私は室長室の前に来ていた。
これでもう、教官は苦しまなくなると信じて。
コンコン
室長
誰だー?
榊理央
榊理央です
室長
入ってくれ
榊理央
失礼します
室長
どうした、こんな朝早くに
榊理央
実は、お願いがあって来ました
室長
何だ?
榊理央
私を加藤教官の補佐官から外してください
室長
…なんだって?
榊理央
私のせいで、教官は嫌な思いをしました
榊理央
だから、もう、教官の隣にいる資格などありません
榊理央
どうか、お願いです
室長
…そうか
室長
分かった
室長
ただ、お前には石神の補佐官になってもらうが、いいか?
榊理央
はい
榊理央
構いません
室長
そうか
室長
じゃあ、今日から頼むぞ
榊理央
はい
榊真央
理央…
榊真央
補佐官交代の紙、貼ってあったよ
榊真央
本当に、言いに行ったんだね
榊理央
もちろん
榊理央
教官には、もう、会わせる顔がないから
榊真央
そんなに責めない方が身のためだ
榊理央
うん
榊理央
そうだね…
榊真央
じゃあ、気を取り直して
榊真央
食堂行くぞー!
榊理央
うん!!
石神教官の補佐官になって、あっという間に1ヶ月。
もうすっかり慣れた。
仕事がすぐに終わるので、たくさん休めるし、次の授業の勉強を教えてもらうこともできる。
榊理央
(いっそ石神教官を好きになっていればよかったなあ…)
石神一樹
理央、どうした?
榊理央
いえ、何でもないです!
石神一樹
最近浮かない顔をしているが?
榊理央
そうですか?
榊理央
きっと気のせいですよ!
石神一樹
…
石神一樹
嫌か?
榊理央
えっ?
石神一樹
俺と一緒にいるのは、嫌か?
榊理央
いいえ
榊理央
嫌じゃないですよ?
石神一樹
…
石神一樹
そんなにあの大福野郎が気になるか?
榊理央
加藤教官のことですよね?
石神一樹
あいつ以外に誰がいる
石神一樹
あいつと付き合っていたんだろう?
榊理央
そうです…
石神一樹
なぜ補佐官を辞めた?
榊理央
確かに付き合ってましたけど…
榊理央
あれは偽物です
石神一樹
偽物?
榊理央
はい
榊理央
他の男子生徒を寄せ付けないために
榊理央
虫除けになってもらっていたんです
榊理央
でも、加藤教官が傷つくくらいなら、もう終わりにしようと思ったんです
石神一樹
なぜ傷つくと思った?
榊理央
それは、いろいろです
石神一樹
そうか
石神一樹
無理には聞かない
俺は気づいた。
教官室のドアの目の前に、加藤がいることを。
俺はわざと加藤を挑発しようと、ある一言を理央に言った。
石神一樹
…俺にしてみないか?
榊理央
…何をですか?
石神一樹
分かっているくせに、言わせるな
榊理央
(まさか、これは…)
石神一樹
俺は理央が好きだ
榊理央
!
石神一樹
あんな暴力男じゃなくて、俺にしろ
榊理央
!!
榊理央
触るなっ!
石神一樹
!?
理央が握っていたのは、木刀。
こんなものを持っていては、俺は無傷では済まされない。
石神一樹
…いいのか?
榊理央
…何がですか?
石神一樹
お前の生い立ちも、生活環境も、全てバラすぞ
石神一樹
榊理央
石神一樹
本名、蜂青龍
石神一樹
中国で最も大きいマフィアの長女
石神一樹
代々暗殺で生計を立てて来た一族
石神一樹
こんなことを知って、お前はこの学校に居られると思うか?
榊理央
…ご自分で調べられたのですね
石神一樹
ああ
榊理央
そんな脅し
榊理央
私には聞かない
榊理央
たとえ真央に口を聞かれなくなっても
榊理央
どんなに除け者にされても
榊理央
嫌がらせされても
榊理央
私は公安刑事になりたいんです
榊理央
私の一族が犯した罪を
榊理央
償うために