9月も半ばに入ったけど衣替えをするにはまだ早い。
太陽がまだ夏休み気分でいるのか___いや、今日はたぶん違う。
赤、青、黄色、黒、紫。 5色の鉢巻を巻いた全校生徒が退屈そうに校長先生の話を聞いている。
風にはためく団旗。圧倒的存在感を発揮する入場ゲート。モールなどでデコレーションされたメガホン。
あちこちに見受けられる青春の象徴たちが今日はまだまだ暑くなるであろうことを予想させる。
_____今日は体育祭だ。
開会式が終わると生徒達は自分の所属する団(この中学はチームを「団」と呼ぶ)のテントに向かう。
最初の競技は2年の学年種目だし、体育祭の諸活動は1、2年が中心だ。 俺は柚月と一緒にクラスの集団の最後尾を のんびりと歩いていた。
___入場ゲート(退場門の役割も兼ねている)をくぐって少し歩くと、デジカメを持った元カレ先生の姿があった。
三津屋 篤
西谷 春翔
先生に声をかけたのは同じクラスの三津屋(みつや) 篤(あつし)だ。 生徒会長を務めていて とにかく人望が厚い。
人当たりの良い笑みを浮かべ「せっかくだしクラス写真撮ろう」と提案している。反発する生徒は1人もいない。
あっという間に(他の人の通行の妨げにならない場所で)写真を撮る態勢が出来上がった。
今は撮影係を任されているらしい先生が口を開くより先に、生徒会長が俺と柚月に爽やかな笑顔を向けた。
三津屋 篤
俺と柚月が集団の中に入って行っても大袈裟なため息の音は聞こえない。
それは 身長高いくせに率先して集団の真ん中に向かおうとする吉田ではなく、自分は端で微笑む生徒会長がクラスのリーダーだからだと思う。
このクラスの雰囲気なら 午後からの部活対抗リレーに出る為 昼食を柚月と一緒に食べることが出来なくても大丈夫だろう。
11時頃に借り物競争、 昼食を挟んで午後の部最初の競技が部活対抗リレー。13時半頃、 最終競技に3年の学年種目。15時頃…
__今日は孝太君と柚月君の通っている中学の体育祭だ。 今年は休日に開催されたと言うことで
柚月君の誕生日会のメンバーで体育祭を見に行くことになった。 (柴本君は大学のレポート締め切りが近いので不参加らしい。のぞみも同じ学部では…)
柴本君の妹さんが1駅向こうに住んでいるので駅前で待ち合わせており、待ち合わせ場所には私が1番のりだった。
孝太君からラインで送られてきた体育祭のプログラムを しっかりと確認していると
柴本 桃花
相原 澪
柴本 桃花
相原 澪
柴本 桃花
相原 澪
柴本 桃花
妹さん__桃花さんは可笑しそうに微笑むと、視線を遠くに向けた。
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
髪が風になびいて桃花さんの表情はよく見えなかった。ただその声が涙を堪えるように震えていた気がした。
桃花さんは私の視線を避けるように顔を背けた。
柴本 桃花
俺が予想した通り、グラウンド内の温度は生徒達の熱気で上昇したようだ。
得点ボードを見に行く道中にも楽しそうに はしゃいでいる人とたくさんすれ違った。
鳴沢 柚月
山崎 孝太
鳴沢 柚月
山崎 孝太
なぜかアユミ先生は俺が交際していることを把握してるしなぁ…と思っていると
鳴沢 柚月
隣で柚月が小さくよろめいた。 柚月を支えながら状況を確認すると、誰かが柚月にぶつかったようだ。
ぶつかった相手はというと___謝りもせずに連れの人とじゃれあっていた。
「お前さぁふざけんなよ」 「うっわ来んな菌が付く」 「お前にも感染させてやる」
__とヘラヘラ笑いながら追いかけっこを始めた「ぶつかった相手」は やっぱり吉田の取り巻き達だった。
吉田のグループは3年のクラス替えでバラバラに解体されて大人しくなったが、今日のような全クラス合同行事になると途端に面倒臭くなる。
山崎 孝太
鳴沢 柚月
俺は顔を強張らせてる柚月を促して「タッチ」だの「バリア」だの言ってる取り巻き達に背中を向けた。
__「バリア」とか幼稚園児かよ
西谷 春翔
軽快なBGM。黄色い歓声。元カレ先生のゴマすり。
グラウンドは運動会独特の雰囲気に包まれていた。 ……いや最後のは違うな。
グラウンドの4分の1のスペースに設けられている観覧席は既にたくさんの保護者がいた。
救護テントの隣に狭いけど観戦は出来るスペースを発見したのでそちらに移動する。
相原 澪
山川 のぞみ
相原 澪
山川 のぞみ
相原 澪
___グラウンドにかかっていたBGMが曲の終わりに差し掛かったようだ。次の曲がかかるまでに若干の間が空く。
だからなのか。 私たちの後ろを通る中学生達の会話が把握出来てしまった。
吉田
取り巻き
聞き覚えのある名前が隠れていた気がして思わず振り返った。
黒い鉢巻を巻いた、中学生にしては背が高い男の人と、青い鉢巻を巻いた人が並んで歩いていた。 黒い鉢巻が再び口を開く。
吉田
取り巻き
吉田
取り巻き
吉田
取り巻き
黒鉢巻と青鉢巻は「感染」とか「性欲」とか言いながら走って行った。
……改めて柚月君が大変な立場に置かれていることを実感する。 隣の のぞみも悲しそうに目を伏せていた。
同じく一連の行動を見ていた圭佑君が吐き捨てるように呟いた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山川 のぞみ
溝口 圭佑
山川 のぞみ
中学生達が去って行った方向を再び見やった圭佑君が何か言おうとしたけど、のぞみが先に口を開いた。 のぞみはもう 先ほどの方向を見ていない。
山川 のぞみ
山川 のぞみ
山川 のぞみ
____こういうことが言えるから のぞみは凄いと思う。
それは簡単なようで凄く難しいから。年が離れてたら なおさら。
