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六月の夕暮れ。雨はしとしとと、空から途切れることなく降り注いでいた。
璃子は制服のブレザーの袖を気にしながら、駅へと続く細道を歩いていた。
そのときだった。 視界の先、紫陽花の咲き乱れる小径で、ひとりの少女が傘も差さずに佇んでいた。
雨粒に濡れるのも構わず、彼女は小さな声で鼻歌を歌っている。 肩までの黒髪が頬に張りつき、白い首筋を濡らしているのに、まるで気にしていない。 むしろ、雨に打たれるその姿は、絵の中の人物のようで。
璃子は思わず足を止めた。 胸の奥が、きゅう、と締め付けられる。
目が離せなかった。 その笑顔に、声に、全てに――。
璃子
思わず口からこぼれた言葉は、雨音に紛れて消えた。
少女はやがて、雨の帳の向こうへと歩き去っていく。 残された璃子の耳には、まだその鼻歌が響いていた。
――これが、美咲との最初の出会いだった。