜
洗面所で手を洗ってリビングに戻ると、ソファーに座った竜胆の横には小振りな紙袋が用意されていた。
竜胆
竜胆に下の名前で呼ばれると違和感がある。特別近しい仲ではなかったにしろ、もう10年以上の付き合いだ。耳慣れない。けれど不思議と嫌ではない。
言われた通りに竜胆の前に行くと、奴は膝を叩いて示した。
竜胆
やっぱりおかしい。Kneel(跪け)以外で俺を座らせるなんて初めてだ。嫌でも関係性が変わったことを実感して、顔が熱くなる。
俺も男で体重はそれなりにあるから、遠慮しながら竜胆の膝にまたがって座った。
竜胆
視界が暗闇に包まれる。ガサガサと音が聞こえて、紙袋から何かを取り出しているのが伝わってくる。
首に何かを巻かれた。──…露骨すぎて解るに決まってる。俺は今、竜胆に首輪を贈られている。こんなの…ちょっとやそっとの覚悟じゃできないことだ。
首輪を見なくたって涙が溢れ出す。……竜胆は俺を生涯のパートナーにすると決めたんだ。
竜胆
竜胆に何かを握らされた。目を開けると、視界に映ったものは俺の予想を越えるもので驚いた。
竜胆も首輪をしていて、リードもついている。俺は竜胆のリードを握っていた。
竜胆
春千夜
Domが自ら首輪をつけるなんてあり得ない。コイツはプライドを捨ててまで俺に愛を伝えるのか──…。
竜胆
春千夜
竜胆
ずっと求めていた。
お前に抱き締められることを。お前の笑顔を見ることを。お前に愛されることを──…。
お前の存在が、いつも暗雲がかっていた俺の人生を変えてくれた。
愛しいなんて言葉じゃ足りない。──…1つに、なりたい。
春千夜
やっぱり竜胆はキスが上手い。これだけで全身が蕩けて、全てを竜胆に委ねたくなる。
竜胆
セーフワードはDomがいきすぎたプレイをしないように、Subが本気で拒絶していることを示すための言葉だ。
本来は初めてのプレイの前に決めておくものだが、パートナーになりたての時はお互いにそんなことを決める雰囲気でもなかったから、致し方ない。
春千夜
竜胆
春千夜
もう竜胆を拒むような事はしたくない。俺なりの決意だった。
竜胆
狙ったわけではないが、竜胆のツボだったようでグリグリと頭を撫でられた。やっぱりガキ扱いされている。
竜胆
春千夜
竜胆
春千夜
竜胆は俺が素直になれないことをわかっててわざと言ってる。口元が笑ってるから絶対にそうだ。
シャツのボタンを1つ1つ外されて、胸元が露になっていく。首筋に幾度もキスされて、背筋がゾワゾワとした。
むず痒い。何かが物足りない。答えはもう解っている…。
春千夜
竜胆
春千夜
竜胆
春千夜
春千夜
言葉にすると、すっと胸が軽くなった。
──今までずっと憎らしく思っていた自分のダイナミクスを、やっと受け入れることができた。
俺はSubだ。別にDomやNormalに劣っている訳ではない。
マイナス思考だし、Domとは違って精神も肉体も強くはない。けれどパートナーが俺の不足した部分を埋めてくれることで、俺はどのダイナミクスよりも幸せになることができる。
竜胆は驚いた様に見開いてから、嬉しそうに微笑んで抱き締めてくれた。
竜胆
竜胆
窓から青白い光が差し込んで、隣では竜胆が眠っている。一丁前に腕枕をしているが、手は疲れていないだろうか。
うっかりアラサー男の寝顔を可愛いと思ってしまって、頬を撫でてみた。
俺の性的嗜好から、被虐心が消えていた。竜胆はそれに気付いたみたいで、最初から最後まで優しく抱いてくれた。
春千夜
俺はきっとSubであることが受け入れられなかったせいで、自分を追い詰める行為に快感を感じていたんだと思う。
コマンドはずっと呪いの言葉だと思っていた。でもどうやら違ったみたいだ。
春千夜
朝が来て、目が覚めたら全部夢だったらどうしよう。そんなことを考えてしまうくらいには、幸せで満たされている。
春千夜
──…永遠に、この時間が続けばいいのに。
コメント
39件
あぁ、、、もう何回見ても幸せェェェ…😳
妹から勧められ見ました〜、 凄い作品ですね✨見た甲斐がありました〜!笑
本当は、もっと長く書いてたのに、、、、