溝口 圭佑
圭佑君が感慨深そうに呟くと桃花さんもコクコクと頷いた。
山川 のぞみ
山川 のぞみ
運動会の定番競技とあってグラウンドはかなり盛り上がっていた。
今年は際どいお題もあるとのことで、それが更に盛り上がりに拍車をかけていた。 「彼女」とか出たらしい。すごい。
そんな中、いよいよ孝太君の番が来た。 スタートラインに立った孝太君は私たちの存在に気づくと小さく会釈した。スゴイ。
ピストルが鳴り、赤い鉢巻をなびかせながらお題が用意されている机の元に走る。
__お題を確認した孝太君は一瞬だけ顔をしかめると まっすぐこちらにやって来た。
ものっすごい嫌そうな顔で孝太君はとある人物に声をかけた。
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
圭佑君は面倒臭そうにため息を吐きながらもグラウンドに足を踏み入れた。
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
孝太君と圭佑君は何やら言い合いしながらゴールに向かって行った。(1着でゴールしたことには2人とも気づいてない様子)
山川 のぞみ
相原 澪
目を細めてまだ何やら言い合いしている2人を眺めていると
柴本 桃花
山川 のぞみ
柴本 桃花
桃花さんの視線は孝太君___ではなく圭佑君に注がれている。 そこから視線を外すことなく、桃花さんは再び口を開いた。
柴本 桃花
~bitter 9~ (回想)
………… っ!~~~~~~~! っご
ごめんなさい!わ、私今…
ごめんなさい本当にごめんなさい!ぜ、全部聞かなかったことにしてください
本当にごめんなさい!
もしもし朋ちゃん?
うん。ごめんね心配かけて。 ……朋ちゃん。私ね
…………言っちゃった
うん。本当。 私のこと友達としか見てないんだって
これからもずっと そうなんだろうなって分かったら、なんか気持ちがブワァ~~ってなっちゃって
もう本当何してるんだろ私
…いきなりあんなこと言って溝口君 混乱してるよね。ちゃんと説明しないと
……体育祭?朋ちゃんの弟さんの?だったら彼女さんも来て溝口君も来るよね。説明するならその時かな
その時に ちゃんと気持ち説明して正々堂々 振られて来る
振られるよ~ 溝口君本気で彼女さんのこと好きだから
こんなこと言ってるけど、今すごいスッキリしてる
ほぼ八つ当たりだけど 自分の気持ちに正直になって伝えられたからかな
よく周りに「しっかりしてそう」って言われるから、その通りに振る舞わなきゃって思ってたけど
私だって我が儘言いたい時があるんだからね
~bitter(?) 10~
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
山川 のぞみ
相原 澪
柴本 桃花
山川 のぞみ
溝口 圭佑
柴本 桃花
観戦してる保護者の輪を抜けてフェンスの方まで移動した。 観戦には不向きな場所らしく人通りは少ない。
柴本 桃花
柴本 桃花
恥ずかしくて顔は見れない。声も声援と音楽でかき消されそうた。 それでも、嘘偽りのない私の気持ちだ。
止まらない。 止めない。
柴本 桃花
数秒経って、かえって来たのは予想通りの答えだった。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
知ってる。
溝口 圭佑
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
柴本 桃花
もたれていたフェンスから背中を離した。 1歩前に出て、恥ずかしさを押し殺して振り向いた。
柴本 桃花
それだけ言って彼女さん達___澪さんと のぞみさんの元に駆け出した。
現実は少女マンガのような事は起きず苦いことばかりだ。 先日の取っ組み合いで一部の生徒を敵に回したし相変わらず雑用を押し付けられる。
___でもきっと苦いだけじゃない。
今この瞬間、私は心の底から楽しいと思えるから。
後片付けを行ってるグラウンドを眺めながら校舎を出た。
俺の中学の運動部は部活対抗リレーが3年の最後の舞台となる。なので引退式も体育祭の後に行うことが多く、俺はそれに出席していた為1人で下校していた。
非日常空間だったグラウンドは徐々に普段の景色を取り戻していく。
それを見てると 夏も終わったんだなぁ と少しだけ寂しい気持ちになる。特に今年は受験生なので尚更。
西谷 春翔
山崎 孝太
西谷 春翔
いつの間にか俺の背後に両手を腰に当てた先生が立っていた。
山崎 孝太
西谷 春翔
西谷 春翔
西谷 春翔
西谷 春翔
山崎 孝太
西谷 春翔
西谷 春翔
遠くで先生の悲鳴が聞こえる。片付けの邪魔をしたら悪いので その場を後にすることにした。
夏が終わる。 周りもそろそろ気を引き締め始めると思う。
俺も第一志望合格のために頑張らないといけない。
___受験ムードが漂い出す秋が始まる。
コメント
3件
第3章、お疲れ様でした! 今回もすごい素敵な作品でした! やっぱり、第3章はbitterがすごく見所だな、と感じました!孝太君と澪さんも好きなんですけど桃ちゃんも可愛い...♡ 次回も楽しみにしてます✨✨
・第3章、完結です!!次回から第4章「ハロウィン」編が始まります😌 ・とあるテラー民のお名前をお借りしました😳(許可は頂いております)ありがとうございます。 ・四天王の「彼」が久しぶりに出て来ました(次回も出ます)。前の13.5話も併せてヘイトは溜まってると思います。さぁ、振るのです、炭酸を! 読んでくださりありがとうございました❗