俺の片割れで全部だった
冷たくなる体
重力に沿うように重くなる
鮮血の紅が広がる
半身を失った蜘蛛はどうなるのか
そんなの決まってる
”死”以外に何も無いから
いつものように掃除に出かけた
普段トンでハイになってる中毒者は生憎俺たちと同じ場所じゃないらしい
だから仕方がないから二人で向かった
俺らは二人でひとつ
死ぬ時も一緒
その筈だったのに
少しオハナシが長引いて後処理を部下に任せたところだった
バンッ…!!
重苦しい乾いた音が密室に響いた
スクラップ野郎が発砲した
隣から崩れ落ちた音がして
全身の血の気が一気に引いたような感覚に陥りながらも恐る恐る振り向いた
俺と揃いの型をしたスリーピースのスーツが紅く染っていた
倒れた俺の片割れを見つめた
状況が理解出来ない
どうして、どうしてなんだ
リンドウ「にぃ、…ちゃッ…」
弟が…片割れが俺を呼ぶ
直ぐにそのからだを抱きあげれば微笑む竜胆
ラン「竜胆ッ…」
リンドウ「に、、ちゃ…ッぁのさ、、」
ラン「喋るな馬鹿野郎ッ」
俺の頬に手を当てる竜胆
俺はその手を握るけど
その手が竜胆の鮮血でヌメリ出す
しっかりと握っても俺の手から滑り落ちていくかのような感触に全身の血の気が引く
あぁ、嫌だ、何も言わないで
俺のそばにいて
片っぽしか無くなったら死んでしまうじゃないか
リンドウ「だ、いすきッ…あり、がとね、…ちゃんと、飯、食ってよ…に、ちゃ…」
ラン「竜胆ッ…嫌だ、、兄ちゃん許さねぇぞッ…」
リンドウ「眠たいよ…に、ちゃ、…俺ら、、ずっと、一緒…だよね、?」
ラン「竜胆寝たらダメだッ…目閉じんなッ、おい!」
リンドウ「に、ちゃん、、ずっと、一緒…」
にっと笑った竜胆の腕が俺の頬からストンと落ちた
ああ終わった
すごく短い時間だった
なんで、竜胆なのか
俺からなんで片側を奪うのか
俺の可愛い可愛い竜胆は白くなった
ああ、、冷たい
冷たいよ、竜胆…
俺は重たくて冷たい竜胆を優しく抱いて車に乗った
ラン「ここから一番遠い別荘…」
ただそれだけポロッと部下に伝えた
運転手は無言で車を発車させた
山
山
ひたらすら山の中を走る
俺の膝に寝転んでいる竜胆は微笑んだまま動かない
もう目を開けることも無くて
俺の名前を呼ぶことも無い
昔から片時も話さなかったあの体温を感じることも無い
程なくして一軒の家に着いた
暫く迎えに来るなと告げて帰した
竜胆を引きずるようにして家に入る
埃っぽくていつもの家とは違う匂い
竜胆を横たえて、血塗れの服をどうにかしてやる
血を吸ってかわいたスリーピースのスーツからは変な感触がした
肌に残る蜘蛛の半身
俺と永遠に人生を分けると決めたその日から体に刻み込まれたこの証
指でなぞっても擽ったそうにする竜胆はいなくて
ただ笑顔の冷たく白い人形が横たわってるだけのように感じた
もう何も考えたくない
俺を置いていかないで
ただそれだけで頭が埋め尽くされる
ラン「竜胆…やだ、、置いてかないで」
ラン「ふざけんじゃねぇよ、、なんで片っぽ置いて逝くんだよ…」
ラン「兄ちゃんさぁ、、お前のプリン食ったよォ、?…服も破いたしさぁ、、靴も汚したし…」
ラン「いつもみてぇに、兄ちゃんッて、俺のこと叱ってよ…」
返事が来るはずもないのに
俺は話しかけた
頬を生暖かい雫が滑っても
俺は何も言わずにただ、ただ、話しかける
片っぽの蜘蛛がいなくなるのが嫌で、縋り付く
その蜘蛛に舌を這わせて
どんなに擽っても、竜胆は起きてくれない
いつもなら、嫌だって頬を染めて拒絶するのに
もう、ダメだ
俺の精神は死んだ
冷静な判断なんてもんは頭から消えた
ただ、片割れが欲しくて
一緒にいて欲しくて
隣にいて欲しくて、繋がっているものが欲しくて
きっと何をしても手に入らないし満たされない
そんなの分かっていたけど
涙でぐちゃぐちゃの顔も、真っ黒な感情で満たされた頭も
訳が分からなくなって
でも寂しくて…
竜胆が欲しくなった
ラン「竜胆には、、俺と同じ血が流れてんだよォ…どう頑張ったって離れられねーよォ…」
愛する弟の心臓にその辺にあったナイフを取り出して刺す
また、血が溢れ出した
なんでだ、竜胆は白いのに体の中にある俺と同じ液体は鮮やかなんだ
溢れて止まらないその紅を俺は飲み込む
鉄のような味と、不快感に苛まれながら、俺は喉を動かす
出てこなくなったらまた刺して
刺して刺して刺して
仕舞いには内臓にすら手を出した
気持ち悪いけど、なんだか幸せで
俺はひたすらに弟を喰らった
血を分けた兄弟を
まるで俺の体の細胞を1から全て竜胆で形成するように食べ尽くす
そのうち竜胆は空っぽになって
それと引き換えに俺は真っ紅で汚くなった
気持ち悪くて吐きそうだ
涙も底を知らないというように出てくる
あぁ、俺はもう戻れない
こんなにお前とオナジで満たしても
俺は幸せになれない
体が震え出す
あぁ、やっぱり俺には竜胆がいなきゃいけないんだよ
俺たちは上手に生きられなかったし
きっとアッチでも幸せにはなれないけど
俺はお前がいるならどこでも幸せに生きていける
煉獄だって地獄だって、一緒に歩いてやるから
また優しい声で
「兄ちゃん」
って呼んでよ
ラン「ごめんなぁッ、、ごめんな、竜胆…」
ラン「また、二人で…ひとつになろうな…」
自分がぐちゃぐちゃにしてしまった弟の体を優しく引き寄せてキスをする
柔らかく手を握って、震える手でこめかみに銃を押し当てる
ラン「竜胆、、俺達はいつまでも一緒だよ」
ラン「愛してんだから…置いてくなよ、、馬鹿竜胆…」
笑顔でサヨナラをした
殺伐とした山の中
柔らかい笑顔で横たわる二つの蜘蛛は
きっと、アッチではひとつになって歩くのだろう
彼らの死に際を見たものは誰もいない
醜く美しい蜘蛛は
月夜の光に照らされて
もがくことなく死んで行った
庭に咲く蘭と竜胆を残して
Fin_
コメント
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竜胆の蘭の開花時期がズレてるのは気にしちゃダメよ☆(
あぁあ、、、天才すぎて 、、蜘蛛で表現すんの良い、すき、、、
あぁぁあ、すげぇ、泣ける(´;ω;`)